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「――では、こちらのお部屋をお使いくださいませ。私は失礼させていただきます。」
お婆さんが去ったあと、俺たちは静かに扉を開けた。
「な、な、な……」
「……お、おい、タイガ。これ……物置じゃないか?」
「ちょ、ちょっと待て、カグラ。もしかしたら奥に広いスペースが――」
奥、無かった。
「ま、まあ……パーティーの絆も深まりそうですしね! いいんじゃないですか!?」
「そ、そうだな! それに、いい経験になるんじゃないだろうか!」
「それ、完全に自分に言い聞かせてるだけじゃないの!? 僕も、こんな部屋だと思わなかったんだけど!?」
俺は畳三枚分しかない部屋を見渡しながら、そっと呟いた。
「切り替えよ……」
「タイガ……同じ部屋だからって欲情しないで――」
「し、しねえよ!」
「いざとなったら、僕のスキルで拘束するよ!」
「だから、何もしねえよ!」
外では風鈴の音だけが、カラン、と鳴っていた。
「えっと……タイガ? 一旦、観光に行きませんか?」
……というわけで、観光に出たのだが――
「お前ら、さっきから――温泉の方向しか見てないよな。」
「だって、温泉街ですよ!? 気になるに決まってるじゃないですか!」
「そうよ! ルミネルの言う通りよ! ほら、早く謝罪しなさい!」
「いや、なんでだよ。……で、ルクスはさっきから目を輝かせてるな。」
「だって、この温泉まんじゅうおいしそうで……」
「ルクスは甘いものが好きらしいですからね。」
「ちょ、ちょっとルミネル! それは内緒って言ったじゃん!」
ルクスは顔を赤くして、ルミネルに抗議した。
「すまない。そろそろ、私は鍛冶屋に行かなくては……」
「あ、そういえば、カグラはモーニングスターを直しに来たんだもんな。」
「ああ、すまないな……なるべく早く戻ってくるようにする。」
「カグラさん、私も鍛冶屋に用事があるので一緒に行きましょ!」
カグラとモルティナを見送り、俺たちは観光を再開した。
「さて、どこから行くか……」
商店街か? 繁華街に行くのもいいかもしれない。
「タイガ、タイガ! あっちに源泉があるみたいですよ!」
「そこで温泉たまご食べられるらしいよ! 早く行こ!」
「源泉か……そうだな、源泉から行ってみるか。」
少し興味があるしな。
「――なあ、この石碑の文字って……」
「この石碑の文字は解読不能らしいですよ?」
「いや、これ日本語――いや、俺の故郷の言葉でさ。」
えっと……
『異世界に転生した私は魔王討伐の旅に向かった。』
俺と同じ転生者なんだな……
『旅の最中、無償に私は温泉に入りたくなった。私は善行を積んでいたので、神器ネガイカナエールを特典として手に入れた。そこで私は願った――温泉を作ってくれ、と。』
――は? ちょっと待ってくれ……
『そしたら、この街は発展した。魔王討伐は諦めます。』
こ、こいつ! 特典貰っておいてふざけんなよ!?
「なあ……レイ。この温泉街作ったやつって――」
「なんか、ごめんね!」
「そのネガイカナエールとやらで魔王討伐を祈願しろよ! ほんとこいつは何をしてんだよ!」
転生者の皆さん、もしかして他にも色々やらかしてたりしないですか!?
「よ、よくわからないですが、この温泉街を作った人とタイガは同郷ってことなのですね!」
「ああ、そうみたいだな……」
通りで和風な街並みなわけだ。この街を作ったのが、日本人なら理解が早い。
「よし、繁華街の方にでも行くか!」
「ちょっと待った! タイガ、この石碑の下の方を見なさい!」
そこには――
『追伸 女神レイ様へ 魔王討伐は諦めます。ごめんなさい。その代わりに、貴女様のための神社を建立しました。』
「――ね! この人のように、タイガも少しは私のことを崇めなさい!」
「はいはい、怠惰の女神様。」




