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天涯孤独のアラフォー元事務員、騎士団の副団長に溺愛される  作者: 桐生 翠月


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26.罪の裁き

 神殿に満ちた浄化の光が収まった頃、グレンヴァルト侯爵率いる王宮騎士団の本隊が到着した。 そこには、騎士たちに両脇を固められたエルミーヌも連れられていた。計画が失敗したことを悟り、茫然自失の(てい)で崩れ落ちるエルミーヌと、アーヤの術によって毒気を抜かれ、もはや逃げる気力も失った黒幕の男、そして魔術師たち。


 ライゼルはアーヤを片腕でしっかりと抱き寄せたまま、氷のように冷たい視線を罪人たちに向けた。


「貴様が主と呼んだ神がどのようなものかは知らんが、この国の法に従い、貴様には魔力封じの監獄での終身刑、あるいは二度と生まれ変わることすら叶わぬ魂の霧散刑が下されるだろう。……死ですら、お前の罪を(あがな)うには軽すぎる」


 ライゼルの言葉に、黒幕の男は反論することなく、騎士たちに連行されていった。


 一方、嫉妬に狂い、黒幕の男と手を組んだエルミーヌには、貴族として最も不名誉な罰が下された。


 グレンヴァルト侯爵は、貴族として交流のあったエルミーヌを冷徹に見放した。


「エルミーヌ侯爵令嬢。貴女の嫉妬が、この国を混乱に陥れた。王命により、貴女をエドワード侯爵家から除籍し、さらにエドワード侯爵家は子爵家へと降爵とする。余生は北方の極寒の地にある修道院で、自らが招いた混乱を悔いて過ごすがいい」


「そんな……私はただ、ライゼル様をあの魔女から救いたくて……!」


 騎士たちに連行されながらエルミーヌが叫ぶが、ライゼルは一度も彼女を振り返ることはなかった。彼女にとって、ライゼルから存在を無視されることこそが、死よりも辛い罰となった。


 ――後日、王宮から発布された断罪状には、以下の罪が記されていた


 黒幕の男への裁き

【王宮魔術学院特任教授拉致・暗殺未遂罪】

 国の重要人物であるアーヤを拉致し、その魂を奪おうとした。

【禁忌呪術行使罪】

 水脈への寄生体設置および魂の分離儀式という、禁じられた魔術を用いた。

【神聖冒涜罪】

 器を利用し、世界の(ことわり)を書き換え、さらに民の魂までも踏みにじろうとした。


 エルミーヌへの裁き

【内乱扇動罪】

 虚偽の噂を流し、民衆を暴徒化させ、国の治安を著しく乱した。

【外患誘致補佐罪】

 反国家組織に情報を流し、その活動を支援した。


 ——


 静寂が戻った神殿で、ライゼルはアーヤを再び抱きしめた。その手は、まだ微かに震えている。


「アーヤ……。私は、あなたを守ると誓いながら、結局はあなたに救われてしまった。……騎士など、名乗る資格もありません」


「いいえ。ライゼル様が来てくれたから、私は精霊たちの声を聞くことができたんです。……でも、一つだけ、お話しなきゃいけないことがあります」


 アーヤは、ライゼルの胸に顔を埋めたまま、静かに切り出した。


「私の寿命が人の三倍あるのは、精霊に愛されている証拠だそうです。この世界の輪廻からは外れているのだとか。……そして、肉体は老化を忘れ、数百年の時を彷徨う運命にあると」


「……っ!!」


 ライゼルは息を呑んだ。改めて、自分と彼女の間に横たわる、残酷な時の差。自分が老い、土に還った後も、彼女は今の姿のままこの世界に取り残される。その孤独の深さを想像し、彼はアーヤを抱きしめる腕に力を込めた。


「ですが、私は諦めません。精霊に愛され、精霊の力でその理を書き換えられているのなら、寿命を分かち合う方法か、あるいは……」


「ええ。私も、自分の体についてもっと詳しく調べようと思います。いつかライゼル様と同じ時間を歩めるように」


 アーヤの決意を聞き、ライゼルは彼女の額にそっと口づけを落とした。


「分かりました。……ではアーヤ、今後は別邸ではなく、レイヴァーグ侯爵家の本邸へ移りましょう。そこなら王宮禁書庫へ行くのも、魔術学院への出勤も容易です」


「本邸に? いいんですか?」


「もちろんです。……私もこれを機に騎士団の宿舎を出て、本邸から通うことにしましょう。あなたを一人にはさせません」


 ライゼルの言葉に、グレンヴァルト侯爵も深く頷いた。


「それがいいだろう。アーヤ殿は私達の家族同然なのだし、ライゼルが命を懸けて守ると決めたのだ。手続きは私が済ませておこう」


「ありがとうございます、侯爵様、ライゼル様。お言葉に甘えさせていただきます。」


 こうして、アーヤは王都のレイヴァーグ侯爵家本邸へと生活の場を移すことになった。



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