21-3
出ようかな――そう思いつつも、湯加減が良すぎて、なかなか上がれない。
「ルクス……ずっと、足湯状態で寒くないんですか?」
「うん! 大丈夫だよ。だから、僕のことは気にしないで! 心配してくれてありがとうね、ルミネル。」
笑顔でそう言った彼女の表情は、どことなく悲しそうに見えた。
「――ねえ、ルクス?」
レイが言った。
「ルクス……寂しそうな顔してるけど、どうかしたの?」
「……え?」
俺は、こういう時に突っ込んでいいのかがわからない。だからこそ、レイのことを"たまに"すごいなと思うのだ。本当に"たまに"だけども……
「あ、もしかして――カグラとモルティナがいないからかしら!?」
うん――絶対に違うと思う。
「絶対にそうよね! 間違えるはずがないわ! そうだって、私は女神なのだか――」
「違うと思いますけどね。もっと、深刻な顔だった気がしますよ……」
「な、何もないよ!? ほんとに!」
「でも、ルクスって――大事なことがあるときは、逸らそうとするよな。」
「ちょ、ちょっとタイガくん!? キミまで入ってくるの!?」
ルクスが動揺するときはだいたい"何か"がある。そこそこ一緒に暮らしてきて、ようやくわかった。
「本当に……あ、ちょっと湯当たりしたかもしれない! そろそろ上がろうかな! それじゃあ――」
ルクスは立ち上がり、足早に去ろうとした――が
湯気が一瞬、彼女の顔を隠した。
――そして、滑った。
「――え?」
大きな音を立てて、風呂に落ちた。
「お、おい! 大丈夫か?」
「死んだの!? 死んだの!?」
「ふざけてる場合じゃないですよ! ルクス! 大丈夫ですか!?」
ルクスはゆっくりと立ち上がった。
「だ、大丈夫、か……な――」
彼女の顔は青ざめていた。そして――そのまま倒れた。
「……大丈夫です。ちゃんと脈はあります。」
「よかった……とはならないか。」
「一応、回復魔法はかけたわよ!」
「ルクスのことは、私たちが背負って、部屋に持ち帰っておくので、タイガも追いかけて来てください!」
「わかった!」
レイとルミネルがルクスの体を背負った。その瞬間、一瞬はだけたタオルで見えなかった肩が見えた。
「――番号?」
見間違えか……? タオルのタグと見間違えた……?




