14.副団長の溺愛
アーヤの学院生活は、周囲の好奇心と羨望、そして品定めに満ちた容赦のない視線の中で始まった。
ある日、古代文献学の授業中。
精霊の図書館によって、アーヤは予習した教科書の内容を完璧に記憶していた。加えて、地球での知識と、事務職で培った論理的な思考力が、この世界の魔術理論の理解を助けた。
教授が最新の発見である石版に書かれた古代語の解読に苦慮していた。
「この箇所は『太陽の加護は地に降り……』と解釈するのが一般的だが、どうにも文法構造に矛盾が生じる。誰か、より適切な解釈を示せる者はいないか?」
学生たちは黙り込んだ。彼らに古代語の完全な解読は難しすぎた。
アーヤは静かに手を挙げた。
「先生、その加護という言葉ですが……これは単なる恩恵ではなく、『地を叩く光の衝撃』という意味ではありませんか? 直前に『水脈の精霊』の記述がありますが、それと繋げれば、降り注いだ太陽の力が地を打ち、その振動が眠れる精霊を叩き起こした……つまり、加護そのものが精霊を呼び覚ます合図になっていると考えれば、文脈が繋がります」
教授は、アーヤの解釈に驚愕した。
「合図……! まさか、その発想はなかった! 確かに、その解釈なら全てが腑に落ちる」
アーヤは自分の能力を隠すことなく、惜しみなく披露した。それは、自分がライゼルや侯爵家から受けた恩に報いるためであり、この長い異世界の人生を意義あるものにするための、彼女なりの決意だった。
この一件で、アーヤは学院内で一躍有名人になった。彼女の見た目は小動物のように可愛らしいのに、その知識は教授にも匹敵するほど博識で、学院でもトップクラスだと。
ある日の放課後、若くて熱心な研究者タイプの男子学生が、興奮してアーヤに近づいた。
「先日の古代文献学での授業、あの解釈は素晴らしい! アーヤ殿、これから研究室で詳しく話を聞かせてもらえないか!」
その瞬間、教室の扉がドガッと開き、勤務時間中にも関わらず、ライゼルが息を切らして現れた。
「アーヤ殿! ちょうどこの時間、騎士団からの至急の連絡事項を伝達しに来た。すぐに執務室へ! ……他の者は、私に許可なく、彼女と研究内容について深入りしないよう厳命する」
ライゼルの青い瞳は、一瞬だけ、アーヤに近づいた男子学生を射抜いた。男子学生は、冷や汗をかきながら「は、はい、副団長殿!」と退散していった。
「ライゼル様、至急の連絡事項って……」
アーヤが尋ねると、ライゼルは優しく微笑んだ。
「ええ、今日のお茶の時間に、あなたの好きな王都の焼き菓子を用意したという、最重要の連絡事項です。さあ、行きましょう。私の大切な人」
ライゼルは、学院内の好奇の目から彼女を守るため、公務という名の建前を利用し、アーヤを溺愛した。




