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混沌の王





 ヴェロア国王エーリッヒ二世は、自分が目覚めているのか眠っているのか解らず、生きているのか死んでいるのかさえ解らなかった。


 不安と疑心、憎しみと怒り、そして悲しみが混沌とし、それらの物が濁流となり、その渦中をさ迷う様だった。


 ―余はいつからこうしているのだろう?― 


 記憶すら曖昧で、自分が何者なのかも忘れてしまいそうだ。


 時折、誰かが自負の頭を撫でるのを感じる。


 しかしそれは愛する王妃や王女の柔らかく優しい手では無く、何か、ざらりとして冷たく、禍々しいものだ。


 触れられる度、おぞけが走り、不快感が襲う。


 だが、彼はそれから逃れる事は出来ない。

 ―この悪夢から目覚める事が叶わぬのなら、いっその事余を殺せ、禍々しき者よ―


 王は思った。しかしそれは声にならない。




 ふと、闇の中に光が瞬いた。


 暗闇しか見えぬ筈の王の目に捉えられたその光は次第に人の形をとり、光輝く幼女の姿になった。


 「ヴェロア王国エーリッヒ二世よ」

 その幼女は、その姿に似つかわしい愛らしい声で、されど、まるで女神の様な威厳のある口振りで王に話掛けた。


 「妾の言葉を聞くがよい。そなたは“悪しき者”の手中にある。逃れたくば、僅かな勇気を奮い起こすのだ」 


 “悪しき者”と訊いて、王の脳裏には首だけになった老婆が呪いの言葉を吐く光景が浮かぶ。


 ―やはりこれは、あの老婆の呪いなのか?―


 光輝く幼女は王に向けて手をかざす。するとどうだろう?王の耳の孔から冷たく小さなものが、するりと這い出でて来た。


 それは、小さな黒い蜥蜴とかげだ。


 光輝く幼女がそれを拾い上げた瞬間、塵になり消えた。


 それと同時に、王に視界が戻った。 


 寝室の天井が見える。

 

 意識が明瞭になり、歪んでいた精神が、真っ直ぐに延びたような清々しさを感じた。

 まだ身体の自由はままならぬが、目が見えただけでも王にとっては希望の前兆のように思えた。


 しかし、光輝く幼女は消えていた。


 「お待ちくださいフラウヒルデ王女」


 王は確信した。あれは数百年前、この国を救ったフラウヒルデ王女の聖なる霊だ。と。








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