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「……なあ、どうするんだ?」
せっかく集めた薬草はルミネルの魔法で全て消し飛んだ。
「……私のせいで、すみません。」
「タイガ! どうすんのよ! このままだとずっと馬小屋生活じゃない! 絶対にいやよ! 私にもっと楽させてよ!」
元はと言えば、このポンコツ女神が花火魔法を放ったせいじゃないか?
「おい、ポンコツ女神。元を辿ればお前のせいだからな?」
本当にこいつは女神なのだろうか。だって、ポンコツだし、今の泥まみれなこいつを見て女神だと思う人はいないだろう。
さて、このことをどうギルドで報告するか……まだ採っていない薬草も消え去ったんだ、弁償は免れないだろうな。
――冒険者ギルド
ハア、俺たちも周りの冒険者みたいにお酒を飲んで、パーっとしたい気分だ。
「えっと……どうしたんですか?」
「――薬草全部吹き飛びました…」
……どうなるのだろう。莫大な借金を背負うことになるのだろうか。
「…嘘ですよね? 採った物だけですよね?」
「いえ、全部です。」
お姉さんの顔が一気に曇る。
「……エンドウタイガさん。初心者クエストで……またですか?」
すみません。本当にすみません。途中までは本当に順調だったんです……あの花火魔法さえなければ…
「薬草再生には時間がかかります。通常なら一年ほどで再生するのですが……」
と言いながら、お姉さんはルミネルを見る。
「ルミネルさんの魔法で吹き飛んだなら――再生にだいたい五年くらいはかかると思われます。」
あ、まずい。これは借金確定だ。
「初心者ですので、少し優しくして…それにあの山のマムシが一掃されたようなので、討伐報酬を足しまして…」
おっと、もしかしたら借金ルートは避けられたのかもしれない。
「報酬が……マイナス一万メルになります。」
メル…聞いたことない単位だ。
「タイガ…駆け出しとしては、結構な額の借金ですよ! どうするのですか!?」
「私は関係ないから…タイガとルミネルで頑張って返してね?」
「おい! 元はと言えば、お前の花火魔法が原因だろ!」
俺たちは責任の押し付け合いを始めた。
「……あのここ受付なんで、外でやってもらってもいいですか?」
「「「すみません。」」」
――馬小屋
馬小屋へと帰ってきた。普段は嫌いな湿った藁の匂いが心なしか心地よく感じる。
「なあ、レイ。メルって日本だといくらくらいだ?」
というか、俺はこの世界の通貨単位を知らない。食事のときはレイに金を払ってもらうことが多かったからなのだが……
「そうねえ、日本とは価値がだいぶ違うから私にもよくわからないけど……一番価値が低い通貨はペクって言うんだけど、それが百集まってメルになるの……だから、百万ペクね。」
百万……駆け出しの俺たちにとっては途方もない数字だ。
「私は働きたくないから、タイガとルミネルで頑張ってね!」
本当に――あの水晶玉を売り払ってしまうか。
「よし、ルミネル。あんな水晶玉売り払うぞ。」
「そうですね! あんなもの持ってても無駄ですしね!」
「いやああああ! わかったから! 私もちゃんと働くから!」
――冒険者ギルド
冒険者たちは騒いでいる。酒を片手に宴をする人たちで満席だ。こっちは借金でそれどころじゃないのに…酒と獣肉の匂いが俺をおかしくしそうだ。
「クエストよ! 高額なクエストをやるのよ!」
「高額ってことは難しいクエストってことだろ?」
なら、普通にバイトして地道に返済していったほうが安全なのではないか。
「てことでドラゴン倒しましょ! ドラゴン討伐なら借金なんて一発で返済して、お釣りも返ってくるわ!」
「どうしてそうなった!?」
「火力はルミネルの魔法でどうってことはないでしょ?」
たしかに火力はある……ただ、それはあくまでも一発の火力に過ぎない。
「ルミネルもドラゴンスレイヤーの称号欲しいわよね!」
「……ドラゴンスレイヤー!」
ルミネルは目を輝かせる。ドラゴンスレイヤーという肩書きに厨二心がくすぐられたのだろう。
「おい、ルミネル。それはもう少し成長してからな?」
「ハッ! そ、そうでしたね! 私としたことがレイの口車に危うく乗せられてしまうところでした…」
危なかった……ドラゴンと戦いでもしたら、レイは知らないが、俺とルミネルは即死だろう。
