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スパイクのピン


   クリックして頂きありがとうございます。



 自宅のベットで横になり、スマホを触っていると画面が切り替わる。

 着信音と共に清田小春(きよだ こはる)の名前が表示された。

 高校で知り合って二年くらい経つけれど、彼女が一番仲の良い友達だ。


 握っているスマホの通話ボタンを押すと、


「やっほ〜!いま、何してるの?」


 陽気な声で小春が尋ねてきた。


「家でゴロゴロしてるよ」


「だと思った!今年も彼氏はいないんだぁー。ねえねえ、一花。暇ならお蕎麦買いに行こうよ!」


「うーん…。いいよ!」


 この後、特に予定はない。

 私に彼氏はいないし、両親は仕事で不在だから。

 せっかくの大晦日なのにね。


 はあ……。


 弟の新太(あらた)は初詣を彼女と過ごすんだろうな。

 ちなみに今年六人目の彼女らしい。

 

 (みなもと)の苗字は一緒だけど、弟と本当に同じ血を引いているのだろうか?

 父も昔、こんなにヤンチャだったのなら、あり得るのかな。


 新太は中学二年生なのに私より恋愛経験が豊富なのが少しムカつく。

 姉としてはもう少し誠実なお付き合いをして欲しいなと思っている。

 嫉妬だとー



「ーーー。ねえ!一花!!話、聞いてた?」


「ごめん!ちょっと考え事してた!」


「一時間後、富田商店に集合するからね!遅刻しないでね!」


 私は壁に掛けられたデジタル時計を見る。

 

 十九時に富田商店に向かえばいいのか。

 徒歩五分の距離だから時間に余裕はあるね。

 

「おっけー。また後でね!」


 通話終了ボタンを押して、ベットから起き上がる。

 

 彼氏がいなくても別に寂しくはないぞ!


 うん。

 寂しいわけなんか、ない!!

 弟みたいにそんなホイホイ作る方がバカなのだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「っ…」


 私も言えた義理ではないか…。

 シングルベットにスマホを乱暴に放り投げ、私は浴室に向かった。

 

 脱いだ衣服を洗濯機に放り込み、浴室に入る。

 

 シャワーに切り替えて、レバーを(ひね)った私は真冬にも関わらず、頭から冷水を浴びた。


 昂った感情が徐々に和らいでいく。


 彼と付き合ったあの時間なんて、一刻も早く忘れたいのに!!!!!


 私は去年の冬、一つ年上の男の子から教室で告白された。

 陸上部のエース的存在で、女子から絶大な人気がある早瀬先輩から。


 向こうから突然、想いを告げられた。

 あの時は密かに早瀬先輩のファンだったから、喜んで受け入れたのだ。

 

 告白される前の話だけどね。

 私は毎朝、クラスの誰よりも一番早く登校していた。


 今思えば、私の黒歴史だな。

 ニ階の教室の窓際から、ストーカーのようにいつも早瀬先輩の背中を見ていた。


 どうしてそんなことをしてたかって?


 それは彼が運動場で黙々と一人で走っている姿が好きだったからだ。

 勿論、直接声はかけたこと無かったし、迷惑になる行為は一切していない。


 ただ、こっそり二階の教室から眺めていただけ。


 目標があって真剣に努力する人は素敵だと思う。

 

 早瀬先輩の顔が恰好良いのかって?

 それは言うまでもないだろう。


 黒髪で、外国人のように彫りが深くて、ぱっちり二重の青い瞳。


 尊敬もしていたし、好きな人から告白された時、私は舞い上がった。

 あの時は本当に心の底から喜んだ。

 

 けれど、そんな幸せは長く続かない。

 早瀬先輩とお付き合いが始まって一週間もしないうちに、嫌がらせを受けるのだ。

 私の上履きに陸上用のスパイクのピンが入れられるようになった。

 本来スパイクのピンは金か銀が主流なのだが、わざわざ血が付着したように真っ赤に塗られてね。

  

 早瀬先輩にこの事を相談しようと思ったら、急に別れようって言われたんだ。


「今後、教室からボクを見るのはやめて欲しい。今まで見守ってくれてありがとう。嬉しかったよ。一花さん、さようなら」 

 

 早瀬先輩から別れの言葉を告げられて、あっさり振られてしまった。


 尊敬していたのにこんな仕打ちはないだろう。

 先輩に理由を尋ねたが教えてくれなかった。


 別れた以降は嫌がらせもピタっと止まったから、それに関しては良かったのかもしれないけど…。




 思いの外シャワーを浴び過ぎてしまったようだ。


 私は浴室の鏡で顔を確認すると、唇が青紫に変色していた。


 ふかふかのバスタオルで身体を拭き、脱衣所で髪を乾かし、温かい格好に着替た。

 

 さっと身支度を済ませた私は自宅を出る。

 ご近所さんとすれ違かったので、軽く会釈をして富田商店に向かう。


 予定の時刻より十分早く到着すると、既に小春は待っていた。


一花(いちか)こっちだよ〜!」


 小春が大きく手を振って出迎えてくれる。


 珍しく小春が遅刻していない!?

 いつも時間にルーズなのに…。


「小春待たせてごめんね。そんな早く来ると思わなかったよ」


「大丈夫、大丈夫!!いつも待たしているのは私の方だし!」


 それはそうなんだけどね。


 ん?

 謝罪した私は違和感に気付く。


 小春はなぜか化粧はバッチリしているし、腰まであった長い茶髪も綺麗に肩のラインに切り揃えられていた。


 艶も普段以上にあるし、いつもの三割り増しくらい可愛い。


 もしかして、私と蕎麦を食べた後、誰かと遊ぶ予定でも入れているのか。


「小春!これから蕎麦を買いに行くんじゃなかったけ?」


「うん!その予定だよ!」


「そっか…」


 負けた気がするから、私は小春のことを可愛いと誉めない。

 商店に行くだけでこんなに気合いを入れて、おめかしはしないだろうし。


 全然悔しくないんだから!

