19 神官、お城へ出頭する
こんな時に嫌な役を引き受けるのも神官の仕事だ。武術大会で優勝するという栄誉も味わわせてもらってる。俺は役人の前に出た。
「私がここの神官のユートです」
俺と言うと無礼と言われそうなので一人称を少し丁寧なものにした。
「ここの教団は何だ? どこの神のための教会だ?」
いや、質問は一つずつやってくれと思うけど、質問に文句を返したら印象悪いよな。
「教団と呼ぶほどのものではありません。元々この滝には竜神ラガシャ様が祀られていて、それを復興しようと考えた次第です。幸いにして、多くの方のご支援を得ることができ、教会を建てることができました」
「このような教会まで建てたのだから、これは明らかに教団だ。お前はこの土地の領主のアブネット伯爵家に報告なしに勝手に教団を組織して、教会を建てた。確認がとれるまで教会の使用を禁ずる」
げっ! 教会できたと思ったらいきなり入れないって言われた!
「ふざけるなです! お前は誰なのですか! いきなり出てきて禁止って、舐めるなです!」
ラガシャが文句を言ってるが、もちろん見えはしない。
「しょっぴかないだけありがたいと思え。申し開きは伯爵家まで申し出よ」
周囲がざわつきだした。そりゃ、水を差されたからみんなもムカつくよな。俺はムカ着くより前に困惑している。
役人もちょっとやりすぎたかと思ったのか、少しあわて気味に去っていった。
ナタタはぽかんとした顔をしている。こんなの対応できないよな。ここは俺が対応しなきゃいけないか。
と、町長が来てくれた。町の人にまで迷惑かけてしまって申し訳ない。
「いやはや、たしかにここまで人が集まってしまうと、領主も無視できませんな。元が小規模なものだったので見過ごされていたのですが、これだけ人が来ると……」
「まあ、民衆の蜂起でもするのかと誤解されかねませんね。甘かったです。神官失格です」
「そうです。神官としてもっとちゃんとやりなさいです」
(あっ、お前は責めるな。それは話が違う)
「でも、やっぱり領主がムカつくのです! 大目に見やがれです! あるいは教会作ってる途中に言ってこいです!」
(まあ、領主がムカつくのはわかる。これは領主のところに行って弁明しないとな)
実は俺はけっこう楽観視していた。
ラガシャの信仰に危険思想みたいなものなんて何もないのだから、地元の素朴な集まりということが理解されれば、許可も出るんじゃないだろうか。
「ところで今の領主ってどんな奴なのです?」
(伯爵家がどうとかさっき言ってたな。実は俺もよくわかってない。このへんは、サジャールっていう俺が【天職判定】をやり直した時に行った町を拠点にしてる領主の管轄か)
俺が冒険者をしていた時はコビルタという別の領主の都市を拠点にしていたから、こっちのほうはあまりよくわかってない。基礎知識として知っておけって話かもしれないが、冒険者はそういうのは詳しくない。
「ナタタは領主のこととか知ってるか?」
「知らないっス」
ここまで知らない奴だけで弁明に向かうの、ちょっと怖くなってきたな……。
町長が大丈夫かなと思ったのか、最低限のことは教えてくれた。
「クリエスタの町周辺を領しているのはサジャールに住むアブネット伯爵家です。数年前に伯爵も亡くなったため、今は若い女性伯爵が結婚せずに伯爵家を継いでいるはずですな。お母様も早くに亡くした方で、領内では同情されている民も多い印象はありますが」
「差し出がましいですが、少し気持ちはわかります」
経済的に苦労はしてないだろうが、親がいないというのはつらいものだ。それに金を出して買えるものでもないしな。
まあ、いい。とにかく弁明に行こう。
◇
三日後、俺たちラガシャを信仰する神官たち(つまり、俺とナタタ。あと、ついてきているラガシャ)はサジャールに到着すると、まず、武神ライディールの神殿に仕える神官ドビンゲルさんを訪ねた。
「はぁ……。なるほど……。急激に信者が増えると何事だと思われるということもあるわけですな」
伝統宗教の神官であるドビンゲルさんは不思議そうな顔をしていたが、もちろん雑談をするのが目的ではない。
「あの特定の教団の神官とはわからない程度に神官らしい服があれば貸してもらえませんか? そういう服すらないんです……」
そう、今までまともな神官の格好すら俺もナタタも持ってなかったのだ。なにせちゃんと神官の知識を持ってる奴が誰もいなかったからな。
あまりに高位の聖職者みたいな格好だと、かえって胡散臭いが、そのへんの一般人ですという格好で行って新しい宗教ですと言っても気味悪そうなので、それっぽい服で城へ向かうことにした。
ドビンゲルさんは嫌な顔一つせず、使われてない神官の服を貸してくれた。
「武神を示す紋章のところが見えないように着れば、どの宗教かということはわからないはずですよ」
「ありがとうございます! これでいきます」
「領主様は少し感情的になることがございますが、丁寧に説明なされば道は切り開けるでしょう」
少し気になることを言われたが……とにかく城に行こう。
要塞と言っていい規模の城に行くと、俺たちは詰所で事情を話した。
城に弁明に来いと向こうから言われたのだから、手順としては間違ってない。担当者が誰かわからないが、手順は間違ってない。
一時間ほど内堀の外側にある待合室のような棟で待っていると、連絡係の役人がやってきた。
「竜神ラガシャの神官たち、領主様が直々にお会いくださることが決まった。無礼のないようにな」
ふう、どうにか会える算段はついたな。
「面会時間はおよそ三時間後だ。それまでは内堀の中の待合室で待機しろ」
「長っ! ……いえ、申し開きができるだけでも光栄です」
あまりこういう城で長居したくないんだが、しょうがない。俺たちは兵士に引率されてぞろぞろと城の中心部分へ進んでいく。
「どうして、長居は嫌なのです? 暇は暇ですけど」
(ラガシャ、俺の体質を考えてみろ。そのへんにいるだろ)
壁際で青白い光のようなものが浮かんでいる。よく見ると顔のように見える。
(城っていろんな揉め事が起こる場所だろ。この城は二百年以上前から建ってるし、その間に暗殺事件ぐらい絶対に何度もあった。失敗の責任を取らされて左遷だとか失脚だとかなら、カウント不可能なほどあるはずだ)
霊の数がそのへんの道を歩いてる時の比じゃない。
きっと、まだまだ霊がいるだろう。
と、くっきり見える女性の霊が廊下前方に見えた。体が半透明だからすぐにわかる。
ほら、また霊だ。この規模の城なら本当に三十人ぐらいはいるんじゃないか。
しかもその霊は俺のほうに近づいてきた。
くっきり見えたし、まだ意思がはっきり残ってるタイプか。
「あいつ、ほんのちょっとですが朕に近い気がするのです。もちろん、神ではありませんけど」
普通の人間には見えない意思を持った存在って点では近くはあるからな。
たまに人間に直接干渉してくる奴もいるが、あれもそのタイプかもしれない。
その女性の霊は近づいてきて――
しかも俺にこう囁いた。
「娘がご迷惑をおかけしてすみません」
お読みいただき、ありがとうございます!
もし、
「面白い!」
「この先が気になる!」
と思ってくださいましたら、
広告の下↓のところの【☆☆☆☆☆】をタップして、
【★★★★★】にしていただけますと、すごくうれしいです! すごく励みになります!
評価が上がると、ものすごく続きを書くぞというパワー・燃料になります!
どうか、よろしくお願いいたします!




