12 神官、後輩ができる
ナタタと言ったエルフ剣士を俺とラガシャは神官詰所に入れた。ここにほかの人間がやってくると話がややこしくなる。それに椅子すらないが、野外でしゃべるよりはくつろげるだろ。
「私、昔から普通の人は見えないものはけっこう見えるんスよ。だから、ラガシャ様もすぐわかったっス。むしろ、ユートさんも見えるんスね。そっちのほうが驚きっス」
「たしかに俺以外で見えるって奴に会ったことはなかったな」
声がほかの奴に聞こえたケースはあるが、あれも声だけだし、しかもラガシャ側が伝えようとした場合なので、全然状況が違う。
ナタタはラガシャのほうに、にひひひっと楽しそうに笑いかけている。剣士というと単純な奴が多そうって偏見があるが、こいつはおそらく単純だろう。
でも、単純なのは何も悪いことじゃない。とくにこいつは性格がいい気がする。
それで、問題は、この剣士の扱いをどうするかだ。
ラガシャが存在するという情報が広まったからって、どうせ大多数の人間には見えないのだから、大きな問題にはならないかもしれないが。おそらくホラ話だということになって、すぐ収束するだろう。
まあ、ラガシャに任せればいいのか。なにせラガシャに仕える神官なのだから、ラガシャが嫌だと思ってるなら採用しようがない。
「あっ、神様もお菓子食べるっスか? ほら、クッキーならあるっスよ。途中の町で買ってきたっス」
「よし、ナタタ、お前を朕の序列第二位の神官に任命してやるのです!」
クッキーで釣られた!
「お前、雑に決めすぎだろ」
「クッキーは冗談としても、朕のことが見えるというなら神官の素質はあると言えるのですよ。コミュニケーションも取りやすいのです」
「たしかに……」
ラガシャが見えない奴が神官になっても、俺がラガシャの声を聞いたという話をとても信用できないだろう。となると、俺が霊が見えると言って気持ち悪がられたのと同じ展開になる。原則、神官はラガシャが見える奴にしたほうが楽だ。
「わかりましたっス! しっかり序列第二位の神官を務めるっス! ナンバーツーだから幹部っスね。太っ腹っスね!」
「ああ、お前は二人目の神官だから、二位でもあるけど、最下位でもあるぞ」
あとでトラブルにならないようにこの教団の規模はちゃんと伝えておく必要がある。
「現在、朕の信仰は確実に広がっているのです。朕の教えを学んだら、お前の修行してた場所のほうでも布教をするのです!」
「わかったっス! たくさん教えるっス!」
ナタタはいい意気込みだ。ラガシャの話し相手にもなってくれそうだし、よかった。
「ところで、ラガシャ様の教えってどんなものなんスか?」
ラガシャが固まった。
「ええと……ええと……『みんな仲よく元気よく。早寝早起き』ではどうでしょう?」
「いや、子供の目標かよ」
悪いことじゃないけど、悪くなけりゃ何でもいいってものじゃない。
「いいっスね、いいっスね! それでいくっス!」
「いや、お前もそれで納得するな」
ラガシャもこれには頭を悩ましていた。教義がないことがここに来て問題になっている。やっぱり経典あったほうがよかったのかな。信徒向けには不要でも神官側には必要になってくる。
「まあ……しばらくナタタもここにいるでしょう? そこで言葉にできない教えを学ぶのです」
「わかったっス!」
ナタタが何でもかんでも疑ってかかる奴じゃなくてよかった。疑り深い奴が神官をやると言うわけないかもしれないが。
話がついたと思ったのか、すっとナタタは立ち上がる。下から見上げる形になったが、こいつスタイルいいな。神官には不適切だから言わないでおこう。
「お互い神官になったところで、先輩、手合わせをしてほしいっス。ちゃんと木の剣も用意してるっスよ」
そうだった。こいつの本来の目的は俺との手合わせだ。
修行で山籠もりしてるぐらいだからガチ勢だと言っていい。ダンジョン探索などで生活している冒険者なんかより一段階以上、気合いが入っている。
「わかった。でも、本当に、本当に俺が強いのか不明だぞ? 思ったより弱くて失望するなよ……?」
「ところで、ナタタはなんでそんなに強くなりたいんです? 強いと儲かるですか?」
ラガシャの質問はいかにも金にしか興味ない奴の言いそうなものだが、強さを極めたいって気持ちはわからない奴にはわからないだろう。俺もそういう奴がいるとは知ってても強くなりたいと思ったことがない。
「強くなるのはロマンじゃないっスか~。とくにもうすぐ北の都市のコノーティアで武術大会があるんでそれまでに調整しときたいっス」
「ああ、そういう大会はあるんだな」
そりゃ力試しの場とかはあるか。自己満足で強くなれればそれでいいってわけにはいかないだろう。
「上位まで残るとけっこうお金も出るっスよ。優勝者は三千万ゴールドぐらい出るはずっス」
「へえ、けっこうもらえるんだな――ぶっ!」
すごい勢いでラガシャが俺にぶつかってきて、舌を噛んだ。俺にぶつかるのは過程で、ナタタの前に移動していた。
「ぜひ出場してください! 優勝してもらえれば教会の資金になります!」
あっ……! そうか! たしかに田舎で三千万ゴールドなら小さな教会なら本当に作れるだろう。
ただ、ナタタが金に困ってるなら、賞金をいただく前提というのは無理だ。
「ナタタ、お前、経済的には――」
「あ~、賞金が出たらあげるっスよ~。山籠もりの生活なんて自給自足みたいなものっスし」
「完璧です! さすが朕に仕える神官です!」
現金な奴すぎるけど、まともに寝る部屋もない幼女が言ってると思えば許せてしまう。というより、住居ぐらい確保しようと動かなかったのか。
「あっ、そうそう。ユートも参加するのですよ。二人参加すれば優勝可能性も上がるのです!」
「えっ!?」
「よし、今から二人でたくさん手合わせするのです!」
もう俺の【天職判定】の結果、「特級聖職者」じゃなくて「武道家」であるべきだろ……。
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