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20-4

「――では、こちらのお部屋をお使いくださいませ。私は失礼させていただきます。」


 お婆さんが去ったあと、俺たちは静かに扉を開けた。


「な、な、な……」


「……お、おい、タイガ。これ……物置じゃないか?」


「ちょ、ちょっと待て、カグラ。もしかしたら奥に広いスペースが――」


 奥、無かった。


「ま、まあ……パーティーの絆も深まりそうですしね! いいんじゃないですか!?」


「そ、そうだな! それに、いい経験になるんじゃないだろうか!」


「それ、完全に自分に言い聞かせてるだけじゃないの!? 僕も、こんな部屋だと思わなかったんだけど!?」


 俺は畳三枚分しかない部屋を見渡しながら、そっと呟いた。


「切り替えよ……」


「タイガ……同じ部屋だからって欲情しないで――」


「し、しねえよ!」


「いざとなったら、僕のスキルで拘束するよ!」


「だから、何もしねえよ!」


 外では風鈴の音だけが、カラン、と鳴っていた。


「えっと……タイガ? 一旦、観光に行きませんか?」


 ……というわけで、観光に出たのだが――

 

「お前ら、さっきから――温泉の方向しか見てないよな。」


「だって、温泉街ですよ!? 気になるに決まってるじゃないですか!」


「そうよ! ルミネルの言う通りよ! ほら、早く謝罪しなさい!」


「いや、なんでだよ。……で、ルクスはさっきから目を輝かせてるな。」


「だって、この温泉まんじゅうおいしそうで……」


「ルクスは甘いものが好きらしいですからね。」


「ちょ、ちょっとルミネル! それは内緒って言ったじゃん!」


 ルクスは顔を赤くして、ルミネルに抗議した。


「すまない。そろそろ、私は鍛冶屋に行かなくては……」


「あ、そういえば、カグラはモーニングスターを直しに来たんだもんな。」


「ああ、すまないな……なるべく早く戻ってくるようにする。」


「カグラさん、私も鍛冶屋に用事があるので一緒に行きましょ!」


 カグラとモルティナを見送り、俺たちは観光を再開した。


「さて、どこから行くか……」


 商店街か? 繁華街に行くのもいいかもしれない。


「タイガ、タイガ! あっちに源泉があるみたいですよ!」


「そこで温泉たまご食べられるらしいよ! 早く行こ!」


「源泉か……そうだな、源泉から行ってみるか。」


 少し興味があるしな。


「――なあ、この石碑の文字って……」


「この石碑の文字は解読不能らしいですよ?」


「いや、これ日本語――いや、俺の故郷の言葉でさ。」


 えっと……

『異世界に転生した私は魔王討伐の旅に向かった。』


 俺と同じ転生者なんだな……


『旅の最中、無償に私は温泉に入りたくなった。私は善行を積んでいたので、神器ネガイカナエールを特典として手に入れた。そこで私は願った――温泉を作ってくれ、と。』


 ――は? ちょっと待ってくれ……


『そしたら、この街は発展した。魔王討伐は諦めます。』


 こ、こいつ! 特典貰っておいてふざけんなよ!?


「なあ……レイ。この温泉街作ったやつって――」


「なんか、ごめんね!」


「そのネガイカナエールとやらで魔王討伐を祈願しろよ! ほんとこいつは何をしてんだよ!」


 転生者の皆さん、もしかして他にも色々やらかしてたりしないですか!?


「よ、よくわからないですが、この温泉街を作った人とタイガは同郷ってことなのですね!」


「ああ、そうみたいだな……」


 通りで和風な街並みなわけだ。この街を作ったのが、日本人なら理解が早い。


「よし、繁華街の方にでも行くか!」


「ちょっと待った! タイガ、この石碑の下の方を見なさい!」


 そこには――


『追伸 女神レイ様へ 魔王討伐は諦めます。ごめんなさい。その代わりに、貴女様のための神社を建立しました。』


「――ね! この人のように、タイガも少しは私のことを崇めなさい!」


「はいはい、怠惰の女神様。」

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