22-3
「えっと……これがお前の聖地なのか……?」
ムカつくほどに無駄に豪華な建物、無駄に豪華な装飾、そして――無駄に貼られまくっている金箔。
「ね、言ったでしょ? わかったなら、私のことをもっと崇めて! そして、甘やかして!」
「たしかにここは! すごいと思う……ただ祀られてるのが――"煩悩"の女神様だしな……」
「あああっ! また煩悩って言ったあああっ! 私は癒しの女神・レイよ!」
「癒しとはほど遠いけどな……」
レイがギャーギャー言いながら掴みかかってる。
「――なあ、レイって女神知ってるか?」
「いや、聞いたことないな……マイナー女神ってことじゃないか?」
「確かにな! この街だけだろな、こんなマイナー崇めてるのは――」
近くにいた観光客が言った。
「――だってさ……」
「わ、私だって! 私だってええええ!」
「タイガ! こっちに来てください! このお守りとかいう物を買いましょう!」
「ルミネル、この色もいいと思うのだが……」
「このお守りってのに書いてある文字ってなんなんだろう……」
「早く来てください!」
「おう、わかった! 今行く――ほら、レイも行くぞ!」
「ひぐっ……ぐすっ……」
なんかちょっと可哀想になってきたかも――
「せっかくだからさ、みんなでお揃いのやつ買おうって、カグラが――」
「た、確かに言ったが――そう言うルクスも喜んで賛成してただろ!?」
お揃いか……気恥ずかしいけども、たまにはいいかもしれないなあ――ん?
「このお守りに書いてあるのって――」
まさかの――日本語!?
「あ、これとかいいんじゃないですか?」
「たしかに! 色も可愛いし! 僕は賛成だよ!」
ルミネルが持ってきたお守りは水色のだった、そして――『恋愛成就』と書いてある……ないな。うん、これはない。
「私は、こっちがいいと思うわ!」
レイの指先にあるお守りは金色で――『商売繁盛』。
これもないな。俺たちは商人じゃないし……
「派手な色ではなくてだな……これとかはどうだ?」
カグラが選んだのは――
「『家内円満』……か。」
「そう書いてあるのか?」
「ああ、俺の故郷の文字だからな……」
「タイガの故郷の文字のか……見たことない文字だな。」
「家内円満? いいじゃん!」
「そうですね! パーティーも家族みたいなものですしね!」
「そうね! これにしましょ!」
「んじゃ、これで決定な。」
「……ところで、タイガさん?」
「どうした?」
レイが俺をさん付けで呼ぶときは大抵ロクなことじゃ――
「お金が足りないの、だから――」
やっぱりか……
「お金貸してくださいっっ!」
女神様はこれはもう素晴らしい土下座をした。
「お、お前なあ……プライドとかはないのか?」
「背に腹はかえられないわ!」
これでいて、いつもは女神の威厳がどうとか言ってるから笑えてくる。
「――ユウリ様はどんなお願いをされたのですか?」
「僕はね、会いたい人がいるんだ。だから、会えますようにってね。ん!? えっ? あ、あれは!」
そうだ、俺たちもお参りしないと――ん? なんかあの人こっちに来てないか?
「もしかして――レイ様ですか?」
「……え?」
金髪の青年がレイに話しかけた。
風貌に見合わない丁寧な所作で、両手を合わせている。
「まさか……まさか、ここでもレイ様にお会いできるなんて……!」
「ちょ、ちょっと待ちなさい! あ、あなた誰っ!?」
「私はユウリ=ハルサメ。――レイ様の導きでこの世界に転生した者です。役職は《ソードマスター》です。」
ソードマスター。剣士系役職の最上級職にして、全ての役職において最強格だ。
「レイ様、あの日僕を導いてくださったときの微笑み、今でも忘れません……!」
「え、ええと……そんなこと、したっけ……?」
「はい。あの日以来あなたのために頑張ってまいりました。」
「……」
「レイ様……?」
レイが俺にコソコソと耳打ちする。
「ねえ、タイガさん。この人怖いんですけど……急に話しかけてきて――」
「いや、転生者って言ってたし――」
というか、この人――ハーレムパーティーですか……
短剣を装備する少女に、背中に斧を背負った少女を連れている。
「レイ様から頂いた"妖刀・斬月刀"で頑張ってます。もし、よろしければ……是非、僕と一緒に行きませんか?」
「私は、このパーティーのプロフェットなの! 最高戦力だから――ごめんね!」
レイ! 最高戦力……ではないけども! こんな仲間想いなやつだとは思わなか――
「それにね! 私は、この男の転生特典に選ばれたの!」
「……き、き、貴様あっ! 女神様を特典に選んだのか!」
「お、お、おい! 余計なこと言うな! 間違ってはない! 間違ってはないけど!」
ユウリが刀を少し抜く。刀身が光を反射している。
「女神を道具扱いする外道が……!」
「いや、してないですよ?」
「タイガさん……なんか――ごめんね!」
「タイガ……? どこかで聞き覚えが――」
「タイガってあれじゃない? スウェリアで女の子から下着を剥いだって噂の――」
ユウリの取り巻きの短剣を装備した女が言った。
「……それ、僕がスキル教えたときの話だね。」
「ルクスに、そんなことしたんですか?」
「不可抗力だ! 決してわざとじゃない!?」
「言い訳無用!」
「たしか、仲間の一人は環境破壊するって噂よ!」
もう一人の取り巻き、斧を背負った女が言った。
ルミネルは目を逸らす。
――刺さる沈黙。
「間違ってはない! 間違ってはないけど――」
「もういい! 貴様に決闘を申し込む! 僕についてこい!」
その目は蔑むような目をしていた。
そして、急に目が輝いたかと思うと――
「レイ様、今すぐに俗人の呪縛から解放して差し上げますからね! もう少しの辛抱ですよ!」
「……呪縛? ああ、そうか。俺が悪党ってことか。」
「ねえ、タイガさん……私、こういう人……ちょっと苦手かも。」
「安心しろ、俺もだ。」
でも、なぜだか無性に一泡吹かせてみたくなった……




