17.王宮からの呼び出し
アーヤが魔力回路なしで強力な精霊魔法を使用したという報告は、瞬く間に王立魔術学院から王宮へと届けられた。
翌週、アーヤとグレンヴァルト侯爵、そしてライゼルは、国王陛下に謁見するため王宮へと向かうことになった。
「アーヤ殿、心配しないでください。私が傍にいます。あなたの能力は国にとってあまりにも重大な秘密ですが、国王陛下は賢王と言われてる御方、決して悪いようにはなさらないはず」
王宮へ向かう馬車の中、ライゼルは緊張しているアーヤの手を強く握りしめた。彼の騎士服はいつも以上にきっちりと着こなされており、アーヤを守るという決意が全身からにじみ出ていた。
「ありがとうございます、ライゼル様。でも、私はもう、私の能力を隠すつもりはありません。この長い人生を、この世界のために使いたいと思っていますから」
——
謁見の間。
国王は、中央奥の厳かな玉座に座っていた。その威圧感は凄まじいものだったが、アーヤは地球での事務作業の日々を思い出していた。
(大丈夫。これは重要な書類の説明を、ただ上司に報告するだけ)
そう自分に言い聞かせて、冷静さを保った。
「そなたが、レイヴァーグ侯爵が保護した異界の娘か。そして、魔力回路を持たぬにも関わらず、大精霊の力を使役するという特異な能力を持つと聞く」
国王の問いに、アーヤは優雅に、しかしはっきりと答えた。
「はい、陛下。私は橋本綾、アーヤと申します。私の能力が、このアースガルド大陸の未来に貢献できるのであれば、喜んでこの力を使わせていただきます」
国王は、アーヤの淀みない、格式あるアースガルド語に驚いた様子だった。
「その言語能力は、見事なものだ。しかし、懸念がある。そなたの持つ寿命と、精霊を直接使役する力は、使い方によっては国を滅ぼしかねない。そなたを危険な存在だと断定し、監視下に置くべきだという意見も、王宮内にはある」
その言葉に、ライゼルが一歩前に出た。
「恐れながら、陛下! アーヤ殿は、騎士団の事務作業において既に多大な功績を挙げております。彼女の精神は清廉であり、決して国を裏切るようなことはありません!」
「ライゼルよ、落ち着け。そなたの意見は理解するが、感情論で片付けられる問題ではない」
国王は、ライゼルを一瞥した後、アーヤに再び問いを投げかけた。
「そなたの、この世界における目的は何だ? 永遠にも近い命を持つそなたが、何を求めているのか、率直に述べよ」
アーヤは、目を閉じた。彼女が地球で失ったもの、そしてこの異世界で手に入れたものを思い出す。
「陛下。正直に申し上げます。私の目的は、この国への貢献ではありません。私の目的は、この世界で、私に居場所と愛を与えてくれた人々と、共に生きることです」
アーヤは、ライゼルの方に視線を移した。
「私は両親を亡くし、天涯孤独でした。しかし、レイヴァーグ侯爵家は私を家族として迎え入れてくれました。そして、ライゼル様は、私に惜しみない愛を与えてくれました。私の能力も寿命も、全ては彼らと、彼らが守るこの平和な国のために使いたい。それが、私の唯一の目的です」




