8 神官の教団、信者が増える
信者が激増した!
というのも、盗賊団を神官の俺が撃退したことで竜神ラガシャのご利益も噂になったからである。
まず、クリエスタの町での評判が上がった。これまでラガシャを祀る場所は町の中にはなかったのだが、町の共同使用の井戸横に大きめの犬小屋みたいなものが建った。
これはラガシャを祀る礼拝所だ。
「本音を言うと、もうちょっといいもの建ててほしいですけどね。でも、これは一歩前進です。信仰されて力が戻ってきた気もします」
ラガシャは相変わらず一言多いが、まんざらでもなさそうだった。人間だってどうせならいろんな人からいいように言われるほうがいいものな。
また、隣村から瞑想の滝を見学に来て、手を組んで祈りを捧げる人までいた。
神官として滝近くにいることが多い俺は祈りの方法について何度も尋ねられた。祈る側としてはテキトーに祈って失礼に当たらないかと思ってるのだろう。その日もおばさんが困惑顔で神官詰所にいる俺に聞いてきた。
「あの……神官さん、私、まったく祈りの方法がわからないのですが、どうすればいいかしら?」
「祈りの方法について神からのお告げが来たことはありません。つまり、祈ってくださるだけで神も喜んでいるということです」
無難にかわした。
神官詰所から滝のほうに目をやると、ラガシャも滝近くのちょっとした淵に足をつけて、うなずいていた。娯楽が少ないので水遊びぐらいしかしてないが、飽きないのだろうか。
いいかげんな神官も二週間以上続けていると板についてくるもので、素人が見てもそれっぽく映るだろうなと思う。
祈りの方法ぐらい決めてもよいのではと思うが、これはあいまいなままなほうがいいんだろう。ルールどおりに守ることより気持ちが大事だと思う。
そういう意味では経典を作ることにラガシャが興味なかったのも正しいのかもしれない。
「ほら、そうでしょう。何事も形から入ろうとする姿勢はよくないのです。一番大事なのはハート、ハートなのです。そんなこともわからないようではダメなのです」
(偉そうに叱るのはいいけど、お前が叱ってるのは序列第一位の神官だからな。トップの神官の出来が悪いってことになるからな)
なんてことを発声なしで言い合いしていると、次の参拝客が滝に来た。盗賊団を倒したという話題は本当に効果があるらしい。
見た目からして明らかに冒険者という雰囲気の男女二人組だった。
「おっ、あんたが杖だけで盗賊団を全滅させたっていう最強神官か」
「見た感じ、腕は太くないね~。敵の力を利用して投げ飛ばすとかそういうタイプ?」
ああ、こういう奴もちょくちょく来る。つまり、冒険者としての俺に興味を持ってやってくる連中だ。俺も冒険者だし、移動で使う街道の途中に高名な冒険者がいるとわかれば寄り道したくなる気持ちはわかる。
「自分でもよくわからないんです。おそらくラガシャ様の力をいただいた結果かなと。すべてはラガシャ様が地元の町を救おうと思われたためでしょう」
神官としては百点満点の回答をした。ここで「俺はかつて治癒師だったが、実は拳にも自信があるんだ」とか言うと、勝負をしようと言われかねない。
強くなったかどうかも定かではないのだ。戦闘は極力回避したい。
「でも、杖で十人以上に立ち向かったんだよね? あたしは武道家だから、ちょっと勝負させてよ」
くそっ! 好戦的なタイプの冒険者だ!
