諸島の象徴
2025年10月13日のお試し闇鍋の設定で書いてみた。
そこは、まぎれもない孤島だった。見渡せば海と空のみ広がり、振り返ればヤシの木が生えている。
ただ、どこか違和感を感じる。
知っているようで、知らない世界。
まず目に入るのは、その色だ。ずっと向こうまで続く海は緑色であり、接している空は紫色を呈している。ここにいると、それが当たり前のように思えてしまうが、ずっと昔の記憶のせいで、これを正しいとは思えなかった。
一番古い記憶は、家族ときた海の景色だった。その時感じたのは、引き込まれそうな青だった。しかし、青色の空を、青色の海を見た記憶はその一回しかない。だから、もはや正しいかどうか判断することは無理なのかもしれなかった。
海岸を歩いていると、一匹の魚を発見した。無駄にでかいそいつは、海に漂っている藻を求めてよく突っ込んでくる。が、ここらは浅瀬が続いているし、岩礁も多い。そのため、よく海へ帰れなくなった魚がいるのだ。
そんな魚を、逃がしてやるような感情は無い。立派な食糧元なのだ。自然の罠につかまったそいつは、おいしくいただくのが我々の流儀だ。野生動物もこの状態のものを狙うことがあるので、早い者勝ちなのだった。
さて、村までその魚を連れ帰ってきたが、どうしようか。もちろん、捌くのは当然であるが、どのようにしていただこうか、という話である。
この地域には、ある信仰がある。グラ・グラマッカ教とでもいいそうなそれは、偉大なる祖先「グラ・グラマッカ」という人物を祀り上げるものだ。彼は生前、我々の使う言語であるバータッディ語の文法を整頓させまとめあげた人物で、彼がいなければ生活もままならなかった。そんな偉人である。
そんなわけで、食事のたびに彼を祀った祠にかならず刺身をお供えしなければならない。ので、とりあえず捌いた魚のうちの一部を刺身にする。
今回は刺身に塩を振りかけて、焼いてみよう。
いい色に焼きあがったそれと、育てているヤムイモが我々の食事となるのだ。
さて、我々マヤ族が読み書きに使っているものは、ヤシの葉を加工した貝多羅葉という紙である。グラ・グラマッカが書いた文法書「バータッディ・グラマッカ」も、これでできている。何かと記録には向いているので、この村の識字率も悪くない。
識字率が高いからこそ様々なものが作れるわけなので、自分もグラマッカには頭が上がらなかった。彼が言っていたように、この島がこの世界のすべて。そう思っていた。
ところがある日、来訪者が現れた。
マヤ語をしゃべらず、我々と異なる衣服を着た、謎の人間。どうやら彼は内側がへこんだいかだで、海の向こうからやってきた。そんな風貌だった。そんな彼は、自分のことを指しながら
「ひゅうまん」と名乗ったのだった。
彼は何もせず、すぐに帰っていった。どうやら敵対する意思はないようだ。「ぷれぜんと」と言いながら置いていったものがあり、それを開けると中から光を受けて輝く、円盤状のものがたくさん入っていた。
友好の印なのだろうか、次回彼が来た際にはこちらもご馳走をするか。
そんな風に、甘く考えていたのだった。




