表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/13

GWと言えば――

『とあるとこの、とある少年たちのなんでもない日常 

    

               GWと言えば――』

 

 

 

 

 太陽がさんさんと温かな光を地上に差し込む。

 この河川敷のグラウンドの横に当然流れる川も乱反射してキラキラと輝いてる。

 土手の上には、犬の散歩やら恋人らしきものたちが歩いている。

 そして、土手の下のグラウンドで行なわれている草野球の試合。

 観戦を目的とした人は、斜面の芝生に腰を下ろしている。

 で、俺は草野球の試合中と言う訳で。

 しかも試合現状は、俺たちが守備で最終回ツーアウト・フルベースと中々のピンチだ。

 てか、1点差で勝ってる今、この状況は非常にピンチだ。

 シングルが出れば同点以上、それ以上を打たれたら逆転。

 もっとも相手の攻撃が表なのが幸いだ。

 裏ならサヨナラ負けだ。ピッチャーの投球が問われるところだ。

 さて、肝心なピッチャーなんだが……

 

 「オイ、聞いてるか? 貴弘」

 「あ、聞いてますよ。織佳さん」

 「じゃあ、最初に『あ』と言うな」

 

 そう言って、容赦なしに額にデコピンを喰らってしまう。

 ぐあ、綺麗に決まったからヒリヒリする。

 

 「ちゃんと頼むぜ。打たれたらアイアンクローだ」

 「Sir! Yes,sir!」

 「よし、気合入れてけよ」

 

 最後に俺の胸を軽く叩くとホームへ戻っていった。

 とまぁ、話の流れから察するように俺がピッチャーだったりする。

 さあてと気合を入れて、気持ちを引き締めますか。

 打たれてアイアンクローは嫌だし、彼女たちの前で恥はかきたくない。

 

 「こらー! ビシッと抑えなよー。貴弘ー」

 「無様な姿だけは晒さないよう頑張れよ、貴弘」

 「が、頑張って下さいー」

 「あはは! 大ピンチだねぇ。打たれたりしてー」

 「……打たれたら皆で貴弘さんを浣腸爆竹プレイです」

 「分かったー? だから頑張ってねー!」

 

 上から伊織、橘、朝比奈さん、桃山さん、御井山さん。そして、伊織に戻る。

 桃山さん、御井山さんは伊織のクラスメイトで親友だ。

 言えば、朝比奈さんも同じ関係になる。

 もっとも彼女らは、朝比奈さんよりも伊織に近いタイプだ。

 てか、浣腸爆竹プレイってなんですか!

 いや、それよりも伊織、お前も賛成するな!

 朝比奈さんがどきまぎしてるじゃないか。

 橘もなに我関せずの態度を取ってるんだ。

 桃山さん、あなたも盛大に笑ってる場合じゃない。

 そして、笑いながら賛成するな。

 クソ。草野球如きで俺の人生が棒を振るか否か決まるとは。

 

 自分の身のために目の前のバッターに集中する。

 バッターは4番で、前打席には左中間真っ二つのタイムリーツーベースを打たれている。

 さて、どうするものか……キャッチャーの織由さんのサインに従おう。

 最初のサインは、ストレートと。

 握りをしっかりと確かめるとセットポジションを取る。

 別に満塁だから盗塁の心配はないが、こっちのほうがコントロールが安定するから常にこっちだ。

 サイドスローから放たれたボールは、微妙に個を描いてミットに収まる。

 

 「ストラーイク」

 

 審判のコールの後に織由さんはボールを俺に返す。

 左手のグラブで受け取ると、またセットポジションに入る。

 織由さんのサインをサインを確認すると握りを変える。

 今度は、スライダーだ。

 ボールの縫い目に沿うように握り、空手チョップの要領でボールを切る。

 これがスライダーの基本的な握り方だ。

 まぁ、変化球って響きはいいけど間違えたら終わりだ。

 そこら辺を注意して、コントロールに集中する。

 そして腕を振り、ボールにしっかりと回転をかける。

 ボールは外角のコースを通り、ホームプレート手前でさらに外角へと曲がって――

 

 ――ガキンッ!

 

 バッターが振ったバットは、スライダーのボールを捉えた。

 すぐさまライト線に飛んでいったボールを目だけで追うが、スライスしてファールゾーンに逸れていく。

 バッターとそのチームのベンチは、大きく落胆の声が聞こえた。

 危ない……変化が小さかったか。コースはいいとこに行ったのだが。


 「打たれたらどうなるか……わかってるな」

 

 や、ヤボール。

 そうだ、これは俺の命がかかってるんだった。

 アイアンクローはまぁ、しばらく死ぬだけだからともかくとして。

 ベンチで応援してる黄色い声の中から飛び出た浣腸爆竹プレイはなんとしても躱さんと。

 てか、御井山さん……実家は神社で巫女だというのにどうしてそんな言葉を。

 伊織とは別の意味で恐ろしい。

 

 とりあえず、ツーストライクと追い詰めた訳だが。

 セオリーで行くならば一球外して、様子見なんだが勝気が強い織由さんはすぐ勝負しそうだ。

 そして、3個目のサイン。

 

 「え?」

 

 と、ついびっくりして声を出してしまった。

 いや、しかし、でも、むぅ。

 確かに上手く行けば、相手の虚を突いて打ち取れる。

 でも、行かなかったら長打間違いなしの、まさにギャンブルボールだ。

 どうする……首を振ってもいいし。

 ええい、乗りかかった船だ。

 それに今まで投げていないボールだからむしろ上手く突ける可能性は高い。

 覚悟を決めるとセットポジションに入る。


 数秒経ったときにいつもどおりに投球モーションに入る。

 しかし、ボールをリリースする際には力を極力ボールに伝わらないようにする。

 手の中から旅立ったボールは、やや山なりになってミットに向かっていく。

 ストレートよりも充分遅いボールは、完全にバッターのタイミングを外した。

 無理に体勢を崩して打ったボールは、前に行くことなく高く上がるのみ。

 織由さんがマスクを外して、ミットを上にかかげて落ちてきたボールを捕る。

 

 「アウトーッ!」

  

 グラブの内側を拳で叩き、整列のためにホームに向かう。

 やれやれ……上手く行った。助かった。

 内心だけではなく、身体全体でホッと溜息をついた。

 上手く行っただろ、と笑顔を見せている織由さん。

 今回は上手く行ったからいいけど次からは前以って策戦の一つとして言っておいて欲しい。

 ベンチの女子陣も喜びの色だ。特に伊織は派手に喜んでいる。

 手を握られ、ブンブンと振られている朝比奈さんがなんとも可愛い。

 最後の礼をして、俺はベンチに舞い戻った。


 

 

 

 

 

 


             THE・END


  

 お ま け

 

 「折角、爆竹を用意していましたのに」

 「イヤマテ。用意していたってどういうことだ?」

 「知りたいですか? うふふふふふ」

 「……いえ、いいです」

 

 『触らぬ神に祟りなし』――先人は、いい言葉を残したものだね。

これで『とあるとこの、とある少年たちのなんでもない日常』はお終いです。

ここまでご愛読、ありがとうございました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