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聖なる霊





 ブロンウィンは、あの“ヴェロア王国物語写本”を食い入るように読んでいた。


 この本に“呪い”を解く鍵がきっと隠されているに違いない。そう信じて疑わなかった。


 どうも、この一番最初に出て来る“サヴラ”が鍵を握っている様な気がしてならない。


 非業の死を遂げたアズウェル第三王女サヴラ。

 彼女はヴェロアの王子の許嫁だった。


 若くしてこの世を去るのはさぞかし無念であろう。しかも婚礼も間近に控えていたとある。


 それで済めば良かったのだ。

 それで済めば、王子の心も長い歳月のうちに癒え、サヴラ王女も天国へ召される筈だった。


 しかし、王子はサヴラの死を嘆き悲しむあまり不老不死の妙薬とされる“竜の血”を飲ませる。


 “竜の血”を死人に飲ませると云う禁忌。

 サヴラは蘇ったが、もはや人の形と心を留めて居なかった。

 自分をこの様な姿にした王子を恨み、何処かへ消えた。  

 王子もまた、その後王位を継承した後、忽然と姿を消した。


 人にあらざる者となり、王子への、ヴェロアへの怒りと恨みを抱きながら長い時をさ迷っていたのだろう。


 時に側室の座を奪い、国を滅ぼす程、その憎しみは深かったのだろう。  

 ブロンウィンは涙した。悪いのはヴェロアの王子べリアルではないか。


 しかし、愛する者を失い、その魂を呼び戻す為に禁忌に手を染めた王子を、どうして責める事が出来ようか。


 このような、あまりにも悲しい歴史がこの国には在ったとは。


 城の紋章に、そしてこの本の表紙に記されている竜は、不老不死の妙薬を取るため殺された竜。


 悲しみの連鎖が王女の心を締め付けた。


   



 私の宝を教えましょう


 私の瞳をみてごらん


 そこに映るそれこそが


 それが私の宝物



 考えが煮詰まったブロンウィンは、ヴェロアに伝わる子守唄を口ずさだんだ。

 この歌にあるように、探している答えは意外と近くに在るのかもしれない。


 昔、塔に幽閉されしフラウヒルデ王女が死んでからも歌っていたと云われる歌。


 それを彼女は伝えたかったのかもしれない。


 ブロンウィンの心は恐ろしさより悲しみに満ちた。






 その時、何かの気配を感じて鎧戸を開け放した窓を見ると、満月でも出ているのか眩しい程に明るかった。


 ―きっと、私の知らない昼の世界は、このように明るいのだろう―


 その光を浴びてみたくて堪らなくなり、窓辺へ歩み寄ると、そこには摩訶不思議な光景が在った。


 月の光だと思ったのは、光輝く子供だ。


 波打つ髪も翻るローブも金色こんじきの光に包まれている。

 そして、宵闇の中に浮かんでいるのだ。 と、云うよりその子供そのものが光を放っている様だった。


 「フラウヒルデ王女」


 ブロンウィンには、一目見ただけで、その者の正体が解った。


 特異な力を持って生まれて来た為に、塔に幽閉されし王女。

 そのような目に遭いながらもヴェロア城再建の道を切り開いていた王女。 

 今はヴェロアの守り神として祀られている。


 「よくぞ妾の正体が解ったの、ヴェロアの王女よ」


 「お待ち申しておりました。ヴェロアの守り神よ。どうぞヴェロアを“悪しき者”から救う術を教えてください」


 暖かな金色の光。それに包まれると悪しき者は全て滅するだろうと思われる程の聖なる光。


 「ヴェロアの王女よ、この城に伝わる王女の守り刀をこれから先携えておくがよい。これから、そなたに掛けた“守り”を解く。その月の短剣と太陽の短剣で“悪しき者”を滅するのじゃ」


 「……守り……?」 


 “守り”とは……そのお陰で王と王妃が変貌してゆく中。自分だけが変わらずに居られたのか。


 ブロンウィンは全てを悟った。


 「フラウヒルデ王女、十五年の長きに渡り私を守ってくれてありがとうございます……しかし、月の短剣と対を成す“太陽の短剣”は行方が知れません……」


 “太陽の短剣”は双子の姉が持っている。


 昔王妃がそう云っていた。


 しかしその双子の姉とは?


 フラウヒルデは静かに微笑むと、その小さき手をブロンウィンの額に当てた。


 それは温かく柔らかい感触がし、心の中にある不安や悲しみが全て浄化されるようだ。


 そして、今まで誰もが“呪い”だと思っていた“昼と夜を分かつ双子”の謎が、全て解けた。


 そう、それこそが“悪しき者”の目をあざむく為の“守り”


 やがてフラウヒルデ王女が姿を消し、夜空が白み、朝日が登っても夜の王女ブロンウィンはその光景を見続けていた。


 生まれて初めて見る朝日を。










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