14 神官、武術大会の予選を突破する
数日後、俺たちはコノ―ティアへ向かって出発した。
コノ―ティアは北の中心都市で、冬場になるといろんな渡り鳥がやってくることで知られている。あと、温泉地も近いので南部の都市を拠点にしている冒険者が休息を兼ねて行くこともある。
そんなコノ―ティアの円形競技場で武術大会が開かれるのだ。
競技場の周辺は試合がない日にもかかわらず、出店がけっこうあってにぎわっている。
「このへんの人間がみんな朕を信仰してくれたらいいんですけどね~」
「そんな都合いい話はないぞ。まあ、こつこつ増やしていきゃいい」
にぎわってるから俺がラガシャにしゃべりかけたところで、虚空に話しかけている変な奴とは思われないだろう。
「腕が鳴るっス。前回はベスト4止まりだったので、もっと上を目指すっスよ」
「ベスト4ってかなり惜しいところまでいってるな!」
「まあ、クジ運も大きいので、そこまで威張れることじゃないっス」
ナタタはそう言ってるが、ナタタに目を向けている人間は多い。このあたりだと名の知れた剣士なんだろう。
「にしてもナタタがそんなに強いならユートも知ってそうなものなのです。情報って案外閉じてるですね」
「俺が拠点にしてたのはコビルタって南側の港町で、しかもダンジョン探索メインの冒険者だからな。武術大会に出場するような求道者タイプの奴と接点はないんだ」
とはいえ、武術大会の上位陣の名前ぐらいなら知ろうと思えば知れたはずで、かつての俺はそのへんのことに興味がなさすぎたのかもしれない。
普通、治癒師が武術大会に出ることはないので、そのせいもあるか。
俺とナタタは受付で無事に明日からの大会の登録をした。
今回の武術大会は魔法使用禁止のもの。なお、試合後に治癒魔法を使うようなことは可能だ。
まず、明日の予選でベスト16まで人数をしぼる。そこでベスト16に選ばれれば明後日の大会に出場できるという仕組みらしい。
「予選のコツはケガをしないことっスね。でも、ユートさんは試合の後に治癒魔法を使えばいいから、まだマシっスね。かなり有利な人材っス」
「たしかに自力で回復できる武道家って強そうだな……」
翌日の予選会は俺とナタタで違うグループだった。参加者が多いので、前半と後半に分かれる形だ。
まず俺が競技場に通される。中にはいかにも武道家っぽい奴、木の剣を持っている奴などが五十人ほどいた。予選は二グループに分けられるはずだから、このうち十人弱が残るのか。
ただ、この中に一人、イレギュラーがいる。
「へえ、内部ってこんな構造になってるのですね。みんな筋肉ムキムキなのです」
どうせ見えないだろうということでラガシャが入り込んでいる。自分が見える奴は多分いないだろうという発想らしい。あんまり余計なことするなよ。ここに入ってきてる時点で余計だけど。
「いいですか、自己紹介できる機会があれば瞑想の滝の竜神ラガシャを宣伝するのですよ。宣伝だけならタダですからね。どんどんアピールするのです」
うるさい……。それと、予選に自己紹介タイムなんてない。
はっきり言って、ものすごく緊張してきた。
武道家になって間もないし、こんな試合に出る機会も初だ。
全員がとんでもない強豪に見える……。
冒険者ギルドの中でもこんな緊迫した空気はなかったんだよな。ギルドの中で冒険者同士が戦うことはないからそんなにピリピリすることもなかった。ケンカはあっても例外的だ。
ナタタの話では何人か倒せば予選突破ぐらいの実力はあるとみなされるから、弱そうな奴を数人倒せということらしい。でも、弱そうな奴を見抜くほどの眼力が俺にないから、そのアドバイスは役に立たん。
まあ、敵が向かってきたらそいつと戦うぐらいしかないか。
この町はかなり離れてるからユートって名前だけでBランク冒険者を倒した奴だってことは広まってないだろう。南から遠征してる奴が多数いたら……その時はその時だ。
審判員たちが競技場内に出てくる。こいつらが試合内容などで予選突破の人間を決めるのだ。
ガアァァァァァァァァンッッッ!
審判員の一人がドラを鳴らした。
まずはみんな様子を見ている。いきなり仕掛けて目立ちすぎてもデメリットが大きそうだ。
と、ラガシャが一人てくてく歩いていった。お前、うろちょろするなよ……。誰も注目してないから気づかれてはないようだが。
長髪の男の横に立って指差す。
「ユート、こいつ、あんまり強そうじゃないのです。ここに来るまでの動きも無駄が多かったように思うのです! 倒すならこいつからなのです!」
失礼すぎる!
でも、その参加者と目が合ってしまった。こうなったら戦うしかないな。逃げるみたいになるのも変だし。
長髪の男に踏み込んで、拳を放つ。
いきなり攻め込まれると考えてなかったのか、思った以上にきれいに拳が顔に入ってしまった。
「ぶげぇっ!」
「あれ? けっこう当たるもんだな……」
倒した俺が一番驚いていた気がする。
「だから、ちゃ~んと選定したのです。いきなり誰かと戦うことにはならないだろうと油断してる奴を狙ったのです。集中力みたいなのは観察すればだいたいわかるのです」
それって反則だよな……と思うが、無関係な奴を連れてきてしまった時点でもう反則だ。
でも、服を引っ張るみたいなのは、やめとけよ。勝負結果に影響する不正までやったら、神官を引退するぞ。
「そこは気をつけるのです。神官五人ぐらいの規模を目指すのです」
目標は思ったより謙虚だな。あくまでも地域密着でやっていくつもりか。
「次は、この剣士が狙い目なのです。友達の冒険者が応募してしまって、やむなく参加した奴なのです。さっき愚痴ってるのを聞いたので間違いありません」
そんな奴いるのかよと思ったが、この予選だけでも五十人いるのだかr、意欲のない参加者もいるか。
俺が近づいたらひるんだので、さっと木製の剣を奪い取って、腕に力を込めて突き倒した。
けっこういけるもんだな。
もう一人、ラガシャが指定した奴を殴ったところで、審判員の一人から「合格! もう下がっていい」と言われた。早目にいい成績を出してるから拾い上げてやろうという扱いだ。
「おいおい、もう三人抜きか!」「なんて奴だ!」
あんまり褒めないでほしい。疑惑がいろいろとある。
しょぼい奴しか倒してない気がするので、こんなので本戦をやれるのかな……。本戦であっさり負けたら恥ずかしいが、その時はその時だ。
競技場の外に出たら、ナタタが手を挙げていた。
「予選突破っスか? ユートさんはどうせ勝てると思ってたっスから、順当な結果っスね」
「そう言ってもらえるとうれしいけど、まだ実感はないな……。どこかで化けの皮はがれるんじゃないかな……」
このあと、ナタタが後半の予選に出ていったが、十分もたたずに戻ってきた。立て続けに五人倒して予選突破と認められたらしい。
「二人とも明日もたくさん勝つのです。立派な教会を建てるのです!」
まあ、ナタタも本戦に残ってるし、俺は気楽にやろう。武道家として有名になってもメリットないしな。
と、ぽんぽんとナタタに肩を叩かれた。
「先輩、絶対に勝ち残ってくださいっス。ガチで一度やってみたいっスから」
あれ、顔が笑ってるけど、目が笑ってないような……。