「いえ、あくまで神官の立場なので手合わせというのは……。それに冒険者時代も治癒師として後ろに控えていただけで……」
「なら、ケガしても回復できるでしょ。じゃあ、軽い手合わせならよくない?」
たしかに拒否する理由もなくなってきた。
しょうがない。一回やってみるか……。
「いいですが、自分は【天職判定】で治癒師と啓示を受けて以来、戦闘の裏方を続けてきただけです。あなたにあっさり殴り倒されて終わりだと思いますよ」
これで納得してもらえるならいいか。盗賊団が来ることは今後もあるかもしれないし、腕に覚えがある神官になれるならそのほうがいい。なら、特訓と思えば無駄じゃない。
女武道家が構える。俺のほうは杖を使わないと何もできないので杖をとる。
淡々とやるか。大ケガ以外なら何でもいい。一撃でも決められれば自分を褒めよう。
なぜか勝ってしまった。
「はぁはぁ……やるじゃん……。やっぱり、腕が立つ神官なんだ……。とんでもないよ……。クマと戦うよりよっぽどきつかった」
女武道家は手を横に振って、もういいという仕草をする。事実上の降参宣言だ。
「あの……具体的にどこが強かったですか? 煽っているとかではなくて、人と手合わせをした回数が極端に少ないんです」
洞窟で弱そうな魔物を杖で殴るのとはわけが違う。あれは明らかに勝てる敵を剣士の手を煩わせずに排除するだけの行為だ。
「そうだね。動きも悪くないけど、一撃一撃の攻撃が重いんだよ。盗賊の剣を破壊したんだよね。剣の破壊に特化した武器もあるけど、その杖、そんなんじゃないし、それで破壊したんだとしたらとんでもないよ!」
俺はぽかんとした顔で聞いていたと思う。勝った側が驚くのもおかしな話だが、何の実感もないのだ。
ためしにラガシャのほうを見たら、あいつも驚いていた。
「あのさ、【天職判定】を受け直してみてもいいんじゃない? あれって生活の中で別のものに変わってることもあるからさ。治癒師じゃなくなってるかもだよ。武道家になってるかも……」
「はあ……。ちなみにあなたは【天職判定】だと武道家だったんですか?」
「武道家だし、冒険者ランクもBだよ!」
Bランク以上というと、冒険者上位15パーセントぐらいか。やっぱり強くなってるのは間違いないらしい。序列第一位の神官って効果あるんだろうな……。
その冒険者たちが去っていったあと、ラガシャが話しかけてきた。
「これはユートの状況を確認したほうがいいですね。今度、【天職判定】ができる神殿へ向かいましょう」
「ちなみにだけど、お前は俺の天職が何かはわからないんだな」
「そんな力ありませんです。滝に祀られてた神がなんでそんなことできると思ったですか?」
堂々と言われた。
◇
俺は町の人達に「自分確認の旅に出ます」と告げて、早朝からサジャールの町へ向かった。早朝に出立ればその日のうちに帰れるはずだ。
サジャールはこのあたりは相当大きな都市で、とくに城の規模が極端に大きい。かつて王国がほかの勢力と戦うための拠点に作った城だそうで、要塞みたいな城がそびえているのが遠くからでもわかる。
目的地は決まっている。【天職判定】をしてくれる神殿だ。武神ライディールという著名な神を祀っている。総本山は別の場所だが、各地に支店のポジションに近い神殿や教会がある。
なお、俺は霊感が強いが、そんなすごい神が神殿内を歩いているところは見かけなかった。仮にいるとしても遠方の総本山だろう。
もっとも、俺が霊感が強いからといって、神様まで誰でも見られるのかわからないが。ラガシャを目にできたのは、こいつが信者0人という、これ以上落ちぶれられないほど落ちぶれた存在だったからかもしれない。
「いつか、こんな立派な神殿を建てたいものです……ぐぬぬ……」
うちのところの神が嫉妬しているのを横目に俺は【天職判定】をしてもらった。
神殿の神官が文字のプレートがたくさん入った水瓶を持ってくる。
「へえ、こんなふうにやるんですねえ」
ラガシャはシステムまでは知らなかったらしく、俺の横で感心していた。そう、俺が手を入れると文字のプレートが何枚か浮かんでくる。
そのプレートで構成できる単語がそいつの天職ということだ。
治癒師から武道家に変わってるぐらいのことはありえるだろうな。
結果は違っていた。少なくとも、武道家ではない。
文字のプレートがやけに浮き上がってきている。武道家という単語の数には合わない。
「おおおっ、これは特殊ですなあ! 見たことありませんぞ」
老齢の担当の神官も驚いている。浮き上がってきたプレートを拾い出して、何の単語が作れるかを確認している。
「ううむ、単語作りに悩むことなんてめったにないんですがのう……。こちらは『聖職者』で、ただ、まだ文字が余ってますな。ええと……ええと……まさか、本当ですかな……」
担当の神官が絶句しているのがわかった。
何だ? 何の聖職者になったんだ?
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