第16話 押しかけ弟子登場
町の大道りに面した所に良い宿があった。
2階建てで、少し古そうだが掃除も行き届いており客の質も悪くなさそうだ。
システア「ここにするか?」
アリス「そうですね、でもグゥちゃんは入れてくれるでしょうか?」
グゥ「クゥ~ン」
システア「ここでは冒険者などが多い、冒険者は魔物を旅に連れ歩く者が多いからそれは大丈夫だろう、無理なら他を当たればいい」
この世界の魔物は、ただ人を襲うだけのものだけではなく、しっかりと世話をすれば共に戦ってくれるものもいる、グゥがその例だ。
そのため、冒険者などが飼いならしていることも珍しくない、ちなみにその場合はペットと言う人間が多い。
アリス「はい、すいません・・・」
システア「気にするな」
そして、二人は早速部屋を取るため中に入った。
すると、40代前半くらいの元気そうな女性が話しかけてきた。
女性「平和の宿、憩い亭へようこそ、お泊りかい?」
システア「ああ、だがその前に聞きたいんだが、この宿はペットも泊まれるか?」
女性「ああ、大丈夫だよ、うちは冒険者さんを相手に商売させてもらってるからね」
システア「そうか、ではここにしよう」
女性「毎度有り。じゃあお部屋はどうするんだい?」
システア「出来れば2階、窓側の二人部屋を頼む」
女性「はいはい、御1人様一泊銅25枚になるが、いいかい?」
システア「ではとりあえず3日分だ。」
そう言ってシステアがお金を払おうとすると、アリスが割り込んだ
アリス「あ、あの!自分の分は自分で払いますよ?」
システア「今お前はあんまり細かい金はないだろう?それに、弟子の面倒を見るのも師匠の仕事だ。旅に誘ったのは私だしな」
アリス「でも、それじゃあ悪いですし・・・」
システア「ふむ、じゃあこうしよう、今回の宿代は私が払おう、その代わり、王都で仕事が入るかもしれないからその時は手伝ってくれ、それ以降の宿代はお前が自分で払う、それでいいか?」
アリス「まあ、それなら・・・」
システア「決まりだな、では頼む」
女性「はいはい、ちょっとまってなよ」
そう言って女性はカウンターの方に入っていった。
少しして女性が戻ってくると、システアに部屋の鍵を渡し言った
女性「私はこの宿の管理をしているソフィアだ、なにかあったら遠慮なく言ってちょうだいね」
システア「ああ、しばらく世話になる」
アリス「お世話になります」
アリスが頭を下げ挨拶すると、ソフィアが笑って言った
ソフィア「礼儀正しい良い子だねえ、家の娘にほしいくらいだよ!」
システア「ふふ、残念だが予約済みだ」
アリス「え?」
ソフィア「あっはっは、そいつは残念だね~、奥の階段から2階に上がって一番右端の部屋だよ、ゆっくりしていっておくれ」
そしてアリス、システア、グゥは階段を上って部屋に向かった。
そして、宿の1室
アリス「もう、あんなこと言われたら冗談でもびっくりしますよ」
システア「ん?私としてはお前みたいな娘なら欲しいと思うぞ?」
などと、システアは意地悪そうにニヤついている。
アリス「もう・・・」
グゥ「クゥ~ン?」
システア「それより、腹が減っただろう?飯を頼んでくる、少し待っててくれ」
アリス「・・・わかりました」
そして、システアは1階の従業員にご飯を部屋に持ってきてもらうように頼むと、すぐ上に上がろうとした。
しかし、その時、誰かに呼び止められた。
?「師匠!師匠じゃないですか!?」
システア「この声・・・まさか・・・」
恐る恐る後ろを振り向くと、赤い髪を短く切ったアリスと同年代頃の少年がシステアに向かって走ってきた。
少年「師匠!お久しぶりです!こんな所で会えるなんてこれぞ神の導き!!」
システア「リック・・・なぜここに・・・」
リック「師匠がまた旅に出て行ってから自分なりに腕を上げて師匠のことを探していたんです。今なら師匠に認めてもらえると思って!」
システア「そ・・・そうか・・・」
リック「師匠は今、ここに泊まってるんですよね?」
システア「ま・・・まあな・・・2階の右端の部屋だ」
リック「そうですか!ではこんな所ではなんなので師匠の部屋に行ってもいいですか?色々話したいこともたくさんあるんです!それじゃあ、先に行ってますよ!」
そう一方的に話を終わるとリックはシステアの部屋に向かってしまった。
システアは一瞬固まっていると、ふと我に返り急いでリックの後を追って部屋に向かった。
リックが部屋に入るとそこには銀色の髪を腰まで伸ばした美しい少女が服を着替えている最中だった。
綺麗な白い肌に銀色の髪が実によく似合う、そんなことを思っているとその少女が話しかけてきた。
アリス「あの・・・どちらさまですか?」
グゥ「ウォン?」
リック「え!?えっと!俺はその・・・」
台詞を言い終える前にリックの頭に強い衝撃が加えられた。
システア「この馬鹿が!さっさと出て行け!」
リックに追いついたシステアは、部屋から少し入った所で扉を開けたまま立ち尽くすリックを見て中を覗き、すぐさま拳骨を叩き込み部屋から摘み出した。
しばらくして着替えが終わったのかリックは部屋に呼ばれた。
リックの目に飛び込んできたのは黒い丈の長いスカートのような少しフリルのついた寝巻きを着たアリスだった。
ちなみに、その服は寝巻きが少ないアリスにシステアがこの宿に来る途中に買ったものだ。
少しの間、リックがアリスに見とれているとシステアが咳払いをして話し始めた。
システア「さて、お前たちは初対面だからな、まずは自己紹介からだ」
アリス「あ、私アリス=レファルです、よろしくね?」
リック「お・・・俺・・・僕はリック=ザハル、リックって呼んでください!」
アリス「私もアリスでいいです、こっちは友達のグゥ、グゥ、挨拶は?」
グゥ「ウォン!」
アリス「ふふ、よろしくって」
リック「よ、よろしく!」
アリス「あなたはシステアさんのお知り合いですか?」
リック「いえ!僕はシステアさんの弟子です!」
その瞬間、あたりの空気が一瞬固まった。