6 神官の拠点の町、襲撃を受ける
・宿屋で起床。
・宿屋か、そうでなければ前日に声をかけられていた家へお邪魔して、朝食を食べる。
・滝へ行って修行。昼食は町で用意してもらっていたものを食べる。
・町に戻って夕飯を食べる。
・宿屋に戻って就寝。
これが俺のルーティンになってきた。竜神ラガシャの唯一の神官という立場である以上、「修行」をないことにはできない。
追放された冒険者が三食食べる機会に恵まれている。それだけでもありがたいと思わなければならないだろう。それはわかる。俺も感謝の気持ちは忘れないように生きているつもりだ。
しかし――
「修行が空しすぎる!」
俺は瞑想をやめて、目の前のちょろちょろと流れる滝に向かって叫んだ。別に町の人間はいないので聞かれてはいない。
隣にはラガシャがいる。俺が初めて会った時みたいな姿勢で座っているが、あの時と比べれば状況が改善したからか、ネガティブな顔はしていない。
「修行の厳しさに耐えられないとは。朕の序列第一位の神官としてのプライドを持ってほしいのです」
「違う。厳しいから耐えられないんじゃない。やることがなさすぎて暇なんだ」
失業した人間が再就職前に何もしない時間を楽しもうと思ったら、何もしない時間が長すぎてきつくなってくるという話は聞いたことがある。
おそらく、それに近い状態に俺はなっている。
「ありがたいことに食事はもらえる。神官をやってる期間は生活はできる。でも、生産的なことがあまりになさすぎる。ただ、ちょろちょろ流れてる滝の水を見続けるだけ……。あとはお前の話し相手になるだけ……。さすがにきつい! もうちょっと労働らしいことをしたい!」
「世の中には労働を減らしたい人間のほうが多いはずなのに……。ユートは倒錯した奴です」
「いや、これは賭けてもいいが、ただ滝を一日中眺める仕事があったら、そいつはだんだん心にダメージが蓄積していくぞ」
巨大な商館の話だが、クビにしたい社員がいたら、何もない部屋に配属して何もさせないということを続けるのだという。そうすると、心理的に限界を感じて、自分から退職していくそうだ。
楽なのは望ましいが、何もしないことが続くとそれは苦痛になるのだ。
睡眠で体力は回復するが、もし何十時間も寝続けたらおそらく衰弱して死んでしまうようなものに近いだろうか。
「ラガシャ、神官の立場で仕事になるようなものを用意してくれ。たとえば、神の言葉を集めた教典を作るとか」
「そんなの、やりたくないのです。朕は地域密着の神ですよ。難しい教義とかでやっていくものじゃないんです。ああ、ここに神様いそうだなあという素朴な気持ちで信仰してもらってたのです」
「その結果、信仰途絶えかけてて絶望してただろ」
ラガシャは痛いところ突かれたという顔をした。
「じゃあ、神の立場として神官に修行を課すのです」
「よし、望むところだ。まず何をやればいい?」
「腕立て伏せ五回」
俺はその場で腕立て伏せを五回した。
「次は?」
「決めてないのです」
話にならん。
神官としての新しい生活がスタートした当初は期待もあったが、ここまで展望がないと苦しい。
まだ神官生活二週間ほどだから、ラガシャに文句を言うこともできているが、この何もしない生活が二年も続けば社会性ゼロで滝に一日中いるヤバすぎるおじさんになってないだろうか。
もし、神官に食事出すのを終了することにしましたと言われたら、その時点で居場所なくして再就職もできずに死ぬしかないのでは……。
じっくり考えたらすごく怖くなってきた。今の自分は食事がもらえるだけだ。生活基盤は別途に構築しないと終わるぞ……。
怖くなって、俺は作ってもらった小屋(「神官詰所」ととりあえず呼んでいる)荷物から長い直線的な杖を取り出した。
「はっ! はっ!」
棒術の練習をする。一応は杖だが、魔法使いの杖と比べると打撃を前提とした棒状のもので、棒術の型が役に立つ。冒険者時代はいざという時は俺も戦闘に参加していたので、最低限の攻撃はできた。
「何をしてるのです? 別に朕の神官は戦う必要などないですよ」
