19-1
空はまさに快晴。絶好の旅行日和だ。
異世界に転生してから、かれこれ二ヶ月経つが……なんだかんだで、これが初めての旅行だ。
――今回の旅のただの休暇ではなく、"回復"を目的としている。
「タイガ! こっちだー!」
街の南にある正門前広場。そこには、たくさんの馬車が並んでいた。
「この馬車にしましょう! この黒馬かっこいいですよ!」
「私もそう思うわ! 女神である私の足として動くのだから、これくらいじゃないと!」
「この馬の名前は、サスケとかにしておきましょうか!」
「ちょっと、嬢ちゃんたち。うちの子に勝手に名前付けないでくれないかな……」
「レイも、ルミネルも、一旦落ち着け。運転手のおっちゃんも困ってるじゃないか。それに……お前らと仲間だと思われたくない!」
「はああ!? なんですって! もう一回言ってみなさいよ、引きこもり!」
「そうですよ! もう一回言ってみてください!」
「俺は、引きこもりじゃねえ! 今、外出てるだろ!」
二人が俺に掴み掛かってくる。
「ル、ルクスさん! 助けてー!」
「あはは……ほんと朝から元気だねー」
「みんな、騒がしいぞ……乗馬券は買ってきた。乗るのは、この馬車だ。」
「サンキュー、カグラ!」
「サンキュー……? その言葉の意味がなんだか、よくわからないが……」
「ところでさ、ここから温泉の街だかまでどれくらいかかるんだ?」
「だいたいだが、一日はかかるな。今日は野営だぞ。」
そう言うカグラの声には、いつもの冷静さの中に、ほんの少しだけ高揚が混じっていた。
「ま、まじかよ!」
「あら? 皆さんもお出かけですか?」
後ろから、聞き覚えのある声がした。
ルクスが手を振る。その声の主は、モルティナだった。
「お、モルちゃんじゃん! 僕たちは旅行だよ! モルちゃんは、どうしたの?」
「もしかして、"ユノスパ・ビレッジ"ですか!?」
「ああ、そうだぞ。」
「全く休めそうにない名前なんだが!?」
「モルティナもそこに行くのか?」
「ええ。鍛冶屋の方へ、用事がありまして……あ、そうでした!」
モルティナが俺の方へ寄ってくる。
「カシオさんから渡されたやつなんですけど、どうぞ。今朝、屋敷に伺ったんですけど……不在でしたので。」
「まあ、早く出ちゃったしな……」
モルティナから手渡されたのは、小さな箱だった。そこには、封筒が添えられていた。
封筒を開くと、妙に焦げたような匂いがした。
『少し先の未来が見えたのでな。何か危険なことが起きた時に開け。』
達筆で、どこか不穏な筆跡だった。
「ま、何もないと思うけどな。」
「あ! 皆さん、私もご一緒してもいいですか?」
「私は構いませんよ。」
「僕も賛成!」
「ああ、私も構わん。」
「俺もいいけど……お前は?」
「なんで、ジメジメ幽霊と行かなきゃいけないのよ!」
レイは――いつもと変わらない。
「別にいいだろ? 旅なんて人が多ければ多いほどいい……みたいなの聞いたことあるしさ。」
と、まあこんな感じで――俺たちの旅行が始まった!
 




