17 神官、神の母と出会う
せっかく、コノ―ティアという大きめの都市に来たので、武術大会の翌日、俺は図書館に寄った。ラガシャの面倒はナタタに見てもらっている。こういうお守り役をやってもらえるだけでもナタタがいてくれて本当に助かる。
安酒場をうろついたら、優勝者として顔を指されたかもしれないが、図書館は客層が違うのか、誰にも気づかれなかった。
本棚から何冊か抜き出してテーブルに移動する。持ってきたのは地域信仰に関する本だ。
竜神ってラガシャ以外にもこのあたりにいたりしないか。もし存在しているなら、その信仰について何か書いてあるかもしれない。
ラガシャ自体は本当に神の知識もあいまいだが、ずっとわからないままでいいという話にはならない。神官として勉強できる範囲のことは勉強したい。
それと、本人が調子に乗りそうだから言わないが、ラガシャ自身がすごい神格の可能性もある。
俺にドラゴンが巻き付いたみたいになったのは、どう考えてもラガシャの力だろう。
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ドラゴンは実在する存在だが、古来から魔物に含めるか神に近い存在に含めるかで議論されている。
もしかすると、リザードの上位存在であるドラゴンと、水に関する神の縁戚であるドラゴンはまた別なのかもしれない。別のものが偶然近い見た目になることはありえることである。
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けっこう面白いことが書いてあるな。
たしかにラガシャは瞑想の滝で祀られていた。まさしく水と関係する。水のある場所ならなんでも神がいるってことはないだろうけど、何かつながりはあるかもしれない。
ほかの本も開いてみる。ラガシャって発音に近い神がいれば、何か関係があるかも――
「おや、神の研究ですか。勉強熱心ですねえ」
声をかけられて、顔を上げた。
そこにいたのは、青いローブを頭にかぶった女性だった。年齢は多分俺と同じぐらいか。ローブ姿ということは魔法使いか、そうでなければどこかの教団の巫女や神官の可能性もある。
「ええ。調べたいものがありまして」
「水の神ですか。水の神は分布が複雑ですから難しいですよねえ」
「そうなんですか。新米の神官なので、そのあたりのこともよくわかっていなくて……」
「ええ、水の流れというのは、地下水などで意外なところがつながっていたりもするものですし。神のほうもけっこう忘れていたりするんですよ」
神のほうも忘れるって変な表現だな。やっぱりこの女性は神官なのか。
あるいはこの人も霊感が強くて神みたいなものが見えたりする?
「まあ、神のいいところは原則不死なところです。呑気な神も少しずつ成長していけばいいのです。あなたのように仕える神のために汗をかいてくださる方がいる場合はなおさらです」
「そうですね。神が満足しているかは疑問ではありますけど……やれることをやるだけです。あの、自分はユートという竜神ラガシャの神官ですが、あなたは?」
「わたくしはアルカランという名前です。また出会えることを楽しみにしていますね」
そう言ってそのローブの女性は去っていってしまった。
いったい何だったんだろう?
ふと、本のある場所に意識が向いた。
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アルカラン 州の内陸部の代表的な神格の一つ。水の神としてよく知られる。またアルカラン自体の信仰とは違うが、近隣の神の多くがアルカランの子供という伝承を持つ。
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えっ……? じゃあ、今のって……。
あわてて周囲を見回したが、もうあの女性はどこにもいなくなっていた。
あのアルカランって人が神様だとすると、もしかしてラガシャの母親だったりする……?
ラガシャとナタタと合流したあと、ラガシャにこう聞いた。
「お前って母親とかっているの?」
「知らんです。竜神ラガシャは竜神ラガシャですらありません。朕がいればそれでいいのです」
なんか偉そうだなと思った。
「変な神に会ったってユートの頭にちょっと書いてますね。朕は気にしないです。本当に何も覚えてないですし」
本人がどうでもいいと言ってるのだから、それを信じることにしよう。
◇
俺たちがクリエスタの町に戻ると、報告してたわけでもないのに、町の出入り口に小さな花の輪ができていた。
「優勝、準優勝、おめでとう!」「ラガシャ様の神官は強すぎる!」「世界一神官が強い神様だよ!」
俺とナタタは手を挙げて、それに応える。もちろん、ラガシャも周囲にしきりに手を振っている。
「どうですか! お前たちも朕を信仰していることを誇りに思うのですよ!」
ラガシャが威張りまくってるが、こんなに威張れるチャンスはなかなかないし、どんどん威張ればいい。こんな時に謙虚になるのもおかしいしな。
それと、町に戻ったらまず行くところは決めていた。
俺たちは町の大工のノーマンさんのところに行った。小さな作業場では弟子らしき若い二人組と何か作っていた。
「ノーマンさん、優勝賞金三千万ゴールド、準優勝の五百万ゴールド。合計3500万ゴールドあります。これで滝のそばに教会を作っていただけませんか?」
「もちろん作らせていただきます! 任せてください!」
ノーマンさんもやると言ってくれた。
これで滝のそばに教会ができる。ついにラガシャの「家」を滝の横に作ることができる。
「朕の信仰が全盛期の頃に戻った気がするのです。たくさんの人がお参りに来てくれるように、早く作ってほしいのです」
ラガシャも感無量という顔をしている。
やっぱり神は、たくさんの人間が来てくれることがうれしいんだな。
「たくさんの人がお参りに来ればお賽銭も増えるので、維持管理もしやすくなるのです。いろんなものが好循環になるのです」
結局、金かよ!
まあ、金がないと何もできないのは事実だが、もうちょっと尊敬できる表現を使ってほしい。




