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忘れられた神、復活です  作者: 森田季節


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10/22

10 神官、元の鞘に戻らないと誓う

 俺の前にクラン【ガーゴイルの眼】の四人が揃っている。

 剣士のマークスに魔法使いのリジェ、盗賊のカイン、女剣士ランカ。



「やっほー。どう? いい調子でやってる? いや、ある程度知ってるからこんな滝まで来られたんだけどね」



 陽キャの性格の魔法使いのリジェが最初に声を出す。たしかに偶然出会うような場所じゃない。



「……ちっす」



 盗賊のカインはやりづらそうに小さくあいさつをした。黙り続けるのもなんか嫌なんだろう。



「久しぶりだな。約一か月ぶりぐらいか」



 俺もそう言葉を返すのがやっとだった。まだ相手の目的がわからないので何を話していいかわからないのだ。



「お、お久しぶりです。ユートさんがご活躍なのはコビルタの町のギルドでも話題になっています」



 少し内気な女剣士ランカが教えてくれた。拠点にしてたあの町を離れてけっこう経つが、いい意味で噂になっているなら悪いことじゃないな。



「へ~、これがかつてのクランの人たちですか~。あんまりぱっとしませんですね~。稼いでるというほどではないってことですかね」



 じろじろラガシャがみんなをぶしつけに観察している。まあ、俺にしか見えてないから大丈夫だろう。



 まだ独特の緊張感が漂っている。

 理由は明らかだ。来訪目的がいまだに読めないからだ。冒険者というのは武力を持った存在なので、目的があいまいなまま近づかれると少し怖い。



 まだマークスは一言も口を発していない。リーダーのマークスはおそらく俺を追放することも正式に決めた人間だ。空気が悪くなると言い出したのはカインの可能性もあるが、その意見を採用したのはマークスのはずだ。

 こいつが合わないと思ったのが一人だけなら誰かが追放される流れにはならない。



「なあ、なんでこんな辺鄙な場所で神官の修行をするなんてことになったんだ?」



 ようやくマークスが口を開いた。

 質問としては悪くない。たしかに俺は変なことをしている。



「治癒師は人を癒す仕事だから、神官になる者も多い。マークスもよく知ってるだろ」


「それはそうだが、それは教会や神殿がちゃんとある教団に所属する神官が前提だ。ちょろちょろ流れる滝があるだけの場所で修行僧みたいな生活をするのはまた別だ」



 ラガシャが「しょうがないじゃないですか! 川の流れが変わったのか水量が減りまくってるんですよ!」と文句を言っている。

 水量が少ないこと、コンプレックスがあったんだな……。



 たしかに滝として立派だったら、もっと人が訪れるし、ラガシャも信仰されたかもしれないな。滝で祀られていたがゆえに滝の影響が意外と出たのかもしれない。



 それはそれとして――

 元仲間のよしみだ。ここは正直にしゃべってやろう。




「神の啓示だよ。神官をやってくれないかと神に頼まれた。霊感が強いってずっと言ってただろ。ついに神の声まで聞こえちまったんだよ」



 実際には声どころか姿もはっきり見えるけどな。



「ああ……。だとすると、洞窟で俺を叩いたのも、本当に霊がいたからってわけか。少なくとも、ユートにとったら悪意じゃなかったってことは認めるよ」


「それがマークスにわかってもらえただけでも嬉しいな」



 これは俺の偽らざる本心だ。

 自分を追い出した奴から、お前は悪い奴じゃなかったと言われた。何が変わるわけじゃないが、気持ちはいい。



「ほんとはもっと北の町に向かうつもりだったんだけどな。神にお願いされたら聞かざるを得ないと思ったよ。だから、神官をやることにした」



 盗賊のカインが少し笑った。こいつはリアリストだから神に頼まれたという部分が信じられなかったんだろう。霊が見えるどころの話じゃないからな。



「そりゃ、知能の高い魔物か何かのイタズラだぜ。もし神がいらっしゃるなら、この世界に苦しんでる人間がうじゃうじゃいる理由の説明がつかねーよ」


「その答えは神のである(ちん)もけっこう苦しんでるぐらいだから、人間が苦しむのは当たり前なのです! べろべろば~! あっち行け~! 神様信じない奴はお賽銭すらくれないから無価値なのです!」



 カインの真ん前でラガシャが余計なことを言っている!

 こいつ、神とはいっても精神年齢は七歳児だな……。まあ、聖人君子のお守りをするのも肩が凝りそうだけど。

 しかし、これだけ近くで煽られたら見えそうなもんだけど、どうなんだろう。



「……カイン、お前、何も見えないのか?」


「はぁ? 見えるわけねえだろ。なんかムカつくような気もするけどな」



 至近距離でバカにされたら影響出るのかな……?



