表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天涯孤独のアラフォー元事務員、騎士団の副団長に溺愛される  作者: 桐生 翠月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/30

8.夜の騎士と二人きりの時間

その夜、騎士団の激務を終えたライゼルが別邸にやってきた。彼はアーヤが作成した在庫管理表のおかげで、報告書作成の時間が大幅に短縮できたと、興奮気味に語った。


「アーヤ殿、改めて感謝します。事務作業が苦手な私にとって、あなたは本当に救いの女神です」


「そんな、大袈裟な」


別邸のテラスで、二人きり。夜空には、地球では見えない、青と紫のグラデーションの美しい月が浮かんでいた。


「大袈裟ではありません。私は、剣術も馬術も人並み以上にこなしますが、どうにも細かい書類仕事は苦手で。父上からは、事務能力のなさをいつも叱られていました」


ライゼルは、いつも完璧に見える制服の襟を緩めながら、少しだけ弱音を吐いた。


「私は次男坊ですから、将来は領地を継ぐことはありません。ですが、レイヴァーグの名に恥じぬよう、騎士として国のために尽力したい。そのためには、あなたのような支えが必要だったんです」


アーヤは、ライゼルの隣に座りながら、そっと尋ねた。


「ライゼル様は、どうしてそんなに優しいのですか? 私のような、どこの誰かも分からない者を、こんなにも気にかけてくださって」


ライゼルは、月を見上げたまま、静かに答えた。


「初めて森であなたを見たとき、不思議な感覚がしたんです。まるで、遥か遠く、手が届かない場所から、大切な宝物が落ちてきたような……」


彼は、アーヤの方に顔を向けた。青い瞳が、月の光を浴びてキラキラと輝いている。


「そして、あなたがこの世界で、その長い寿命を孤独に過ごすのは、あまりにももったいないと思った。アーヤ殿には、もっとたくさんの人に愛され、幸せになる資格がある。だから、私が、この世界の全てを教え、あなたを守りたいと思ったのです」


ライゼルの真摯な言葉に、アーヤの胸が熱くなった。


「ライゼル様……」

「私は、あなたを侯爵家の客として扱ってはいません。私は、あなたのことを、初めてできた大切な人だと思っています」


ライゼルは、そっとアーヤの手を取り、自分の頬に当てた。彼の肌は熱く、少し汗ばんでいたが、その顔は優しさに満ちていた。


「この先、私が騎士団でどれだけ忙しくなっても、あなたの生活と教育の面倒を見ることをお約束します。だから、あなたは安心して、この家で新しい人生を楽しんでください」


「はい。ありがとうございます、ライゼル様」


二人の間に流れる時間は、夜空の月明かりのように、静かで、そして甘美なものだった。アーヤは、長年忘れていた異性へのときめきを、この異世界で、年下の騎士から感じていた。

ライゼルは、アーヤの手をそっと離すと、いつもの副団長の顔に戻った。


「さて、明日、騎士団本部で大規模な訓練があります。私はもう戻りますね。アーヤ殿、おやすみなさい。良い夢を」


「おやすみなさい、ライゼル様」


テラスから立ち去るライゼルの背中に、アーヤは思わず小さな声でつぶやいた。


「……私も、ライゼル様が大切です」


その声は、夜風に乗ってライゼルに届くことはなかったが、アーヤの心の中では、新しい感情の炎が、静かに灯っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