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天涯孤独のアラフォー元事務員、騎士団の副団長に溺愛される  作者: 桐生 翠月


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21.共鳴する力

街のはずれにある管理室は、普段は静謐(せいひつ)な魔力に満ちている場所だが、今はどす黒い霧のような瘴気が立ち込め、居合わせた魔術師たちはその毒気に当てられ喘いでいた。


「ライゼル様、これより精神を集中させます。私の精霊術で寄生体の吸収を止め、その防御を剥ぎ取って本体を露出させますので、そこを……!」


「わかっている。……決して無理はしないでくれ、アーヤ」


ライゼルは剣を抜き、アーヤを背後から守るように位置を取った。彼の剣が放つ白銀の闘気が、周囲の瘴気を押し返していく。


アーヤは深く呼吸を整え、両手を淀んだ水脈へと向けた。


(精霊の図書館(ライブラリ)、展開! 寄生体の術式構成を解析して!)


アーヤの視界に、複雑に絡み合った古代の隠蔽術が青い光の線となって浮かび上がる。彼女は、その最も脆弱な一点を見つけ出した。


「水の精霊たちよ、私に力を! 偽りの殻を剥ぎ、真実の姿を晒せ――『精霊の粛清(エレメンタル・パージ)!』」


アーヤの周囲に集まった無数の精霊たちが、目も眩むような光の奔流となって水脈へ飛び込んだ。


ギィィィィィィィン!


地下全体が震えるほどの音が響き、水脈の奥底に潜んでいた、血管のように蠢く赤黒い結晶体が姿を現した。


「今です、ライゼル様! 中央の核を!」


「――よし! 『聖銀の斬光(シルバー・スラッシュ)!!』」


アーヤが示した一点に向けて、ライゼルは全魔力を込めた一撃を放った。精霊の光に導かれた剣筋は、一切の抵抗を許さず、寄生体の核を真っ二つに叩き割った。


刹那、どす黒い霧が霧散し、水脈にはかつての、いや、以前よりも遥かに澄み渡った青い輝きが戻った。


『ありがとう……ありがとう、アーヤ……』


精霊たちの安堵の囁きがアーヤの心に届き、彼女はその場に崩れ落ちそうになった。


「アーヤ!」


ライゼルが素早く彼女を抱き留める。その腕は、戦いの高揚感か、あるいは彼女を失うかもしれないという恐怖からか、僅かに震えていた。


「……終わりましたね、ライゼル様。水脈は、もう大丈夫です」


アーヤが力なく微笑むと、ライゼルは彼女の額に自分の額を寄せ、深く息を吐いた。


「陛下、水脈の正常化を確認しました。王都の結界も、すぐに回復するはずです」


国王は、戻ってきた水の輝きに目を細め、二人に向かって力強く頷いた。


「見事であった、アーヤ殿、そしてライゼル。そなたたちの絆が、この国を救った。……だが、これほど高度な古代魔道具を仕掛けられる者が、この国に潜んでいるということだ。騎士団には、引き続き調査を命ずる」


——


事件解決後、二人は再び馬車で侯爵家の別邸へと戻った。 舞踏会の喧騒は遠い昔のことのように感じられたが、アーヤの纏う青いドレスとサファイアの首飾りは、依然として彼女がライゼルの特別な女性であることを主張していた。


別邸の私室に入った途端、ライゼルはアーヤを抱き上げ、そのまま寝台へと運んだ。


「ライゼル様……? 私は少し疲れただけで、歩けます」


「だめです。……あなたは、今日一日でどれほど私の心臓を跳ねさせたかわかっていますか」


ライゼルは、アーヤの隣に横たわると、彼女の手を取り、その細い指先の一つ一つを愛おしむように口づけた。その瞳には、彼女への深い愛情と、それ以上に彼女を自分だけのものにしておきたいという独占欲が混ざり合っていた。


「エルミーヌに侮辱され、国難に立ち向かい……あなたは私の誇りですが、同時に、いつか遠くへ行ってしまうのではないかと不安になる」


「そんなことありません。私はライゼル様と共に生きるために、この力を使っているのですから」


アーヤは、ライゼルの首に手を回し、自分からそっと唇を重ねた。


「……アーヤ。何があっても、絶対にあなたを離さない」


ライゼルは熱い溜息を吐き、彼女を閉じ込めるように強く抱きしめた。 王都を救った英雄としての顔を捨て、ただ一人の男として、彼女を失うのではという恐怖心をかき消すかのように、アーヤを抱きしめて離さなかった。



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