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この異世界は、ヒーローでありふれている!  作者: やまぬこもち
第04話『方向音痴なネクロマンサー』
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4-1

 ついに初ダンジョン攻略の日がやってきた。


「皆さん。準備はできましたか?」


「ああ! バッチリだ!」


「はい! 大丈夫です!」


「ネクロマンサーごときに心配されるまでもないわよ!」


 こんな調子で統率が取れるのだろうか……不安で仕方ない。


「じゃ、じゃあ! 早速行きますか! ……えっと地図だと――」


 モルティナは地図をくるくる回している。


「あの……モルティナ? 俺が地図見ようか?」


「ごめんなさい! ありがとうございます!」

 

「プププークスクス! ネクロマンサーのくせに地図すら読めないなんてえ! ウケるんですけどお!」


 ああ……本当にこいつはダメな女神だ。

 


――スウェリア近くの山


「地図によると、この森の奥みたいだな。」


 俺たちは比較的順調に進んでいた。


「……あの、なんで魔道具店の店主がダンジョン調査に行くのですか?」


 ルミネルが言った。確かに俺も気になってはいたことだ。


「……それはですね。ダンジョン内に危険な魔道具がある可能性があるからです。そして、私は元冒険者ですので、ダンジョン調査に最適というわけです……方向音痴なことを除いてですけど。」


 モルティナは自嘲気味に笑った。


 森の中は霧が立ち込め、湿った落ち葉が地面に広がっていて、どことなく不気味な雰囲気を漂わせている。



「……本当にここであってるんですよね?」


「おかしいな、地図だとあってるはずなんだけどな……」


 ルミネルが不安に思う気持ちもわかる。森に入ってからかれこれ数時間経つが……一向にダンジョンに着く気がしない。


「なあ、モルティナ。本当にここであってるのか?」


「きっとあってるはずです! 多分!」


 いや、どっちだよ。


「レイ、なんか女神パワーみたいなのでどうにかできないのか?」


 あえて、レイを頼ってみるのもありだ。たまには女神らしいところでも見せてほしい。


「はあ? そんな都合のいい能力なんてあるわけないでしょ!」


 やっぱ、こいつ役に立たない。今からでも返品して、動物と話せる能力と変えてもらおうか。


「タイガ、タイガ! 一ついい案を思いつきました!」


 ルミネルが嬉々として言う。ルミネルはうちのパーティーでは一番知識があるから、これは期待できる。


「レイの花火魔法を使いましょう!」


「あの虫寄せ魔法の?」


「はい。そして、この森には虫はいません……ただ、アンデット系モンスターはいます。」


 それを聞いて、モルティナが何かを思い出したような顔をする。


「花火魔法で集まったアンデットにネクロマンサーの能力を使って、アンデットにダンジョンまで案内してもらうのはどうかと考えまして……」


「はあ? なんで、私がネクロマンサーなんかと協力して、さらにアンデットなんかに案内して貰わなきゃいけないの!?」


 こいつ……本当に空気読めないやつだな。


「レイ、これも金のためだ。我慢しろ!」


「そ、そうですよ! 借金返済で余った分の報酬は多めに分けますから!」


「もー! 仕方ないわねえ!」


 俺とルミネルが必死に説得して、ようやくレイが了承した。

 そして、レイは空高く花火魔法を放った……すると


 ゾンビやスケルトンみたいなのがこちらへと向かってくる。


「――ッ!! モ、モルティナ! 頼んだ!」


「はい! 任せてください!」


 そして、モルティナは謎の呪文的なものをゾンビやスケルトンへ唱えた。


「皆さん、こんにちは! 今日は天気がいいですね!」


 ゾンビは唸り声をあげ、スケルトンはカタカタと骨を鳴らす。


「聞きたいことがあるのですが……ダンジョンの場所わかりますか?」


 一体のゾンビが森の奥深くへと手を伸ばす。


「こっちみたいです!」


「ねえ、タイガ! このアンデット達はもう用済みよね? だから……」


 こいつ、本当に最低だ。


「あ、また来ますね! さよなら!」


 モルティナはゾンビたちへと手を振った。そして、ゾンビとスケルトンも手を振りかえしてくれた。なんだ、アンデットちょっとかわいい……不気味ではあるけども。


 


