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双子の誕生

†   



 それは、嵐の夜だった。



 ヴェロア王国王妃アウレリアは押し寄せる陣痛の波と戦っていた。


 丹精なかんばせは苦痛に歪み、見事な金髪は汗で濡れて肌の至るところに貼り付いている。



 城御抱えの高齢の産婆でさえ、狼狽える程の難産。



 ヴェロア王エーリッヒ二世は時折聞こえる愛する妻の絶叫を聞きながら産室の外で震える手を握り締めていた。



 稲光が鎧戸の隙間から漏れ、そのすぐ後雷鳴が轟いた。



 その時だった。



 雷鳴にも負けじと大声で泣く赤子の声が聞こえたのは。






 産室の扉が開き、疲労困憊の産婆が叫ぶ。



 「王様、お生まれになりました!」




 若き王は産室の王妃の元へ走り寄り、そして、喜びとも落胆ともつかぬ表情で生まれたばかりのわが子を見た。









 玉のような赤子。


 生まれたばかりで、まだ肌が赤いが、ふくふくとして愛らしいその姿。



 なのに、王はその赤子を抱き上げる事も、王妃にねぎらいの接吻をする事も忘れ、呆然とその場に立ち尽くして居た。



 やがて産婆がばつの悪そうにこう告げる。



 「おめでとうございます。王女様お二人の御誕生です」



 ……と。







.



 「なんと……!双子の誕生とは不吉な……!」


 城抱えのまじない師は、王の話を聞くと醜い鼻の上に皺を寄せ、そう云う。


 「単なる迷信であろう、あの愛らしい二人の赤子が国に災いを持って来たとは到底思えぬ」


 王は反発してみたが、前国王の代からこの城に仕えて来たまじない師である。


 国の窮地を幾度となく救って来たと聞いている。

 このまじない師の言葉は絶対なのだ。



 「王よ、国より一時の感情を優先するのか?呆れたお人じゃ、前国王がお聞きになったら何と言って嘆かれる事か……」


王の顔が氷水を被せたように青ざめる。



「ならばどうすればいいと云うのだ!?」



 「王女のどちらか一人を殺しなされ。残ったもう一人王女を大切に育てればよい。それだけのことじゃ」









.

† 



 王妃御付きの女官フローラはわが耳を疑った。


 「王様……今、なんと仰いましたか……?」


 「双子の王女の片方を殺してくれと頼んだのだ」


 フローラは、誠実で心優しいと慕われたこの王が乱心したのかと危惧した。


 「双子が不吉の前兆とは昔からの言い伝えでございますが……あれは迷信ではございませぬか?」


 「余もそう思う。だが仕方がないのだ……」



 王はそう言いながら辺りを見回し、誰も居ない事を確認するとフローラの耳元に顔を寄せ、小声で話をつづけた。



 「よいか、フローラ、王女と一緒に城を出るのだ。そして遠い地へ行き王女と一緒に母子として生き延びるのだ。


 いつか、あの忌々しいまじない婆が死んだ時、そなたと王女を探し出し城へ迎える。よいな?」


 フローラの顔から緊迫の表情がやわらいだ。しかし


 「王よ、私には夫と息子がございます……」



 王が何かを云おうとした時、まじない師がやって来た。



 「……よいか、フローラ。そなたにとって大変な仕事である事はよく解る。そなたの夫、ヴェロア騎士団長クラウス・ローゼンマイヤー卿には今以上の待遇、そなたの息子アーレフ・ローゼンマイヤーには成人後騎士団長の地位を約束しよう」



 フローラは、それでも、割りに合わない大役を命じられ肩に大岩でも乗せられたかのような重圧を感じていた。


 しかし、自分がこの役を引き受けなければ、間違いなく王女の一人は殺されてしまう。


 王が自分を選んだのはそう云う事なのだ……と、悟った。




 「……御意」




 伏せられたフローラの目の前に美しい短剣が差し出された。


 金の柄に美しい浮き彫りが施され、赤い宝玉が飾られている。



 ……太陽の剣……




 月の剣と対をなし、代々ヴェロアに伝わるものだった。





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