 私もこの後予定を立てようと思えば…。

 それくらい作れるんだから!!


 一人で屋台を満喫するくらいなら。


「小春にしては珍しいね!もしかして、夜どこか行くの?」


 悔しい気持ちを押し殺して、小春に問いかけた。


「ん〜…。お蕎麦を食べるとき話そうかな?」


「わかった!」


 私は時間に余裕があるし、後で話を聞けばいいか。



   ー   ー   ー



「お邪魔します!」


 初めて、小春のお家に上がる。

 こんな立派な一軒家だとは思わなかった。


「両親は海外に出張しているから、適当に寛いでいいからね〜」


「う…。う、ん…」


 普段、家では靴は脱ぎっぱなしにする。

 だけど、今日は丁寧に靴の踵を揃えた。

 私は恐る恐る、小春の後ろを付いていく。


 リビングに入るとガラス製のテーブルが置かれており、照明は豪華なシャンデリアだった。


 うう…。

 悲しい…。


 うちは豆電球なのに!


「あっ!年越し蕎麦なのに、天ぷら買うの忘れちゃった…」


 小春は落ち込んだ表情で嘆いた。


 あまり詳しくないが、えび天などは長寿を祝う縁起物らしい。

 だから、小春は落ち込んでいるのかもしれない。

 わりと小春は占いとかも信じるタイプだから。


 まあ私は願掛けなどは全く気にしないけどね。


「いいんじゃない?なくても」


「ん〜。今から天ぷらでも作っちゃう?具材は残り物だけど!」


 小春は小悪魔的な笑みを浮かべて、尋ねてきた。


 シンプルに揚げ物が食べたかっただけかもしれないな。

 願掛け云々。


「いや、しなくていいよ!どうしても食べたいなら、私が天ぷら買ってくるから!」


 大理石の床に油が散るのは抵抗があるよ。


 それにこの後、小春は予定が入っているのだろう。


「それじゃ、いっか…」


 小春が蕎麦の準備をしている間、私はソファーで寛いでいた。


 人様のキッチンを使うのも少し躊躇していたし、小春がゆっくり寛いでって言ってきたからね。


 暇になった私は室内を観察した。


 部屋はとても綺麗に整理されている。

 だからそこ、私はある一点に目が引き寄せられてしまった。


 テレビ台の隅にある、赤い塗料が付着した白い布。

 その布で何かを覆っているみたいだけど。


 少し布が捲れており、透明のケースがチラッと見えた。


 私は目を凝らしてケースの中身を確認する。


 あれ?

 このスパイクのピン…

 見覚えがある。


 真紅色のピンなんて早々見ない。


 布が(めく)れているから、偶然目に触れてしまったが…。

 

 アレは見ちゃいけない代物だ。

 

 手元に置いて確認した訳じゃないから、見間違えてるかもしれないかけど。


 あのピン。

 去年、上履に入っていたピンとそっくりなのだ…。

 


 私はキッチンにいる小春に視線をやり、様子を伺う。


 小春は蕎麦のつゆを作っているみたいだ。


 よし。

 その隙に捲れた部分を元に戻そう。


 慎重に立ち上がり、ピンの元へ近付く。

 

 よし!

 ケースは隠れた!!


「ねえ、小春?」


「ん!?な、なあに?」


 視線をキッチンに向けると、にっこり微笑んだ小春がいた。


「なんか気になる物でもあった?」


 唾を飲み込み、動揺を隠しながら小春に応えた。


「ううん、何もないよ…。ただ、お茶を飲みたくて台所に行こうと思ったの!」


「そっか〜!それなら遠慮せず呼んでくれたら取ったのに」


 私がピンの存在に気付いたかは不明だが、小春はそのまま会話を続けた。


「ごめん、ごめん」


 私はグラスに注がれたお茶を受け取り、一気に(あお)る。

 

「そんなに喉乾いていたんだね」


「そういえば、昼から何も水飲んで無かったからさ」


 せっかく、さっきシャワーを浴びたのに。

 暖房はそんなに効いていないけど、私は背中にびっしょり汗を掻いている。


「じゃ、お茶の入ったクーラーポットも出しておくね」


「あ、ありがとう」


 私は箸と七味を受け取り、テーブルに置いた。


「そろそろ蕎麦も出来るから、私の話聞きたい?」


「そうだね!教えてほしいな」



  ー   ー   ー



 気付けば私は公園のベンチに座っていた。

 一時間ぐらい経つだろうか?

 それ以上かな。

 時計を確認していないから分からない。


 スマホを見れば一瞬だが、そんな気分には全くならない。

 友達もそんなに多くない私に通知音が鳴り響く。

 寒さで感覚が無くなっている手をギュッと握る。


 恐らく小春からメッセージが送られてきたのだろう。


 ちなみに、小春は早瀬先輩と一緒に今から初詣に行くらしい…。


 私は星一つない夜空を見上げた。

 次、小春と会う時どんな態度をとればいいのかな…。


 あ!


 見間違いかもしれないけど、一瞬流れ星が見えた気がした。

 願掛けは好きじゃない。

 だけど、今日くらいは祈ってもいいのかもしれない。


 通り過ぎた流れ星に願うのもアレだけどさ…。


 私は(かじ)かんだ手のひらをギュッと握って、星に願いを込めた。


『どうか、早瀬俊先輩の足にピンが食い込みませんように』


 



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