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天涯孤独のアラフォー元事務員、騎士団の副団長に溺愛される  作者: 桐生 翠月


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25.絶望からの再起

アーヤが闇に消えた離宮で、ライゼルは膝をついたまま動けずにいた。


「……私の、せいだ。私が彼女を閉じ込め、彼女の、自由を奪ったから……。私が、彼女を……」


彼の周囲を纏う白銀の闘気は、どす黒い絶望の色に染まり、離宮の床を腐食させていく。高潔な副団長の面影はなく、そこにあるのは最愛を失った男の抜け殻だった。


だが、その時。粉砕された扉の隙間から、一筋の風が吹き込んだ。 それは、アーヤがいつも纏っていた精霊たちの気配。


『……ライゼル様。泣かないで。私は、ここよ』


ライゼルは弾かれたように顔を上げた。

アーヤの声ではない。だが、精霊たちが彼女の想いを運んできたのだ。絶望に濁っていたその瞳に、再び鋭い光が宿る。


「……そうだ。嘆いている暇などない。彼女を連れ去った報いは、この手で、地獄以上の苦痛をもって与えねばならない」


ライゼルは剣を握りしめると、ゆっくりと立ち上がった。絶望の色に染まっていたどす黒い闘気が、白銀の輝きを取り戻していた。


「待っていてください、アーヤ。必ずあなたを救い出す!」


ライゼルは迷いなく、離宮を、そして騎士団本部を後にした。


——


王都はずれの古びた神殿。そこでは、アーヤを祭壇に据えた、魂の分離の儀式が始まろうとしていた。


「さあ、星の迷い人よ。その孤独な魂を解き放ち、我らが主の器となれ」


黒幕の男が呪具を振り下ろそうとしたその瞬間、神殿の巨大な石門が、衝撃波で粉砕された。それは魔術でもなんでもない、純粋な剣の一撃だった。


「――離せ。その汚い手で、私のアーヤに触れるな」


現れたのは、瞳を獣のように光らせ、全身から凄まじい闘気を放つライゼルだった。彼は立ち塞がる魔術師たちが、詠唱を唱える隙も与えず、神速の剣技で斬り伏せていく。

しかし、黒幕の男は不敵に笑い、アーヤの喉元に呪具を突きつけた。


「来るな! この娘の魂はすでに肉体から浮いている。刺激すれば、そのまま霧散するぞ!」


「……っ!!」


ライゼルの動きが止まる。その隙をついて、魔術師たちがライゼルを拘束する。再び突きつけられるアーヤを失うという恐怖。

だが、そのとき祭壇の上で意識を失いかけていたアーヤの脳内に、精霊たちの声が響いた。


『アーヤさま、目を覚まして! あなたが望めば、わたくしたちはいつだって側にいます!』

『アーヤさま!わたくしたちに願いを!』


アーヤは、必死に目を開いた。視線の先には、拘束されたライゼルの姿があった。常に乱れることのなかった銀髪は血と汗に汚れ、誇り高い騎士服は無惨に切り裂かれている。無理に動こうとしたのか、拘束具が食い込む手首からは赤い筋が滴っていた。

自分を救うために必死で闘い、傷ついた彼の姿を見て、アーヤは願った。


「……精霊たちよ、私に力を! 私は()なんかじゃない! この人の、ライゼル様の隣にいたいだけなの!!」


その瞬間、アーヤの内の精霊の図書館(ライブラリ)が、かつてないほど眩い光を放ち、周囲が黄金に染まった。


アーヤの叫びに呼応し、神殿全体が清らかな光に包まれる。 床からはあり得ないほどの勢いで花々が咲き乱れ、火・水・風・地の四大精霊の王たちがアーヤに跪いて守護する。大精霊(エレメンタル)契約者(・リンカー)としての、真の覚醒だった。


「な、なんだこの力は……! 世界の(ことわり)を書き換えているのか!?」


「――浄化を。理の外へ還りなさい」


アーヤが静かに手をかざすと、神殿を埋め尽くした精霊たちが光の激流となり、黒幕の男も、呪いも、すべてを優しく、しかし圧倒的な力で浄化した。 常若の楽園(エターナル・ガーデン)。 それは、悪意のみを消し去り、その場を祝福で満たす、大精霊(エレメンタル)契約者(・リンカー)だけの究極の精霊術だった。


「アーヤ!!」


光が収まり、崩れ落ちるアーヤを、ライゼルが強く抱きとめた。



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