EX.4 「運命の選択 ー完成された魔法ー」
息が荒い。森の中を駆け抜ける風が、頬を叩く。
あの黒い羽の示す場所――採石場跡。
たどり着いた時、夜の闇がまるで私を飲み込もうとしていた。
「……アスター、どうして……?」
あのとき、メイラの笑顔が、焼きついて離れなかった。
――絶対に、私が助ける。たとえ誰に裏切られても。
採石場跡に着くと、メイラが中心部に倒れていた。
「メイラ!」
「やっと来たのね……」
その声は崖の上から聞こえた。
そこには――アスターがいた。
「さあ……愚かなる光の子、選びなさい――友情か、使命か。」
そう言ったアスターはいつもとは違った……どこか物寂しい雰囲気を放っていた。
「どうして、メイラを――」
「私のためよ。私はあなたを――私の従属にするために魔法を教えた。だから、私は――あなたの親友を殺す。」
アスターは倒れているメイラへと人差し指を向ける。
「やめてください!」
「それは無理なお話ね……止めたかったら、私を倒しなさい。」
アスターの人差し指は雷を溜める。
私はメイラの前へと走った。
そして、アスターへと右手を向けた。
見様見真似の構えに、ずっと考えていた詠唱――
「運命は、闇に沈もうとも。たとえ世界が私を拒んでも――」
「そうよ……それでいいの。」
私は信じたい。この手の中の黎明を――!
「嘘も後悔も、すべてこの光に変えて――」
私を信じてくれたメイラのためにも……負けられない!
「輝け、私の夜明け! ラディアント・バースト!!」
アスターの放つ白い魔法と私の虹のように輝く魔法がぶつかり合う。
右手が焼けるように熱い。
「……ん、ルミ、ネ、ル?」
突風が吹き荒れ、木々が揺れる。轟音が周囲にこだまする。
ぶつかり合う二つの光は、夜を昼間のように照らしていた。
「……そうよ、ルミネル――あなたは選択を間違えなかったの。」
次の瞬間――私は師匠を超えていた。
「ルミネル……あなたの勝ちよ。」
「アスター……いえ、師匠。私のことを従属にしようとしていた……それは――嘘なんですよね?」
「――あなた……本当にすごい子ね。でもね、最初は従属にするつもりだったわよ?」
アスターの身体は少しずつ崩壊を始めていく。
「……私もまだまだ未熟者ね。ルミネル、右手……痛いでしょ? 次に放つときからは、杖を使いなさいね……」
「師匠……」
「私はね……誰かを信じることが怖かったの。だから、あなたを“従属”という形で繋ぎ止めようとした……あなたは誰かを信じることができる。……あなたの光は、きっと――いつか誰かの夜を照らすことができるわ。」
「誰かの夜を……」
「ええ、そうよ……もう、限界みたい……ルミネル。」
アスターは目に涙を浮かべた。そして――
「――あなたは、きっと……"希望の魔法使い"になれるわ!」
次の瞬間、彼女の身体は粒子となって消滅していった。
熱い水滴が私の頬を伝う。
「ルミネル……今の――」
後ろからメイラの声がした。
「見てたんだ……うん、今のが私の魔法。」
「ルミネル……!」
彼女が私の方へと走ってくる。
秘密にしていたこと、隠していたこと、嘘をついたこと……それに怒っているのだろう。
「メイラ、ごめ――」
彼女は私を抱きしめた。
「痛い……痛いよ、メイラ……」
「ありがとう……ルミネル。私のことを助けてくれて――」
「隠してて、ごめん。」
「これでルミネルも魔法使いだね……!」
彼女の涙と抱きしめられた痛みから、彼女の想いが伝わってきた気がした――
 




