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雨と言えば――

『とあるとこの、とある少年たちのなんでもない日常


               雨と言えば――』





 「なんだかお天気さんの気分は悪いようだな」

 「見事に雨模様だな」


 俺の呟きに橘が続けていく。

 それにしても、今にも降り出しそうな雰囲気だ。

 朝は、雲が出ながらも太陽がにこにこと笑顔で出てたのにな。


 「朝の天気予想は確か……晴れのち雨。午後の降水確率は80パーセントと言ってたから降るだろうな」

 「うげ、マジかよ。朝、晴れてたから傘持ってきねぇよ」


 これはマズイな。下手したらずぶ濡れで帰る可能性大だ。

 だったら、お袋に起こられること間違いなしだな。

 と、そんな俺の顔を見て、また俺の心を読みやがったのか橘が、ハン、と鼻で笑う。


 「ずぶ濡れになって帰ったら怒られる、とでも考えてるのか?

  せめて、朝の天気予想ぐらいは見とけよ。今日一日の天気を見て、用意するのも学生だろう」

 「う、ウルセーよ! こっちゃあ、そんな余裕ねぇんだよ、朝は」


 いつも遅刻しないギリギリで起きてるからテレビなど目もくれない。

 それに今日の用意もしなきゃあいけんからさらにそんな暇がない。

 そういや、伊織も持ってきてなかったような。


 「まぁ、家に帰るまで雨が降らないよう祈っておいたらどうだ?」


 言いたいことだけ言って、自分の席に戻っていく橘。

 と言っても俺のすぐ斜め後ろだからそんなに歩くわけじゃないが。

 しかし、橘の言った通りに祈っておくか。

 雨降りませんように……雨降りませんように……。

 そんな俺を見て、また橘は鼻で笑いやがった。

 テメェ、いつか必ずこっちが鼻で笑ってやる!


            *


 ざぁーざぁーざぁーざぁー。


 俺の耳に入って鼓膜を打つ音は、言わずもがな雨音だ。

 あー、やっぱり降りやがったか。降水確率80パーセントは伊達じゃないってか。

 それにしてもやたらと降るな。それはもう、心のもやもやも奇麗に洗い流してくれるぐらいに。

 こういうときは、ブレーザーを頭に被って帰るか。

 うげ、ポリエステル30パーセントに綿70パーセントかよ。これじゃあ、吸水率高ぇじゃねぇか。

 どうして、こんなときに追い討ちをかけるように運が悪いんだ。

 前世でなにか悪いことでもやったのか? チキショウ、前世を恨むぜ……なんて言っても虚しいな、虚しすぎる。

 あー、もうでも良くなってきた。むしろ、濡れて帰ったほうが気分が良さそうだ。

 折角これだけの降りっぷりをしてる雨に申し訳ない。うん、やっぱ何事でもプラス思考だね、人間は。


 と、どーでもいい思考を巡らせたら背中をなにかで突かれた。

 折角気分が乗ってきたところで横槍を入れられたのを心の中で苛つきながら振り返る。

 そこにいたのは、なんと――可愛らしいピンクの折り畳み傘を持った、伊織だった。


 「なにかお困りのようだねー。うっふっふっふ」

 「気色悪い笑いかたをすなっ! てか、伊織は傘持ってたのか」


 伊織の傘を指差しながら言う俺。

 

 「朝の天気予想で言ってたよんよ。午後の降水確率80パーセントだって」

 「あ、そう……」


 なんだ、お前もちゃんと見てるのか。いや、こいつはそういうとこは律儀に調べてたりするから当たり前か。

 てか、見てない俺が馬鹿みたいなようで心が痛むな。


 「とろこで、ここで立ち止まってるというとこは傘をお忘れで?」

 「まぁ、そんなもんだ。朝は晴れてたからな」


 今、俺が立ってるのは昇降口のど真ん中だったりする。


 「じゃあ、あたしの傘に入れてあげるよ。家も同じ方向だし」


 おおおおおおおお、女神様の降臨だ。どうやら、俺は最後の土壇場で逆転するタイプのようだ。

 今の伊織のスマイルに後光が指して、眩しすぎて見ていられねぇぜ。

 やはり前に言った気がするが、持つべきものは用意周到な彼女だぜ。

 まぁ、単に彼女任せとも言うが気にすんな。


 「じゃあ、有り難く入らせてもらう。感謝する」


 伊織から折り畳み傘を受け取ると開ける。

 多少小さい気もするが、その点は二人が寄り添えば大丈夫だろう。

 傘を右手で持つと、伊織も傘の下に入ってくる。


 「って、なにも腕を組む必要がないだろう」

 「えー。そうしないと濡れちゃうよー。彼女を雨に濡らすなんて彼氏失格だぞ」


 くぅ、仕方ない。諦めて腕を組むとしよう。

 腕を組みながら帰ろうとすると伊織がなにやらにやけた顔で言ってきた。


 「これって傍から見るとラブラブだよねー。相合傘も古典的ながらも中々いいね」


 その言葉で一気に紅潮していくのがわかる。

 あー、指を指してひそひそ話はやめてくれ、生徒諸君。

 家に速く帰りたい一心で、俺は雨に恨むのであった。

 

 






            THE・END

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