23-4
「ここか……」
焦げた木と煙の匂いが鼻を刺した。 熱気がまだ残っている――そこには、瓦礫の山となった建物が並んでいた。
――そして、人影があった……
「そこにいるのは誰だ!」
カグラからの問いかけに答えるかのように、その人影は振り向いた――
「俺は……」
と男はふと思い出したように呟き、次の瞬間に満面の笑みで言った。
「……て、あんちゃんか!」
「もしかして……昨日のおっさん!?」
「知り合いですか?」
「そうだぜ、魔法使いの嬢ちゃん! あんちゃんとは、昨日風呂に入った仲だぜ!」
「……貴様――人ではないな?」
「ははっ! 戦士の嬢ちゃん、やるじゃねえか! だが、俺たちは“こっち側”の者でな……あんたらとやりあいたくねえ。 大人しく帰ってくれるってんなら、あんちゃんたちに危害は加えねえって約束する。」
「え?」
あのおっさん……人じゃないの? 理解が追いつかないんだけど?
だけど――
「なら、帰るな! さよな――」
「おい、タイガ! お前には冒険者としての誇りが――」
「そんなものはない!」
「「「……」」」
「なんだよ……」
「はははっ! やっぱ、あんちゃんは面白いなあ!」
よし、ここは逃げよ――
「《女神式ショット》!」
俺の真横を水色のレーザー光線が通り抜けた。
「ぐああっ――!」
空気が一瞬、焦げるように弾け――おっさんが瓦礫の中へと落ちていった。
「……は?」
「何をボケっとしてるの! 早く倒すわよ!」
「く、空気を読めポンコツ女神! せっかく平和的に終わるところだったのに!」
瓦礫の山に埋まっていたおっさんが顔を出した。
「てめえ……よくもやってくれたなあ!」
言わんこっちゃない!
「あんちゃんたちに恨みはないが……殺す!」
おっさんの背中で何かが裂けるような音がした。皮膚が波打ち、そこから鱗が噴き出すように光る。羽が広がり、太い尻尾が地面を叩く。顔の輪郭が歪み、人の面影はみるみるうちに消え――最後に割れた笑い声だけが残った
「俺はベルフェゴール。魔王軍幹部十二将軍――第七将軍! リザードマンの王だ! 純粋な力だけで言えば――魔王軍最強だ。」
リザードマン……ドラゴン人間だ。ゲームの知識だが――人間よりも圧倒的に強い力を持っていて、かなりタフな種族だったはずだ。
「俺は探し物がある。お前らの相手は――コイツらだ!」
ベルフェゴールが投げた石が人型に変化した。
「なんだ、コイツら!」
「それは魔王軍の雑兵――スモールゴーレムです! 個々は弱いので大丈夫ですよ!」
「モルティナ!」
「ここは私に任せてください! 皆さんは先に!」
「わかった! 先に行ってる!」
この場をモルティナに任せて――俺たちはベルフェゴールを追うことにした……
「タイガくん! 気をつけて、至る所にゴーレムが!」
「アイツが行ったのは、たぶん真ん中の神社だ! 囲い込む――ルクスは北側から、あとルミネルを建物の屋上に運んでくれ!」
「任せて!」
「ルミネルは屋上からトドメに"いつもの"決めてくれ!」
「ふっふっふっ! 任せてください!」
「レイは東から!」
「東がどっちか分からないけど――やってやるわ!」
心配だ……でも、今は信じるしかないか――
「カグラは正面、南から突っ込んでくれ!」
「了解した!」
「俺は西から行く! ――勝つぞ!」
焼け跡を渡る熱風の中、それぞれの影が四方へ散っていった。
まるで、戦場を駆ける運命そのもののように――。
西側の神社へと続く道は、人とスモールゴーレムが入り混じる混沌の中だった。
地鳴りのように響く足音、砕けた石片が宙を舞う。
「思ったよりいるな……温存しておきたかったけど――」
俺の持ってるスキルから考えると――やるしかない。
ベルトを腰にかざす、そして――
「……装着!」
ベルトに手を添えると、魔力の回路が起動し、光のラインが走る。
金属の装甲が展開し、蒸気が弾けた。
スモールゴーレムの数はざっと百はいるだろう。
「――来い、オーロギア!」
スモールゴーレムへと思いっきり剣を振りかざす。
「かたっっ!」
反動で腕がしびれた。まるで、石像に剣を叩きつけたようだ。
「なら、これで――!」
オーロギアの斬撃に《ブラスト》を合わせて――
「ブラストスラッシュ!」
轟音と爆ぜる閃光。
スモールゴーレムが粉々に砕け、灰となって舞い散る。
「……よし!」
立ち昇る煙の向こうに、次の群れが見えた。
「これなら――いける!」
オーロギアを握り直し、俺は戦場へと駆け出した――。
その瞬間、背後の瓦礫が、不気味に動いた……気がした。