「何もしてないより有意義だからだよ。それに冒険者としての腕がなまってなければ再就職もしやすい」
「再就職を考えて、神官として修行するのはおかしいのです。もっと全部をなげうって行うのが修行というものです」
「それは正論ではあるな……」
修行僧には冒険者としての旅の途中に山中で出会ったこともある。彼らは悟りのために肉体的にボロボロになるような特訓を続けていた。山の中を一日中走っている奴もいた。苛酷な人生だ。
あるいは、ひたすら同じ姿勢で何時間も神を讃える頌歌を唱え続けたりする。それはちゃんとした苦行だ。そこに暇などない。
俺は暇しかない。
俺が杖を振る型を繰り返している間、じぃっとラガシャは俺を観察していた。野生動物が山に入り込んだ人間を見ているようである。
「なんだ? お前も暇だったら、やってみるか?」
「ユート、冒険者の時は攻撃の主力だったりしましたです?」
「そんなわけないだろ。俺は治癒師だぞ。回復専門の裏方だ」
「動きにとてつもないキレがあるのような気がするのです。朕も神官としてのユートに少し力を分け与えたつもりではあるのですが……神の加護って無茶苦茶強くなる……? いや、そんなことはないですよね……。朕の力ってそんなにすごい……?」
なんかぶつぶつ言ってるが、結局自分を褒めてるだけの気がするので、放っておこう。
ただ、ラガシャの違和感はその日の夜には早くも証明された。
◇
ベッドをやたらとゆさゆさ揺すられて目が覚めた。
明らかにまだ夜だ。それよりも揺すっていたのがラガシャだったので混乱した。
「お前、町に来るなんて珍しいな……」
ラガシャは原則、滝から移動してこない。あくまでも滝が本拠地だからだろう。
「緊急事態なのです! 町が巨大な盗賊団に制圧されそうなのです!」
そういえば、町の外が夜中なのに祭りでもやってるみたいに騒がしい。しかも殺伐とした空気もあった。
「わかった、行く!」
これでも冒険者だった身だ。杖を持って、外に出た。
外に出ると、町の中心部で剣やナイフを持った盗賊たちが役十五人集まっている。
十五人もいれば、無防備な夜中の町を制圧することは可能だろう。
「金目のものをどんどん持ってこい! 儲かりさえすりゃ、危害は加えねえからよ!」
リーダーらしき男が言った。頭に布を巻きつけている。
すでに篝火の前には高そうな調度品の箱や壺が置かれている。金貨もけっこう集まっている。小さな町とはいえ、街道に面しているし、あるところにはあるらしい。
防御も何もない町を狙って、足がつかなそうな金品を回収したら逃げ回るってわけか。まともに警備兵もいない町だから対象になってしまったらしい。
「おっ、全員戻ってきたな。じゃあ、今回の稼ぎはこれで全部か」
リーダーが言った。ということは人質がいるとかいうわけでもないんだな。近くに住人は連れてこられているが、ナイフを突きつけられたりはしてない。
「あの、旅の神官なのですが、これはどうしたことでしょう?」
俺は何も知らない体裁でリーダーのほうに向かっていった。少しぐらいは交渉で持っていく分を減らせないか。少しは町のために働きたい。ずいぶん食わせてもらっている。
「あん? 見りゃわかるだろ。ていうか、お前も何か金目のものはねえのかよ。ああ、いかにも清貧気取りの奴だな。じゃあ、用はねえよ」
「ここは決して豊かな町ではありません。少し手加減をしていただけませんか?」
いまいち締まらないが俺ができるのは交渉ぐらいだ。
と、小さな悲鳴が上がった。
盗賊団の一人が町の年頃の娘を引っ張ってきていた。
「あんた、かわいいな。ついてこいよ」
「嫌っ! やめてっ!」
「人間を扱うのは面倒だけど、あんたぐらいの上玉なら高値で売れるから元も取れるだろ。ついてこいよ」
これは抵抗するしかなくなった。
金だけなら厄介なのに絡まれたで済むが、これはそういうわけにはいかない。
冒険者は即断即決だ。
俺は杖を握り締めて、娘の手を引っ張っていた盗賊を殴り倒した。
「それは俺のところの神も許容してない」
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