7.精霊との対話と能力の片鱗
アーヤの事務能力が侯爵家の中で話題になる一方で、彼女自身の魔法能力については、まだ何の進展もなかった。
グレンヴァルト侯爵は、アーヤの持つ驚異的な寿命と、魔力回路がないのに精霊に好かれる現象を異世界の神の加護ではないかと考えていたが、結論は出ていない。
アーヤ自身は、自分が魔法を使える気が全くしなかった。
ある穏やかな昼下がり。アーヤは別邸の中庭で、ライゼルから借りた『魔法薬の基礎』という本を読んでいた。
(この世界の魔法って、難しいわね。詠唱と、魔力回路を通してのイメージ……私には無理だわ)
そう思った時、中庭の隅にある、元気がなかった小さな花が、パッと明るい黄色に色を変えた。
「あら?」
アーヤが目をこらすと、その花の周りを、まるで蛍のような光の粒が、楽しそうに飛び回っているのが見えた。
(もしかして、あれが、精霊……?)
彼女の意識が花に向けられると、光の粒が一斉にアーヤに向かって飛んできた。
「わっ!」
光の粒は、まるで小さな子供がじゃれるように、アーヤの指先や髪に触れた。怖くはなかった。むしろ、心地よい温かさを感じた。
その時、一際大きな光の粒が、頭の中に直接話しかけてきた。
『アーヤさま、アーヤさま。わたくしたちの力を、使ってみてはいかがですか?』
「え……? あ、あなた、話せるの?」
『はい。わたくしは、この庭に住まう治癒の精霊です。アーヤさまの心はとても綺麗で、魔力のパイプがなくても、わたくしたちの声を届けられます』
治癒の精霊は続けた。
『アーヤさまが願うこと。それを、わたくしたちが実現いたします』
(私が、願うこと……)
アーヤは、すぐに思いついた。
「お願い。この、ライゼル様から借りた本。ここに書いてある全ての知識を、頭の中にスッと入れて、いつでも引き出せるようにしてほしいの。」
それは、地球でいう知識チートを願うようなものだった。
『承知いたしました。簡単なことです。精霊の図書館を開きます』
光の粒が、アーヤの頭の周りをぐるぐると回り始めた。そして、パチパチと小さな音がしたかと思うと、借りた本の全ての情報、この世界での薬草の種類、調合方法、歴史的背景が、瞬時に彼女の脳内に整理されて格納された。
まるで、図書館の検索システムにアクセスするような感覚だった。
「すごい……! 全て、理解できた……!」
アーヤは驚いて立ち上がった。彼女の目には、精霊の姿がはっきりと見えていた。
この瞬間、アーヤは自分が持っている真の能力の一端を知った。それは、この世界の魔術師が必死に練り上げる魔力を介さず、精霊を直接使役し、その力を借り受けるという、規格外の能力だった。
彼女の膨大な寿命と、この精霊を使役する能力。これは、この世界の常識を根底から覆すものだった。




