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「それじゃあ、お客さん方出発しますよー」
馬の心地よい足音とともに、馬車が動き始める。
レイが窓から身を乗り出す。
「おい、バカ! 身を乗り出すな!」
「何言ってんのよ! 私は女神よ! 落ちるなんてことは――きゃっ!」
「あ……お前、椅子からもう立つなよ。」
街の大きな正門から出ると、いつもクエストで行く平原が広がっていた。
あそこでスライムと戦ってるのは――ギルたちだろうか?
また、コットンが何かギルたちに振り回されているようだ。本当に苦労人だなと思う。
「しかし……こうして街を出るのも、なんだか久しぶりだなあ……」
ルクスが揺れる馬車の窓から外を眺めながらつぶやく。
「ほんとですねー! 私、こういう旅とか初めてです!」
「……ルミネル。今日はラディらないでくれよな。」
「ひどい! そんな、人のことを爆弾魔みたいな言い方して!」
「いや……すでに十分、テロリストだぞ?」
「その、てろ……りすと?とやらは知りませんが、悪口なのはわかりますよ! それに、最近は、まだ一回しかラディってませんよ!?」
「へえ……成長してんじゃん――とはならんよ!? その一回で屋敷の郵便受けに"モンスター愛護団体"と"環境保護団体"から手紙届いてたからな!?」
「そんなのが入っていたのか!? というか――お前、そんな会話を平然とできているのは大丈夫なのか?」
「……ん、慣れた。」
カグラの心配もごもっともだが……この状況に慣れてしまった。自分ごとだが、慣れてきたことが怖い。
「そうねー! 私も、最近はタイガが私のことをやらしい目で見てくることにも慣れてきたわよ!」
「そんなことないんだが!? 悪いが、お前には好意を微塵も抱いたことはない!」
「はあ!? ちょっと、アンタ! それはどういう意味よ!」
「お、お客様! 馬車が揺れると、馬がびっくりしちゃいますんで! やめてください!」
本当にすいません。
「二人とも? 旅行で浮かれるのは分かるけど……落ち着こうよ。」
さすが、うちのパーティーで唯一の常識枠ルクスだ。やっぱり、安心できる。
「ほら、オセロン・クラッシュ持ってきたから! みんなでやろー!」
オセロン・クラッシュ……!?
「あの爆発するやつかああああ!」
ルクスもこの蠱毒に入ったことで、毒され始めているようだ――
……うちのパーティーでは、常識が生き残る未来は限りなくゼロに近そうだ。




