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天涯孤独のアラフォー元事務員、騎士団の副団長に溺愛される  作者: 桐生 翠月


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45.四つの輝き、清め手の目覚め

 迷いを断ち切った二人の前で、足元にまとわりついていた黒い霧は地底へ吸い込まれるように消失し、再び樹海の深淵が姿を現した。地の精霊王が、地底から響き渡るような豪快な笑い声を上げる。

 

『よかろう。己が影を乗り越え、大地に根を張る覚悟、確かに受け取った。星の迷い人よ、この地の(よど)みを払い、真なる地の息吹を呼び戻すのだ!』

 

 精霊王の言葉と共に、祭壇の周囲を覆っていた泥のような澱みが、牙を剥いて襲いかかってくる。だが、今のライゼルに迷いはない。彼は聖剣を大地に突き立てた。アーヤの持つ三つの守護石が(まばゆ)く共鳴し、その輝きを刀身へと注ぎ込む。放たれた神聖な衝撃波が、押し寄せる澱みを力強く押し留めた。

 

「アーヤ、今です!」

 

 ライゼルの背中に守られるようにして、アーヤは祭壇の前に膝をつく。火、水、風、三つの守護石が、これまでにない激しさで脈動していた。

 

「……お願い、みんな。力を貸して!」

 

 アーヤが祈りを捧げると、火の紅、水の青、風の緑、そして地から湧き上がった黄金の光が一つに混ざり合い、天を突く光の柱となった。

 

 浄化は瞬く間に樹海全域へと広がり、黒い泥は瑞々しい若草と花々へと姿を変えていく。やがて光が収まったとき、アーヤの手の中には、落ち着いた黄金色にも似た、深みのある山吹色の輝きを放つ地の守護石が握られていた。

 

 手のひらに伝わるその石は、見た目よりもずっと重く、大地の温もりが宿っているようだった。

 

 ——次の瞬間。アーヤが手にしていた四つの守護石が、彼女の手を離れて宙に浮き、彼女を取り囲むように輪を描き始めた。

 

「え……? 守護石が……」

 

「アーヤ、下がって!」

 

 ライゼルが駆け寄ろうとするが、四色の光が形成する障壁に阻まれる。四つの石は一つに融合し、(まばゆ)い白銀の輝きを放つ、()()()()()へと姿を変え、アーヤの胸元へと吸い込まれていった。

 

 光に包まれたアーヤの姿が、ゆっくりと変わっていく。陽の光を溶かし込んだような透ける金色の髪がふわりと舞い、瞼が開かれると、そこには澄み渡った空のような瞳が輝いていた。

 それは、ただの異界の民ではなく、この世界のすべての穢れを打ち払う()()()()()()としての目覚めだった――。

 

 光が収まった樹海の祭壇に、かつての澱みはひとかけらも残っていなかった。アーヤは、その身に四つの守護石を宿し、纏う空気さえも神聖なものへと変貌している。

 

 地の精霊王は、その様子を満足げに見下ろし、次に視線をライゼルへと向けた。

 

『騎士よ。己の弱さを認め、それでもなお大切な者を守り抜こうとするその心根、見事であった。そなたにも、この大地の不屈なる力を授けよう』

 

 精霊王が告げると同時に、ライゼルの肩に黄金の光が宿り、鈍い熱を帯びながら地の刻印が刻まれていく。幾層にも石板を重ね合わせたような、幾何学紋様のそれは、どんな嵐にも揺るがない大地の守りそのものだった。

 

 その時、祭壇の周囲に三つの光が寄り添うように現れた。燃え盛る翼を持つ火の精霊王、美しい女性の姿を形作る水の精霊王、そして、長い髪と髭を蓄えた老人姿の風の精霊王——これまで二人が絆を結んできた精霊王たちが、分身としてこの地に集結したのだ。

 

『『『『すべての息吹は束ねられた』』』』

 

 四つの声が重なり、地底から響くような、あるいは風の囁きのような旋律となってライゼルの全身を包み込む。

 

(……これは?)

 

 ライゼルは、己の身体の内側から、魂の器そのものが造り替えられていくような、静かで深い衝撃を感じた。これまで人として流れていた限りある時間が、無限に広がり澄み渡っていくような感覚。目に見える変化はない。しかし、自分を縛っていた寿命という枷が消え、アーヤが進む果てなき道のりを、どこまでも隣で歩き続けられる資格を得たのだと、本能が理解していた。

 

『清め手と共に歩む者よ。四つの刻印を刻みしそなたは、もはやただの短き命ではない。我ら精霊の加護により、その娘と同じ刻を歩むがいい』

 

 ライゼルは静かに、傍らに立つアーヤの手を取った。その手から伝わる温もりが、今や自分と同じ、永遠に近いリズムを刻んでいる。

 

『……行け、世界の命運を託せし者たちよ。澱みの根源が、その深淵にてお前たちを待ち構えているだろう』

 

 その厳かな声が樹海に反響し、アーヤとライゼルの背中を力強く押し出した。吹き抜ける風は優しく、確かな温もりとなって二人を包み込んだ。

 

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