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この異世界は、ヒーローでありふれている!  作者: やまぬこもち
第03話『冒険者は常に金欠生活』
7/125

3-1

 金がない。そう、俺たちは今、金がない。

異世界に来てから、一週間が経った。もう二日はほぼ何も食べてない。


「いやああああ! やめて!」


「離してください! こんなもの今の私たちに必要ありません!」


 ルミネルがレイの持つ水晶玉を取り上げて、レイがルミネルに泣きついている。


「返してえ! それは女神の神器の一つなの!」


「……」


「黙ってないで、タイガもなんか言いなさいよ!」


「偽物女神にそんなものは必要ない。おい、ルミネル。生活の足しになるかもしれない。今すぐに売り払うぞ。」


「いやああああ!」


「いや、これ神器じゃなくて……行商人から買ったやつだろ? 神器なわけないだろ……」


 冒険者は基本的に貧乏だ。その日暮らしスタイルが主流なのだという。時々、拠点として家を持つ冒険者もいるが、基本は宿暮らしだ。

 俺たちはというと……馬小屋生活だ。プライバシー? そんなものは知らない。朝目覚めたら、目の前に馬の糞とご対面したときの気持ちを考えてみてほしい。


「タイガ! クエストよ! クエストに行きましょ!」


「そうですね! タイガ! クエストに行きましょう!」


「へいへい、簡単なやつな……」



――冒険者ギルド


 俺たちは掲示板の前に立った。


「タイガさんタイガさん! このクエストにしましょ!」


 レイの指先に書いてあったのは、ドラゴン討伐のクエスト。勝てるわけない。


「おい、ポンコツ。俺たちは、駆け出しだぞ?」


「ドラゴン倒せば、一気にお金持ちよ!」


「いや、その前に死ぬだろ。」


 やはり、この女神はポンコツだ。


「ルミネル、いいのあったか?」


「これとかどうですか?」


 ルミネルの指先を見ると、


「薬草の収集か……」


 これだよ、これ。ゲームとかでよくある超初心者向けクエスト。しかも、そこそこ報酬がいい。


「よし! これにしよう!」


 俺たちは張り紙を剥がして、受付へと向かった。


「薬草収集のクエストですね! かしこまりました!」


 いつものお姉さんにクエストの受注をしてもらい、俺たちはクエストへと挑むことになった。


「では、お気をつけて! ご武運を」



――スウェリア近くの森


「ここら辺だな。」


 今回のお目当てである薬草はここらで採れるようだ。


「タイガさん! 今回は余裕そうね!」


「ふっふっふっ! 私が出る幕もなさそうですしね!」


 たしかに余裕だ……でも、おかしい。こんなにも報酬がうまいのに、なぜ誰もこのクエストを受けないのだろうか。


 


「よしっ! だいぶ採れたし、終わりだな!」


「そういえばね! この森に最近、厄介なモンスターが出るらしいの!」


「へえ、どんな奴なんだ?」


「マムシって言うらしいんだけどね!」


「あの日本にもいる蛇の?」


 マムシは日本にもいる猛毒ヘビだ。俺は見たことないけど、昔の友人が噛まれて死にかけていた気がする。


「その日本とやらにいるマムシは知りませんが、マムシは虫型のモンスターですよ?」


 プーンと日本でよく聞いたあの忌み嫌われる虫の羽音のようなものが聞こえる、なんだろうか。山の上から聞こえる気がする。


「ねえ、タイガ。山の上から変な音が聞こえるんだけど……」


 山の上から来たのは、数えきれない量の黒い虫。


「ああ、これがマムシですね。」


「お、おい! なんで落ち着いてられるんだ!」


 これに襲われたらひとたまりもない。


「装着っ!」


 俺はアーマーを装着した。


「あ、あとタイガ。マムシは魔力に反応するので装着しないほうが…あ、遅かったですか。」


 おい…もっと早く言ってください!!

 俺の真上を黒い影が覆う。そして、俺はマムシの群れに取り込まれた。


「助けてええ!」


 羽音はその音が耳に入ると体中がぞわっとするあの虫。見た目は家で見たらトラウマになる人もいると言われる黒いカサカサとしたあの虫。しかもなんか臭い。下手したらカメムシも混ざってるのかもしれない。

 日本での嫌われもの『蚊+ゴキブリ+カメムシ』のキメラ…つまりは、すごい気持ち悪い。こんなのに進化しようと思ったマムシを恨みたい。


「タイガ! 私に任せてちょうだい!」


 レイが張り切って、飛んできた杖を構える。一体、杖はどこから飛んできたのだろうか。


「タイガ! 私は虫嫌いだから…支援魔法かけてあげる!」


 こ、こいつ!


「《パワフル》! 《デイフェント》! 《スピードフル》!」


 お、おお。たしかに痛みが減ったし、筋力も上がった気がする。


「うおらああ!」



 

「――ハアハア、一匹一匹は小さくて助かった…危なかった」


「途中で装着の時間が切れたのに、よく耐えましたね。あの量は結構キツイですよ。」


「これも女神たる私のおかげね!」


 と言い、レイは空へと花火的な魔法を放った。


 プーン……嘘だろ。またあの音がする。さっきの二倍…いや、五倍くらいのマムシがこちらに向かってくる。


「お、おい! 何やってんだ! このポンコツ女神!」


「や、やばいです! めちゃくちゃ来ます!」


 瞬く間にマムシの群れが来る。ああ、神様やり直せるならやり直したいです…


「タイガさーん! 助けてえー!」


 マムシの群れはレイだけを取り込んだ。


「……さて、どうするか。」


 あれでもレイは女神だ。そう簡単には、やられないだろう。一匹ずつ、剣で倒していくか…


「……閃け、砕け、轟け」


 お、おい…まさか?

 ルミネルの瞳が輝き始める――


「――《ラディアント・バースト》!」


 ルミネルの放った魔法によって、マムシは跡形もなく消え、俺たちも吹き飛ばされた。レイは爆発の中心にいたので、ボロボロだ。


「な、なあルミネル……せっかく採った薬草も、ここら一帯の薬草も…全部消し飛んだんだけど……」


「す、すみません。混乱して、焦ってしまったもので――ふえあ……」


 ルミネルは倒れた。


 そして、俺たちはクエストに失敗した。

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― 新着の感想 ―
まさかの失敗!いい!こういうのでいいんですよ! 俄然面白いですね! マムシは気持ち悪くてナイスです!
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