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忘れられた神、復活です  作者: 森田季節


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13 神官、町に臨時の教会を用意する

 とてつもない速度で木の剣が目の前にやってくる。



「危ねっ!」



 俺は転がって、剣を回避する。その先に剣がまた振り下ろされるので、同じように転がってすぐ立ち上がる。



「おお~、先輩、速いっスね~。弱い人は最初の一撃を回避できずにそれで終わっちゃったりするっスよ」



 ナタタの声はのんびりしているが、動きのほうはそれとまったく合ってないほど速い! そのせいかしゃべられると脳が混乱する。



「お前、なんでおっとりした口調なのに、そんなに高速で動けるんだよ!」


「剣士がおっとり動いたら勝てるわけないっス。速くなきゃどうにもならないっスよ」


「おっしゃるとおりだな! くそっ! 攻めに転じられない!」


「でも、先輩の動きも高速っスよ~。ただ、もったいないっスね~。体の動き自体は無駄が多いっス」



 ああ、たしかになと俺は思った。



 俺は(おそらく)ラガシャの第一の神官になったせいか、急に運動能力が上昇しただけの存在で、武道家として研鑽を積んだわけではない。だから、動きに無駄があるのは当然だ。



 離れたところではラガシャが腕組みしながら、まるで師匠みたいに見守っている。



「二人とももっと励むのです! 必ず(ちん)に仕える神官が優勝をかっさらうのです!」



 あんまり神が言っていいセリフじゃないな。



「いずれ教会も作って、その次は教団の所領も広げていくのです!」



 前向きなのはいいことだ――と思おう。子供が夢を持っているのは正常なことだ。何歳かは知らないが。



「さあ、行くっスよ!」



 ナタタが思いっきり俺の頭に木の剣を振り下ろしてくる。それ、木でもケガするだろ!

 こいつ、完全にこっちを武道家という扱いで接してるな!



 いや、いつのまにか武道家並みに強くなった治癒師なんて存在を体感で理解することは難しいよな。武道家ならこれぐらいは対処できると思ってるんだろう。



 俺はとっさに両手を出した。剣をなんとしても防がなければという無意識だ。



 両手のひらが剣を挟み込んだ。



「うおっ! すごいっス! 白羽取りっスね!」



 そういう技名があるのか。治癒師だったから知らん。

 そんなことよりチャンスがあるとしたら、ここか!



 俺は木の剣をどかすと、頭からナタタに突っ込む。



「うわ~っス!」



 どんなに強い剣士でも、女子の体重は物理的に軽い。そのままマウントを取って、制圧する形にする。

 そんなのは勝ち負けと関係ないと言われたら厄介だが、女子の顔や腹は殴れない。これで俺の勝ちということにしてほしい。



「俺の勝ちってことでいいか? まだ続けるんだったら、お前の勝ちでいい。俺はもうやりたくない……」


「そ、そうっスね……」



 悔しいのか、俺に乗っかられているナタタは多くを語らない。



「あの……先輩……こうやって押し倒されるのはかなり恥ずかしいっス……」



 それで状況に気づいた。



「あっ! 悪い、悪い!」



 俺はすぐ飛びのいた。戦闘のことだけ考えていて、相手のことを考える余裕がなくなっていた。



「いや~、一人で山籠もりしていたので、変にときめいちゃうっスね~。びっくりしたっス」


「すまん。戦闘の流れだ」


「しかも、若い子にくみし抱かれるって変な感覚っス。これは危険っスね~」



 若い子? そういえば、ナタタって何歳なんだ? エルフだと見た目で年齢がわからん。



「ナタタって何歳なんだ?」


「先輩、それは女性に聞いてはダメっスよ~」



 こう言われると、どうしようもない。



「じゃあ、先輩って言うなよ」


「神官では先輩っスよ」



 それはそうだった。



「あっ、そうだ、(ちん)の教義にこれを入れるのです。『女性に年齢を聞いてはいけない』」



 ラガシャが何か言っていた。それ、宗教じゃなくてマナーだろ。















 そのあと、俺はナタタを連れて、クリエスタの町に行った。

 理由は簡単だ。ナタタを町に紹介しておかないといけない。なお、ラガシャも暇なのか、ついてきてはいる。



「ラガシャ様の二番目の神官にったナタタっス。よろしくお願いするっス」



 町の人たちは「久しぶりにエルフを見たよ」とか「ユートさん、色香に迷うなよ」(これは余計なお世話だ)とかいろんなことを言ってきた。とりあえずエルフが忌避されたりといったことはないようだ。ちょくちょくエルフはいるしな。



