2.異世界転移と目覚め
次に綾が意識を取り戻したとき、まず感じたのは、頭上の眩しさだった。
「……あれ?」
見慣れた自宅の天井ではない。白く、石造りの、やたらと天井の高い部屋。
窓からは、見たこともない、緑がかった太陽のような光が差し込んでいる。
「お目覚めですか」
優しく、それでいて格式を感じさせる女性の声がした。その声はどことなく、頭の中に響いてくるような聞こえ方だった。
綾は驚き、体を起こそうとしたが、全身が重くて思うように動かない。
「無理をなさらないで。あなたは三日三晩、眠り続けていたのですから」
声の主は、二十代後半に見える女性だった。モデルのような整った容姿に、耳元で揺れる真珠のピアス。そして何より、彼女が着ている淡いグリーンのドレスは、中世ヨーロッパ映画に出てくる衣装そのものだった。
「あ、あの……わ、私は……」
「自己紹介が遅れました。私はこの侯爵家で、あなたのお世話係を務めるリーネと申します。あなたは、私たちの領地にある『始原の森』で倒れているところを、当主様によって保護されました」
リーネは優雅に微笑んだ。
「侯爵家……?」
綾の頭はまだ混乱していた。最後に覚えているのは、眩しい光と、激しい衝撃。交通事故だろうか? でも、ここは病院ではない。
「ここは、レイヴァーグ侯爵家の別邸です。
……あなたのお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか? 当主様は、あなたがどこの国の方なのか、大変気にされています」
綾はかすれた声で答えた。
「は、橋本……綾、です……」
言語は違うようだが、なぜか通じてはいるようだ。リーネは復唱しようとしたが、途中でつまづいた。
「ハ、シモト……ア、ヤ……。発音が、とても難しいですね。当主様も、あなたの国の言葉はご存じないかもしれません……。差し支えなければ、私たちが呼びやすいよう、アーヤとお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「はい。アーヤで、構いません」
異世界、侯爵家、始原の森。まるで、安っぽいライトノベルのような状況だと、綾はどこか他人事のように考えていた。
だが、リーネの持つ水差しから、水が空中を伝ってコップに注がれるのを見た瞬間、その認識は変わった。
「……ま、魔法?」
リーネは当然のように微笑んだ。
「ええ、そうです。ここはアースガルド大陸、ヴェリタス王国の領地。魔法と精霊が息づく世界です、アーヤ様」




