厚着と言えば――
『とあるとこの、とある少年たちのなんでもない日常
厚着と言えば――』
空から降り注いでくるのは、黄金色の淡い光だ。
黒い画用紙の真ん中をくり抜いて、そこに黄色の絵の具を流したかのようだ。
夜空に浮かぶ月は、あまりにも神々しく見えた。
あそこに行けば、別世界に繋がっているのかと思う。
ふと、雪がぽつりぽつり振ってきた。
月光に彩られて、雪も淡い黄金色に見える。
既に降り積もっている雪道を踏みしめながら、俺たちは帰路につく。
「はぁ……寒いな。雪国出身とは言え、やはり寒さには慣れんもんだね」
「貴弘は薄着しぎるんだよ。あたしみたいにこんぐらいは着込まないと」
隣に並んで歩くのは、俺の幼馴染にして彼女――伊織だ。
『こんぐらいは着込まないと』の言葉に俺は伊織のほうへ目をやる。
ふむ、確かに暖かそうだ。一体どこで買ったのか、聞きたくなる。
いや、自分で作ったかもしれんな。こいつのことだからありえんこともない。
以前、なまはげの格好をしてたぐらいだからな。
少々みぐ……いや、かなり見苦しい点を除けば、俺も着たくなる。
まぁ、なにがあろうと着ることはなさそうだ。
そうだな、命に関わるレベルにまでならんと着ることはまずない。
「と言うわけで、俺はお前みたいな格好はお断りさ」
俺は、最高の爽やか100パーセントの笑顔を伊織に見せる。
「むぅう、なんでよ~! この雪国伝統の服装のどこが嫌ッ!?」
まぁ、なんと言うんだっけ? とりあえず、あれだ。
カヤやスゲで編んで作り、肩や背中にかける、昔の雨具――蓑だと思う。
あくまで『思う』だから、確証はない。
「なんと言うか、まず雪国伝統じゃねぇだろ、それ。昔ならどこでも使ってた雨具だろ」
「あれ、そうだっけ? 確かこの服装が伝統だったんだと思うんだけどなー」
「違う違う。思いっきりお前の勘違いだ。それに俺のどこが薄着なんだ?」
自分の服装に視線を落とす。
まず、足はどうだ。……まぁジーンズだし、これはなんとも言えんな。
それに歩いてるわけだし、暖まって足はなんの問題もない。
じゃあ、次に身体だな。まず一番下に着ているのは、Tシャツ。
これは基本だ。Tシャツの上からさらに着込めばいい。
で、次に上に着ているのはセーターだ。恥ずいが、伊織がクリスマスにプレゼント交換でくれた奴だ。
なんでプレゼント交換なんだよ。普通は、男が女にあげるものだろとか言うな。
俺もわかってるぞ。一応、男だからな……いや、生物学的にも法律的にもどう見ても男だが。
伊織が、プレゼント交換しようと言ったからだ。恐らくは、このセーターを渡したかったんだろう。
まぁ、彼氏としては嬉しいことこの上ないね。左右の袖の寸法が少し違うのは、目を瞑ってやる。
で、最後に上着だな。中々の厚着だから問題なしだ。
と、俺の服装チェック終了。
ファッションは気にしない。今は、寒さを凌げたらそれで十分だ。
伊織は右手の人差し指をあげて、チッチッチッと指を振る。
「わかってないなぁ。ほらぁ、こうしないとずっと薄着だよ」
「なっ!」
流石に狼狽したね。もう、そりゃあ。
いきなり、俺の左腕に抱きついてくるんだからさ。
しかし……悪くない。なるほど、確かに薄着だな。
「今はいいけどよ……人前とかではやろんぞ」
「えー。なんでよー」
伊織の抗議を左から右に流して、俺は赤くなった顔を隠すのに精一杯だ。
ああ、何時の間にか雪も止んでる。空から降り注ぐのは、また月光のみだ。
俺たちの幸せを祝福しているのか、俺たちのいちゃいちゃを只一人見守り続けた。
月の光は、愛の祝福――なんて、恥ずかしい言葉を思いついた俺だった。
THE・END