「思ったよりも受け入れてもらえてるようでよかったっス」



 能天気に見えるナタタもあいさつ回りがだいたい済んだ後、ほっとした顔をしていた。



「この町は俺が一回盗賊を撃退したこともあって、基本的に印象はいいんだ。さて、後は――」



 ナタタの宿泊場所をどうするかだな。

 宿の部屋は空いてるだろうけど、どうせなら……。




「ラガシャ、ちょっと席外す。ナタタを任せた」





 俺は一人、離脱するとアントン町長のところに寄った。さっきあいさつ回りしている時に一人で農作業をしているのを見かけたのだ。


「町長、少しお願いがあるんですが」


「はあ、何ですかな」


「この町の空き家、一つ貸していただけませんか? 町外れに空いているところありますよね。お金はなんとか工面します」



 町長は俺の意図を察することができたらしい。ナタタのあいさつ回りの直後だしな。



「たしかに寝泊まりの場所は必要ですなあ。ですが、それなら宿に二部屋を用意してもらうこともできると思いますぞ」


「おっしゃるとおりなんですが……できれば一時的であれ、家をラガシャ様の教会ということにしたいんです。宿の一室だと、宿泊者以外が入るわけにはいかないので……」



 明確な理由が話せないので、奥歯にものがはさまったような形になるが……。



「ふうむ。わかりました。我が家の蔵ではどうでしょう? 少し薄暗いですが、近所の子供が遊び場としてよく使うぐらいなので、倉庫にしては広々しております。春過ぎの今の季節なら凍えることも暑すぎることもないでしょう」


「貸していただけるんですか! それはありがたいです!」


「むしろ、こんなことでいいんですかな? この町はユートさんとラガシャ様に守ってもらえたわけで、もっと尽くさないと罰が当たりそうなぐらいと思ってますが」


「罰は当たりませんよ。あいつは金には少しがめついですが、いわゆる欲深というわけではありませんし、町の方を恨んだりもしてません。セコくても人格はいい奴です」


「はて、あいつとはラガシャ様のことですかな?」


「あっ! すみません! ラガシャ様の啓示を受けることが多いもので、口が軽くなりました……」



 町長に蔵を見せてもらったが、たしかに荷物を保管する場所というより離れとして使っている印象で、ベッドさえ置けばどうにかなりそうだった。

 日中は出窓が高いので薄暗いが、そもそも日中は滝のほうに行っているわけだし、問題なさそうだ。



 じゃあ、ここを仮の教会にしよう。



 俺は倉庫の少し高くなってる場所に神像を置いた。














 ベッドを運び込んだ後、俺はラガシャとナタタを蔵まで呼んだ。ラガシャがいて少しややこしいので、町長には席を外してもらった。



「ナタタ、夜はここで寝泊まりしてくれ」


「なかなか立派っスねえ。山籠もりの時は木の(うろ)」に住んでたんで、豪華すぎて逆に体調崩しそうなぐらいっス」



 みんな、苛酷な生活しすぎだ!



「それと、ラガシャも今日から夜はここで過ごせ。滝の音聞きながら一人でいるよりずっといいだろ」





 これが俺の目的だった。

 ラガシャをどうにかしないとと思った。





 前から気になってはいたのだが、神様ではあるし、俺はガキと呼べる年齢でもないが親の立場になった経験もないし、全部中途半端で放置してしまっていた。



 でも、ナタタなら母親代わりに……は言い過ぎでも同性の友達ぐらいにはなってくれるだろう。



 少なくとも、森や山で寝てるというのはあんまりだ。ベッドぐらいは用意したかった。



「う~ん……滝のほうが気楽な気がするのです」


「俺の善意、失敗かよ!」



 まあ、善意が相手にとってもプラスに働くかは別ではあるが。さすがに夜を滝のあたりの森や山で過ごすよりはマシじゃないか。



「でも、あの蔵の奥に何かいるですよ」



 ラガシャが指差した先には明らかに霊とおぼしきものが浮かんでいた。



『ふふふ……遊ぼ……遊ぼ……。かくれんぼしよ……』



 ほんとだ……。住人がすでにいたのか。



「あ~、いるっスね。まあ、あれぐらいなら危険もないし、大丈夫っスよ」


「まっ、神である(ちん)も無害ですし、ここに泊ってやるです。一応、ユートの計画には乗ってやるです。ベッドで寝るのも悪くないです」



 へいへい、偉そうだけど妥協してくれてありがとよ。



 だが、ラガシャはわざわざ俺の真ん前にやってきた。それからこう言った。



「ありがとです、ユート」



 神から感謝されるなんてきっと神官冥利に尽きるということだろう。今日はゆっくり寝られそうだ。





 翌日、ラガシャから「ナタタの寝言がちょっとうるさいです」と苦情が来たが、そこはそっちで解決してくれ……。


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