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「タイガさん。来てくださったんですね!」
「……で、話ってなんですか――ミリアさん。」
今朝、屋敷の郵便受けに手紙が入っていた。
それは、ギルドからのものだった。
ミリアさんから内密に話したいことがある……とのことだったので、俺はギルドへとやってきたというわけだ。
「実はですね。ベルトのメンテナンスをしたくて……」
「メンテナンス? みんなはしてる雰囲気ないけど……」
「タイガさんも含めた転生者のベルトは特別な作りになっているんです。実は、持ち主の成長に合わせて、進化するように設計されているんですよ?」
「そうなんですね……それにしても、ミリアさん。手先が器用ですね」
「よく言われます……そして、仕事ができるタイプなので――今月だけで残業時間が、すでに八十時間を超えてますよ……あは、あはは……」
「まだ今月二週目に差し掛かったばかりですよね!?」
「女神と受付嬢の組み合わせはハードワークなのですよ……」
ベルトの前面部分が剥がれ、中身の基盤が見えるようになった。
「遠藤大我さん。あなた……」
「はい……」
思わず、息を呑む。
もしや、全然成長してない……とか?
「すごい成長ですよ!? ここの基盤が光り輝いているのは初めて見ます!」
「そこって、どんなやつなんですか?」
「転生特典とは別に転生者が自身で伸ばすスキル……通称"固有スキル"が基盤には入っているんです。皆さんは、自身の与えられた特典の能力や武器に合わせて、進化するんですけど……タイガさんの場合は、レイ先輩を選んでるので――あまり関係ないみたいですね!」
固有スキル。俺にも、強くなれる可能性が……!
「で、俺の固有スキルは!?」
「基盤の呪文を読み解くので、少しお待ちを……なるほど! わかりましたよ! タイガさんの固有スキルは――」
どんな能力なのだろうか……期待に胸が高鳴る。
「"チェンジ"です! おめでとうございます。このスキルは使い勝手がいいですよ?」
「それって、どんな能力ですか!?」
「加護を使用して、強化アーマーの性質を変えられるチカラです。簡単に言えば、ヒーロー作品のフォームチェンジ……みたいなやつだと思ってください!」
「加護……?」
「もしかして……レイ先輩から説明されてないですか?」
俺は頷く。
「ハア……本当にあの先輩は――」
後輩にここまで言われる先輩って、どうかと思うが。
まあ、あいつここに来て、二日目で後輩に水ぶっかけられてたし……
「加護とは、女神と悪魔、一部アンデットとの契約です。契約することで、特殊なチカラを使用することができます。例えば、先輩は治癒のエレメントを司っているので――治癒の加護が得られるんです! そして、治癒の加護は名前の通り、回復に優れている加護です。」
なるほど、だいたいわかった気がする。
おそらく、女神や悪魔、一部アンデットの持つエレメントのチカラを引き出せるようになる――ということだろう。
「私の加護をタイガさんに授けます!」
ミリアは右手を差し出した。
「手を繋いでください……グロー、私の持つエレメントです。“知恵や希望"を司ります。」
俺は右手を差し出す。
ミリアが手をぎゅっと握る。
光が右手を包み込む。
――温かいのに、どこか懐かしい。
まるで“誰かの手”を思い出すような……
緊張と波動で胸の鼓動が早まる。
「……継承できましたよ! 使ってみてください!」
「えっと……どうやって使うんだ?」
「掛け声とか……決め台詞……みたいなやつを言えば、何か起こるかもしれませんよ? この固有スキルは今まで見たことないので、絶対とは言えませんが……」
「決め台詞か……」
決め台詞を作るなら、かっこいいのがいい。
知恵――叡智とかがいい気がする。
希望――光とか……か?
「よし! 思いついた……」
「おお! どんなやつですか!? ぜひ聞かせてください!」
「おう! じゃあ……行くぞ!」
俺はゆっくりと深呼吸をする……ヒーローらしく、女神のチカラを借りることを考えて、思いついた決め台詞。
「女神・ミリアの叡智、その光を――我に!」
左手に鍵のようなアイテムが現れた。
感覚で理解できる……この鍵はベルトに装填するモノなのだと。
「え……!? えーー!?」
ミリアが驚きの声を上げる。
いつもの装着をした後に、ベルトが展開し、光の羽時計のような魔法陣が広がる。
淡い銀光が装甲を包み、青白い回路が脈動する。
『――《ソフィアフォーム》、起動!』
ベルトからシステム音声が流れる。
「タイガさん! 本当にできちゃいましたよ!? あの掛け声でいけるとは思いませんでしたよ! あ、鏡見ますか?」
そこには、前のシンプルな素体が淡い銀色の装甲で包まれていた。背中には、小さな羽がついていた。
そして――ギルドの広場から聞こえてくる声の識別ができる。
「す、すげえ……このチカラはすごいぞ!?」
「よかったです! そのチカラ……大事にしてくださいね? その掛け声……私としては、ちょっと恥ずかしいですが……」
「もちろん! 大切に使わせてもらうよ!」
俺は右手を前に出す……すると、剣が出てきた。
「「……え?」」
二人して驚きの声を上げた。
「ちょ、ちょっと、タイガさん!? 私のこと、倒すつもりですか!?」
「ち、違う! ご、誤解だ!」
その剣は、異世界の雰囲気に反した機械的な見た目をしていた。
「……ん? あ、その剣はタイガさん専用の武器みたいですよ! その剣も魔力を消費して出てくるみたいですね!」
「俺専用の――武器?」
「はい! この剣は……剣、弓、杖――と言った感じで、姿を変えられるみたいですね!」
「なるほど……」
これは、あとでカシオとの特訓で少しずつ慣れていくことにしよう。
「その武器の名前は――"オーロギア"! オーロギアとかどうですか!? センスあると思いませんか!?」
たしかにかっこいい……ヒーローの武器って感じもするし――
「よし! オーロギアに決定だ!」
ミリアは微笑んで、言った――
「では、このクエストを受けてくれませんか?」
「ちょ、ちょっと待ってください! も、もう少しだけ慣れてからでいいですか!?」
「はい! いつでも――待ってますからね!」
その微笑みが怖い……




