21-1
手が震える。緊張からだろうか……
日頃から同じ屋敷で生活してる奴らだぞ?
今さら改まる必要なんて――ない。
そう、ないはずなんだ。
「タイガ。顔、真っ赤ですけど?」
「う、うるさいな! これは、そう――湯気のせいだ!」
「まだ脱衣場にすら行ってませんけど?」
ルミネルの冷静なツッコミが刺さる。
チラリと向かいを見ると――隣の暖簾の向こう側から、男の笑い声が聞こえる。
……本当に、どうして俺はこんなことになってるんだ。
唯一の救いは――温泉が時間制の貸し出しなことだ。知らない人たちと混浴になるよりはマシかもしれない……うん、きっとそうだ。
「こ、ここ……みたいだね。一応……本当に行くんだよね?」
「ルクス、私たちは常に屋敷に一緒に住んでいます。今さらですよ……そう、今さらですよ!」
ルミネルが自分に言い聞かせるように言った。
暖簾をくぐると道が二手に分かれていた。
中央の壁には注意書きが書かれた看板が置いてあった。
『注意。タオルの着用必須。淫らな行為・暴力行為厳禁。右側・男子脱衣場。左側・女子脱衣場。』
……うん、思った以上に物騒だ。
「み、淫らな行為……!? こ、これ、読む必要あったかな!?」
「む、むしろ書かれているということは……実例があったということですね」
「お、おいおい! そんなことが書いてあるってことは、それ以外にも問題が多いってことだろ……!」
「だ、誰がそんな問題行動をするんですか!?」
「……いや、いるだろ。やりそうなやつが――真隣に一人。」
「な、なによ!? 私は清く正しい女神様よ!」
「おととい、リビングのソファで抱き枕を抱きながら、"抱き枕最高っ"って寝言言ってたの誰でしたっけ?」
「や、やめなさいルミネル! それはあれよ! そう、あれは癒やしの儀式なの!」
入りたくねえ……いや、風呂には入りたい。でも――
「そ、そろそろ……入りましょうか!」
「そ、そうだね! うん、ここにずっといるのも良くないしね!」
俺を待つ真の"戦い"は、まだ始まってすらいない――。




