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天涯孤独のアラフォー元事務員、騎士団の副団長に溺愛される  作者: 桐生 翠月


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3.レイヴァーグ侯爵家の次男

リーネから魔法のある世界だと聞かされ、綾、もといアーヤは、頭の中で必死に状況を整理していた。おそらく交通事故に遭った、そして死亡、それから異世界転移。全てが荒唐無稽で、現実感が伴わない。


「あの……、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。すぐにこの家を出ますので——」


「お待ちください、アーヤ様」


リーネは困ったように首を横に振った。


「あなたはまだ、この世界の常識も、言葉すら十分に理解できていないでしょう。当主様は、あなたが回復するまで、ここに滞在していただきたいと仰せです」


そこに、ノックとともに、重厚な作りのドアが開いた。


入ってきたのは、年若い、しかし体躯のしっかりした男性だった。年の頃は二十代半ばだろうか。整った顔立ちはどこかリーネと似ており、質の良い騎士服のようなものを着こなしている。


「リーネ、彼女の容態は? 具合が悪いなら、すぐに専属の治癒魔術師を」

「お気遣い痛み入ります、ライゼル様。ちょうど今、お目覚めになられたところです」


ライゼルと呼ばれた男性は、アーヤの傍まで歩み寄ると、膝をついて顔を覗き込んだ。その瞳は、透き通った青色だった。


「初めまして。私はレイヴァーグ侯爵家の次男、ライゼルと申します。始原の森であなたを発見したのは、私です」


礼儀正しく、しかし親しみやすい声だった。


「あ、あの……ご、ご親切にありがとうございます。橋本綾と申します。」

「ハ、シモト……ア、ヤ。……」

やはりライゼルにも難しい発音のようで、何度か繰り返してみたが、「綾」とは言えないようだった。


「あの…アーヤと呼んでいただいて構いません」


ライゼルは優しく微笑むと、アーヤのベッドサイドに置かれた椅子に腰掛けた。


「わかりました。それではアーヤ、と呼ばせてもらいます」

「あなたは、私たちの世界では見たことのない服を着て、意識を失って倒れていた。まるで天から降ってきたかのようにね。驚きましたが、命に別状がなくて本当に良かった」


「……」


アーヤは言葉に詰まった。どう説明すればいいのだろう。「私、地球から来ました」なんて言っても、信じてもらえるはずがない。


ライゼルはそんなアーヤの戸惑いを察したのか、そっと立ち上がると、リーネに指示を出した。


「リーネ、王都から家庭教師を呼ぶ手配を。それから、アーヤ殿の身の回り一切の世話は、私が担当する。無論、女性でないとフォローできない部分を除いてだが。彼女はこの家で、お客様ではなく、家族の一員として迎え入れることになったから」


「かしこまりました。」


(家族の一員……?)


アーヤは驚いた。天涯孤独だった自分を、見ず知らずの異世界で、侯爵家が家族として受け入れる?


「私は、ヴェリタス王宮騎士団の副団長も務めているため、しばらく別邸を離れることになりますが、戻り次第、色々とこの世界のことを教えて差し上げます。不安なことは、全て私に頼ってください」


ライゼルは本当に優しく、面倒見の良い人物のようだった。見知らぬ場所で不安に駆られるアーヤにとって、彼の存在は大きな支えになると直感した。


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