「別に信じてくれとは俺は言わない。霊感と同じで全員にわかることじゃないんだ。わかることが幸せとも思ってない。変なこと言ってると思ってくれてもいいぜ。帰って、好きなだけ笑ってくれよ」



 これが俺の言いたいことのすべてだ。信じてもらえなくてもいい。

 しかし、自分の目には霊とかラガシャが見えてしまうのだから、無視はできない。



「いや、まだ帰るわけにはいかないんだ。用事が一つある」



 マークスが俺の顔を見た。あいさつだけに来るとは思ってなかったが、何か張り詰めた顔をしている。マークスの中ではプレッシャーになるようなことなんだろう。



「俺たちのクラン、【ガーゴイルの眼】に戻らないか? 前回は言いすぎた」



 ああ、そういうことか。

 俺の噂が広がってるってことは俺がやけに強くなったっていう情報も確実に届いてるということだ。変な治癒師が滝のそばで神官を名乗りだしたなんて情報だけで冒険者がここに来るわけがない。



 実力のある冒険者なら所属してほしいよな。【ガーゴイルの眼】はレベルで言えば平均的なクランだ。飛躍につながりそうな「武道家もどき」が入れば一気に飛躍につながるかもしれない。



 ただ、答えはすでに決まっていた。



「マークス、俺は――」



 そんな俺の声は別の声に遮られた。





『あなたたち、恥を知りなさい』





「なんだ、誰がいる?」「上か? 岩壁の上か?」




 マークスとカインが同時に反応した。ということは、この声は俺だけに聞こえるものじゃなくて、音声としてこの場の全員に届いているってことだ。



 もっとも俺には声だけでなく、姿も見えている。

 ラガシャがクランのみんなの宙空に浮き上がっていた。



 いつものラガシャからは想像できないほど、その雰囲気は神々しく、表情も険しかった。





『恥を知らない者は、またほかの者の尊厳を踏みにじることでしょう。(ちん)が罰を与える前に早く立ち去りなさい』





「なんだ、この声! こんなものは幻聴だ! 神がいるなら、自分に従え、信仰しろと姿を見せりゃいいんだ!」




 カインが喚いている。言葉は強いが表情に余裕はない。聞こえるはずのないものが聞こえてしまっているとわかっているんだろう。



「これ、どこから聞こえてるんだ? 本当に神とやらがいるのか?」



 マークスも恐れた声を出している。

 この二人の反応だと、声は聞こえても姿は見えてないのか。




『立ち去りなさい。あなたたちがここに来る資格はありません。さあ、さあ! ……いいかげん立ち去るのです!』



 あっ、なんか素に戻ってきた……。

 厳かな口調、ちょっと無理してたんだな。



「マークス、帰ろ。私たちは入り口を間違ったんだよ」



 魔法使いのリジェが言った。



「最低でも、私たちはなぜ追い出したユートにまた戻ってきてもらいたいか、その説明をしなきゃいけなかった。そこをぼかすのは、自分たちが間違ってたって認めることになるからだ。そこのズルいところをこの不思議な声もわかってて、怒ってるんだよ」


「で、でも、俺はユートにいきなり叩かれたんだぞ!」


「ユートの言葉がすべて事実なら、それも霊を追い出すためって正当な理由があったことになる。それを認めるなら、追い出すほどの判断はやりすぎだってことになるよね」


「うっ……それは……」



 マークスは言葉に詰まった。



 俺が急に強くなったという部分を信じるなら、俺の霊感も信じないと話が合わない。

 となると、俺の追放の判断は過剰だったことになる。



 まあ、俺がはっきり意見を言ったほうが話が早いか。



「マークス、俺はラガシャって神の神官なんだ。お前たちのところに戻るのは無理だ。神に仕えるっていうのは、それぐらいには責任が生じるんだよ」




 そう、神官っていうのは、アルバイトじゃないんだ。なってしまったからには、神様を裏切るわけにはいかない。




 視線を浮かんでるラガシャのほうに向けた。

 こんな子供を放っていくのは無理だろう。せめてラガシャを信じる人間がもっと増えて、俺がいなくても教団が軌道に乗るぐらいまでは面倒を見なければいけない。なにせ神官は俺しかいないのだ。



 俺とラガシャ、二人しかいないところで一人が出ていったら、それは残った側にとったら追放されたのと同じだ。



 それをやったら俺はマークスと同じことをやったことになる。



「……わかった。今日は帰るよ」



 マークスが俺に背を向けた。それを合図にみんなは去っていった。リジェが俺のほうに「ごめんね」と一言詫びを入れた。やっぱりリジェ、コミュ力高いよな。









 誰もいなくなったところにゆっくりとラガシャが降りてきた。



「お前、けっこう神々しくてかっこよかったぞ」


「でしょう! 信仰がかなり強くなったので、声を届けるようなこともできるようになったんです!」



 神の機嫌がなおったようなのでよかった。まさにそれが神官の仕事な気もするしな。



「……でも、すごく疲れたのです。あんなことはあまりしたくないのです」


「まあ、そうだな。神が気楽に人間に声を届けるなんてあまり聞いたことないな」


「それでもやらなきゃいけないぐらい必死だったのです」



 と、ラガシャが寂しそうな顔をした。



「ずっと、ひとりぼっちだったんですから……またあんな頃に戻るのは嫌です……」



 やっぱり神様だろうとなんだろうと、こいつはちっこい子供だ。それが誰にも気づかれないままだったら、本当に苦しいはずだ。おそらく言葉では表現できない。



 頭でも撫でてやるかと思って……やっぱりやめた。子供扱いすると、多分怒りそうだ。



「なんか悩んでますね。撫でたりなんてしなくていいです。ガキじゃないのです」


「だな。俺の判断が正しかった」


「その代わり、『どこにも行かない、神官を続ける』と言うのです」




 なんか、俺のほうが泣きそうになった。

 いじらしいこと言うじゃないか。




「どこにも行かない、神官を続ける」




 俺は神に誓った。


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