7 神官、物理で盗賊を撃退する
俺が一人を杖で殴り倒したせいで、盗賊たちの動きが一瞬止まった。
人間というのは予想外のことが起きると、頭が動かなくなるインターバルができる。
そのわずかな隙があれば十分だ。
リーチの長い剣を持っていた男も頭を殴って転倒させる。
よし、二人潰せたな。
「なっ! この神官! どんだけ血の気があるんだよ! そんなに死にてえなら殺してやる!」
盗賊団のリーダーがやっと怒りを俺に向けたが、遅いんだよ。俺はすぐには動けなくなっていたもう一人も杖で殴り飛ばす。
「なんだ、この神官、荒事が得意すぎる!」「油断するな! 強いぞ!」
別に強くはない。ただ、奇襲を仕掛けて有利なうちに事を運んでるだけだ。
これでも冒険者を十年やっていたんだ。魔物を殴り倒したことぐらいは何度もある。
俺は気にせず突っ込んでいく。こういうのは先手必勝だ。人質でもとられた時点で俺の負けになる。一気に圧倒して蹴りをつける。
全員倒せなくても、頭数を減らせば盗賊団も調子に乗ったことはできないはずだ。まだ家に籠っている住人も多いはずだし、その住人たちが武器を持ってどんどん出てくれば、盗賊団側より有利になる。
俺に関しては……最悪殺されるリスクもあるけど……もう動き出してしまった。人が誘拐されるのを黙って見ていられなかった。後は全力でやるだけだ。
俺の杖をナイフでどうにか防ごうとする奴がいたが、気にせずナイフを吹き飛ばす。丸腰になったところを叩き伏せた。
「ほえ~! 強い、強いのです! ユート、治癒師の戦い方じゃないです!」
ラガシャが驚いている。正直なところ、俺もここまでやれるのかと驚いているが、覚悟は決まっていた。
冒険者を十年やってたからな。そのへんの一般人とは価値観が違う。戦うしかないと判断したら、すぐ動く。
「おいっ! その程度か! 武器だけ持っていきがるなよ!」
俺は叫びながら、リーダーに突っ込んでいく。博打のところがあるが、ここでリーダーを潰せば残りの連中もビビって逃げてくれる可能性がある。そしたら俺一人での勝ちの目もある。
「お前、俺の盗賊団をボコボコにしやがって! どこの神官か知らねえが、絶対に殺してやるからな!」
リーダーは長い剣を抜いた。心の中のどこかで「これ、ヤバいかも……」と思う自分がいるが、もう進むしかない。
剣と杖がぶつかる。
同時に鈍い音とともに剣が真っ二つに折れた。
「はぁっ! こいつ、バーサーカーかよ!」
リーダーが驚いているが、俺も驚いていた。俺、こんな強かったっけ……? さすがに剣を粉砕するほどの攻撃力はないと思うけど……。
「おい、あいつ光ってるぜ!」「化け物だ!」
残ってる盗賊が騒いでいるので気づいた。
俺の体が黄色く発光している。
それに付随して、力が湧き上がってくるような気もする。
本当に何だ、これ?
よくわからないけど、とりあえずリーダーは沈黙させておくか。剣が消えたリーダーの頭を拳で殴りつけた。
「ぶえぇっ!」
多分、頭蓋骨が割れる音がした……。あれ? やっぱり腕力が強くなってる? まあ、こいつらが悪いから、まあいいか……。
リーダーを倒したのはよく効いたらしい。残存勢力は逃げだそうと背を向けていた。この時点で俺の勝ちは決まった。
「くそっ! なんだあの神官!」「殴り殺される! 神官の腕力じゃねえぞ! 大物武道家の格だ!」
でも、そいつらのうち二人はなかなか逃げ出せないようだった。
「あれ? なんかつかまれてるような……」「気味悪いこと言うのはやめてくれよ! くそっ! なかなか進めねえ!」
その二人の服の裾をラガシャがつかんでいたのだ。
「へへ~、逃げられないですよね。逃げられないですよね~。あっ、全力で走られると引っ張られるのです……。こけそうになるのでやめてほしいのです……」
なんで神が霊と同じことするのかと思うが、まあ、いいや。
俺はそいつらにも正義の鉄槌を下した。
◇
盗賊団は壊滅して、俺は町の人々に囲まれた。町の人間の大半が起きていたせいもあって、夜中とは思えないほどにぎやかになっている。
「神官様のおかげです!」「ユート様さまさまです」「本当に助かりました!」
これで謙遜するのも不自然なので、好きなだけ讃えてもらうことにした。
「はっはっは! 朕のおかげですよ!」
俺以外には見えてないが、竜神が偉そうに胸を張っている。俺を起こした功績とかを別にすると、さすがに今回は俺のおかげだと思うのだが。
「ユートは朕の神官ですよね。ということは朕の手柄ということです!
」
手柄を全部持っていくんかいと思ったが、そういや、さっき体が発光してたよな。あれもラガシャの力によるものとしたら、手柄も何も大殊勲だが……。
「いえ、それがよくわからないんですよね。たしかにユートはやたら強くなっていた気がしました。あの攻撃力はそのへんの冒険者のレベルとは違う気がしたのです。でも朕が力を付与したとかではないんです。可能性があるとすれば……」
全知全能のはずの神が悩んでるのって納得いかないが、つまり全知全能ではないってことだろう。
「……おそらく、ユートが序列第一位の神官になったことで、それが急成長につながったのだと思うのです」
(マジか。だとすると、しょぼい神の神官になると簡単に強くなれるってことか。狙い目だな)
「ちょっとー! 神のおかげで強くなってるのに無礼ですよ! ……でも、無礼だからステータスを下げるとかいったことはできないんですが」
少し切ないことをラガシャが言ったので、あまり追撃はしなかった。
まっ、本当にラガシャには感謝してるぞ。体が発光してたし、あれもラガシャによる効果と考えるのが妥当だろう。戦闘時に体を発光させる魔法なんて治癒師は使えない。
どこからか、酒樽が出されてきた。
「今日は夜明けまで飲むぞ!」「そうだ、そうだ!」
これで俺が寝ますと言うと場の空気が壊れるから、ここはこのまま飲むか。神官って早寝早起きするものだが。
「たくさん飲むといいですよ。飲むです、飲むです!」
神がいいと言ってるから何の気兼ねもないな。
その日、俺はクランを追放されて以来、一番酒を飲んだ。
今後、竜神ラガシャの教義が定まっても、神官は酒を飲んでいいことにしよう。
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