1.天涯孤独の終活
橋本綾、四十一歳。職業、事務職。趣味、特になし。特技、家事全般。
春、桜の舞い散る季節、両親を相次いで見送った。一人っ子で親戚付き合いも希薄だったため、彼女に残されたのは古びた二階建てのマイホームと、預金通帳だけだった。
「これで、本当に天涯孤独か……」
五月の連休、綾は実家のリビングで一人、コーヒーを飲みながらため息をついた。
親が残してくれた家は、手入れは行き届いているものの、築年数的にそろそろ大規模なリフォームか建て替えが必要な時期に来ていた。
両親は共に晩婚で、遅くにできた子供が綾一人。二人とも長生きだったが、晩年は病に苦しみ、医療費がかさんだ。家を維持しつつ、自分の老後資金を考えると、このままでは不安が残る。
綾はそれなりに恋愛経験はあったが、今は結婚の予定も、恋人の影もなかった。自分の人生は、静かに、そしてゆっくりと終点に向かっているのだと、どこか冷静に受け止めていた。
『――そうだ、終活しよう』
連休明け、綾は不動産屋に家の売却相談に行った。そして職場の所長には、定年を迎えず、十年後の退職の意思をそれとなく伝えた。
全てを整理し、身軽になって、残りの人生を細々と生きていく。それが、綾の立てた新しい人生計画だった。
「終活って言っても、まだアラフォーなのにね」
自嘲気味につぶやき、何か食べようと冷蔵庫を開けるが、何もなかった。しかたなく、夜のコンビニへ向かう。
深夜の静かな住宅街。角を曲がった瞬間、強烈な閃光と轟音、そして全身を打ち砕かれるような衝撃に襲われた。