さて、どうするかだ。高額なクエストは死ぬ可能性が非常に高い…ただ、簡単なクエストは報酬は安い。
「あ、あのー、お金に困ってるんですか?」
後ろから突然、声がした。振り返ってみるとそこには女性がいた。
その女性は茶色の髪をしていて、前髪で左目は隠れている。そして、黒いローブパーカーのようなものに身を包み、中には紫色のロングワンピースを着ている。髪には十字架と骸骨の髪飾りを付けている。見るからに怪しめな女性だ。
「……えっと、どちら様ですか?」
「…私は、モルティナ。この街にある魔道具店の店主をやってます。」
その女性はモルティナと名乗った。
「…魔道具店のお手伝いして貰えますか? 私の店…自分で言うのもなんですけど、そこそこ儲かってるんですよ…なので、力になれるかもです。」
彼女から敵意のようなものは感じられない。
「ネクロマンサーが何の用なの!? 私が女神と知ってて近づいてきたの!?」
ネクロマンサー。死者や霊を呼び出したり、操ったりすることができる魔術師だ。だいたいは職業だが……レイがああ言うってことは何かあるのだろう。
「……えっ!? あなた、女神様なんですか!? や、やめてください! まだ消さないでください! お願いしますう!」
モルティナは必死に懇願する。それでも、レイはモルティナを消そうとしている。
「レイ、一旦やめてやれ。ネクロマンサーって人間の魔術師じゃないの?」
「はあ? タイガ何言ってんの!? この世界におけるネクロマンサーとはね、生前に大いなる力を持った魔法使いが儀式を通してなる姿…つまりアンデットみたいなモノなの。だから、神に反する存在として、倒さないといけないの!」
なるほどな。まあでも、モルティナにも事情はありそうだし……
「ま、まあレイ? やめてやろうぜ?」
「どうして、ネクロマンサーなんかの肩を持つわけ!?」
「ありがとうございます! 命の恩人です!」
モルティナは泣きながら、俺に感謝した。
――スウェリア街外れ
「ここが私のお店です。」
外見は至って普通の魔道具店って感じだ。まあゲームとかで見た雰囲気ではあるが…
「タイガ! 何か禍々しい気配を感じます!」
俺には全くわからないが、ルミネルは何かを感じ取っているようだ。
レイは不貞腐れながらも付いてきた。そんなに嫌なら付いてこなくてもいいのに……と思う。理由は、余計なことされても困るからなのだが。
ドアを開けると、中から全身に鳥肌ができるほどの冷気が出てきた。周りを見渡すと至る所に、魂のようなものが飛んでいる。
「えっと……どういうこと?」
「魔道具店ナイトメア・キュリオへようこそ! こちらの店員は全て死霊です!」
何それ、すごく怖い。
「あ、この死霊、今日も元気ですよ! まあ、もう死んでるんですけどね!」
「タイガ! 寒いし、怖いです!」
「ああ、ルミネル。すごくわかるぞ。」
モルティナはすごく謎な人だ。もしかしたら、俺たちをここで殺すつもりなのだろうか?
「さあ、ネクロマンサー、早く本題に入りなさいよ!」
「あ、ごめんなさい! 本題なのですが……近くにあるダンジョンに一緒に挑んで貰いたいのです…」
ダンジョンか。ここら辺のダンジョンは低難易度と聞いているから、ネクロマンサーにでもなれば、余裕なのではないだろうか。
「まあ、別にそれはいいんだけど……ここら辺の低難易度ばかりだぞ? ネクロマンサーなら余裕なんじゃないか?」
モルティナは首を横に振る。
「最近、発見されたダンジョンがあるのですが……そこの調査に協力して頂きたくて……あ、もちろん、手に入れたお宝とかは全て差し上げますよ!」
「つまり、難易度がわからないから……ってことか?」
「……いえ、そういうわけではなくて」
モルティナはモジモジとしている。
「実は……方向音痴なので、お願いしたいのです。」
なるほど。そういうわけか。
「わかった! 俺たちでよければ任せてくれ!」
俺たちとしては初めてのダンジョンだ。正直不安ではあるが……ネクロマンサーがいるんだ。どうにかなるよな……? レイの前例があるから心配だけど……きっと大丈夫だろう。
【あとがき】
テンポ感はなるべく崩さないようにしつつ、新しいキャラを出してみました!どうだったでしょうか?
感想などお待ちしております!




