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春と言えば――

『とあるとこの、とある少年たちのなんでもない日常


               春と言えば――』





 二人の戦士が対峙する。

 両方とも膝を曲げ、筋肉を撓ませて力を蓄える。

 脳からアドレナリンが放出され、戦士の闘気をより一層高めていく。

 眉間に皺寄せて、牙を剥き出しにし、瞳には炎が宿る。

 フーッと荒い呼気を吐き出し、相手を威嚇する。

 相手の一挙手一挙足を見逃さぬよう、爛々と輝く瞳は獣だ―――彼らは元から獣だ。


 何分が過ぎただろうか。いや、一分も過ぎてない時間かもしれない。

 しかし、とてつもなく時間が多く過ぎていくように感じられた。

 まるで、そこだけが別世界かのように時間が狂った感じだった。


 そして、風が吹いた。春の心地良い風だったが彼らにとっては、それは戦いの合図だった。

 火薬が引火して、爆発したかのように相手に飛び掛かる。

 細く、鋭き爪が相手の身体に喰い込み、押さえつけようとする。

 口腔から覗かせる牙は、肉を食い千切ろうと必死に相手の身体に歯を立てる。

 そのときだ。傍観してる俺の後ろから大きな声を響かせてきたのは。

 

 「ちょちょちょちょ、ちょっと待った~~~ッ! 喧嘩スト~~~ップ!」


 どたばたとやかましくやってきたのは、俺の妹である伊織だ。

 息をぜーぜーとさせながら、二人の戦士――飼い猫の香織と沙織を抱えながら縁側に座る俺の元にくる。


 「おにぃ! どうして喧嘩を止めないのよ! 怪我でもしたらどうするのっ!」


 あー、五月蝿い。猫は一匹狼なんだ。あ、狼はイヌ科か。一匹猫のほうが正しいか。

 とまぁ、そーいうわけだから同じ屋根の下に住むとは言え、喧嘩の一つや二つぐらいはあってもおかしくないさ妹よ。


 「そうじゃなくて怪我したらどうするのって聞いてるのよ!」


 ぎゃーぎゃーと喚きたてる妹の声を、耳の穴を塞いで拒絶の反応を見せる。

 それを見て、さらにやかましくなってくるが気にしたら負けだ。うん、そう思う。

 ちなみに香織と沙織は、3,4年前に伊織が拾ってきた元・野良猫だ。

 生まれてからずっと生きていたなら喧嘩はしないだろうが、元々野良であるから喧嘩は絶えない。

 初めのうちは止めに入ってたが、未だに喧嘩が耐えんとこだったから諦めた。

 相性が最悪に悪いんだろう。香織と沙織は。

 と言うか、二匹とも身体のあちらこちらに喧嘩で出来た傷があるし。

 まぁ、もっとも一番の理由は止めに入ったらこっちも傷だらけになるから嫌だ。

 服もボロボロになるし、もう嫌になるね、そりゃあ。


 諦めたのか、伊織は俺から二匹の猫に向き直る。


 「いい~? 喧嘩を駄目よ。喧嘩なんて痛いだけでなんの栄光も金も入らないわよ。

  喧嘩なんてするのは、おにぃみたいな筋肉しか能がない人間だけで十分なんだから」

 「おいごるぁ! それは聞き捨てならんぞ。別に筋肉質になりなたくてなった訳じゃねぇ。

  バイトが配達業だから仕方なくついただけで、喧嘩は相手が売ってきて逃げたくても逃がしてくれないだけだ」


 妹の言葉に反応して、すぐさまに異論を唱える。

 俺は別に喧嘩好きでもないし、筋肉も仕方ない。むしろ、なければ配達業はキツイ。


 「こーいう時だけちゃんと聞いてるのね! 最低な耳をお持ちで」

 「いや、誰だって聞き逃さんだろうが。猫が分かるとは思わんが、間違えた情報を教えるな」


 こんなアホらしい兄妹喧嘩を止めたのは、間に差し出された緑茶がなみなみと淹れられた湯飲みだった。

 持っているのは、弟分のような幼馴染で、伊織の彼氏である貴弘だ。


 「お、有り難い。やはり、春で縁側といったら茶だ。緑茶だ」

 「ありがとね」


 喧嘩を中断させて、湯飲みを受け取る。

 貴弘は伊織の横に座り、皆して茶をずずずっと渋く飲む。

 香織と沙織はお若いカップルに遊ばれ、俺は一人茶を飲み明けるのだった。









             THE・END

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