「ここみたいですね!」


 目の前には断崖絶壁の崖が広がる。その崖の中に苔むしたレンガの壁が見える。すごく圧巻の光景だ。


「あれ?」


「モルティナ? どうしたんだ?」


「それが――入り口がないんですよ……」


「はあ!? ちょっと、アンタね! 私のこと散々歩かせておいて入り口がないってどうしてくれんのよ!」


 本当にこれを女神ですって見せたとき、人々はどんな反応をするのか気になる。


「タイガタイガ、この壁ぶっ壊しますか?」


 ルミネルが俺に言った。


「でも、魔法撃ったら動けなくなるだろ?」


「私の魔法はダンジョンでは役に立たないので……」


 ……それは一理あるかもしれない。


「でも、ここに残ったら危なくね? 魔法撃って、動けないんだから、それこそモンスターに襲われるぞ?」


「た、たしかに! それはそうですね……どうしましょうか。」


「大丈夫ですよー、ネクロマンサーのスキルに認識阻害と言う魔法がありますので、ルミネルさんをモンスターが認識できなくなる魔法が使えます!」


 何そのネクロマンサースキルすごい。



「さあ、ルミネル! ぶちかませ!」


「はいっ! 任せてください!」


 ルミネルは杖を構える。


「光よ集い、力と成れ――《ラディアント・バースト》!」


 崖一面が激しく光り、大爆発を起こした。壁のレンガが崩れ去り、砕けた石片がゴロゴロと落ちる。爆風で周りの木々が騒ぐ。


「相変わらず、すげえ威力だな。」


「……ハアハア、ありがとうございます……では、お気をつけて――ふえあ……」


 ルミネルはふらりと倒れた。そこにすかさずモルティナが認識阻害魔法をかける。


「認識阻害!」


 詠唱とかないんだな……

 すると、ルミネルの体が少し透けて、ルミネルの輪郭であろう部分の空気が揺らめいている。そこにルミネルがいることはわかっているはずなのに、脳が認識を拒む……これが認識阻害魔法の力なのだろうか。


「さあ! 行きましょう!」


「おう!」


「仕方ないわね…!」


 ダンジョンに足を踏み入れると、一気に周りの空気が変わった。湿った空気が漂い、薄暗く肌寒い。蜘蛛の巣が張ってたり、穴が空いてたり……まさに思い描くようなダンジョンだ。


「では、魂を偵察に出します。」


 モルティナは右手を横に突き出す。すると、モルティナの右手が青白く光り、禍々しい杖と鎌を足したような武器が現れた。

 そして、青白い火の玉が杖にある球体部分から飛び出す。青白い火の玉はあらゆる方向へと消えていった。


「……進みましょう。」


 俺たちはモルティナに付いていくしかない。

 周りには、青白く光る苔や天井から落ちたであろう石がある。


「……前方と右側から来ます。」


 モルティナが冷静に言った。

 骨の軋む音や、低い唸り声……アンデットだ。この数を相手に勝てるだろうか。

 

 この世界における変身である装着をするしかない。俺は装着しようと声を上げた。


「タイガさん、まだ装着はしないで! レイ様は前方をお願いします!」


 装着と言おうとする俺をモルティナが遮った。俺は急いで、展開されようとする魔法陣を押し込めた。

 モルティナは右側を引き受けた。右側から来るアンデットの数は前方より圧倒的に数が多い。モルティナの持つ相当な自信が見えたような気がした。


「ふん! ネクロマンサーごときが私に指図するなんてね! まあお金のためだから仕方ないわね!」


 そして、レイは両手を前に構えた。


「迷える魂たちよ! さあ天へと帰りなさい――《ルミナス・レクイエム》」


 前方のアンデットが柔らかく優しい光に包まれ、消えていった……なんだ、今のレイは――すごく女神らしい。


「……あなたたちに救いの手を――《ソウル・リベレイト》!」


 モルティナは鎌をアンデットの方向へ優しく振った。アンデットたちは青白い光に包まれ、消えた。恐ろしくも、優しい慈悲のこもった一撃だった。

 鎌を振ったときに起きた風で、一瞬モルティナの前髪で隠れている左目が見えた気がした……

 

 モルティナはアンデットたちへ手を合わせてから、振り向いた。


「さあ、行きましょう!」

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