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近づいてきた足音の正体は言った。
「…と、問いたいことがある。な、汝らのパーティーは魔法使いを欲するか?」
「……」
「ほ、欲するか?」
「…えっと、どちら様ですか?」
「ふっふっふっ! わ、妾の名を名乗る相手かどうかは汝らの決断に委ねられる…」
……あ、これだ。厨二病。しかも重症だ。
目の前の少女は、中学生くらいだろうか。
黒を基調に赤を差した三角帽子、漆黒のローブに赤いワンポイント入りのワンピース。
皮のブーツを履き、杖を握るその姿は――まさしく「ザ・魔法使い」。
肩まで伸びた黒髪、背は低め。世間的に言うなら“ロリっ子”枠だろう。
異世界に来たからにはこういう子がいてもおかしくない。
「…な、汝、わ、妾の力を欲するか?」
「……」
どうしよう、すごく話しにくい。
「…何しにきたんですか?」
「さ、先ほどから興味深い言葉が聞こえてきたものですので……」
「……あれ? もしかして、その淡い紫の瞳は――」
「なんだ?レイ知ってるのか?」
「この世界での魔法使い最上級職になれる唯一の種族で、その役職の名前がそのまま種族名となっている……種族名はたしか――《アビス》だったかしら?」
《アビス》…日本語だと深淵や奈落といった意味だったはずだ…。
「し、知っている方がいらっしゃったとは! では、妾の名を名乗ってしんぜましょう!」
勿体ぶるということはさぞかしかっこいい名前なのだろう。かなり期待できそうだ。
少女は深く呼吸をして高らかに名乗った。
「妾の名はルミネル! 魔法のエキスパートアビスの一人にして、いずれ伝説となる者!」
「……お、おおー」
「妾の奥義の強さは絶大なために相手は一瞬で灰塵と帰すだろう…」
「へ、へえ、そうなんだな。」
究極にして、最強の魔法を操るのなら断る理由はない。その上、魔法使いの中でも最上級職の《アビス》だ、戦力としても置いておいて損はないだろう…ただ厨二病なところが少しあれだが。
「まあ俺はタイガだ。こっちはレイ。よろしくな、ルミネル!」
「こちらこそ、よろしくです。」
そのとき、ギルドにいた冒険者たちが寄ってきた。何かあったのだろうか。みんなは口々に、ルミネルに言った。
「おめでとう! お嬢ちゃん! ずっと一人でいるから心配してたんだよ!」
「ようやくパーティーに入れたんだな! おめでとう!」
「誰にも話しかけずにモジモジしてるだけだったから、パーティー入れないんじゃないかって思ってたけどよかったな!」
なるほどな。ルミネルはぼっちだったようだ。その上、話を聞く限り、人見知りみたいだ。
「……皆さん! ありがとう!」
ルミネルは恥ずかしそうに、三角帽子を深く被ってそう言った。
「ところでさっきから『妾』って一人称が気になるんだけどさ。」
「触れないでください…インパクトを残したかったんです…」
――平原
スライムへのリベンジマッチといこう。
「いいか? レイはここで支援魔法を頼む。ルミネルは魔法を溜め始めてくれ!」
「わかったわ!」
「任せてくださいっ!」
スライムは二体いる。さて、どうするか。
「ルミネル! 二体とも倒せるか!?」
「もちろんです! 任せてください!」
ルミネルは杖を構えた。ルミネルの紫の瞳は白く輝き、光の揺らめきが炎のように見える。そして、ルミネルは詠唱を始めた。
「星々の残光よ、崩壊の鼓動と共鳴せよ! その輝きを爆ぜ、全てを白き終焉へ導け! 咆哮せよ――《ラディアント・バースト》!」
ルミネルの前に現れた魔法陣が輝き、スライムの周りが激しく光る。そして、最後の技名のようなところでルミネルが杖を振りかざした……魔法陣から虹色の閃光が放たれ、大爆発を起こした。虹色の閃光がスライムを貫いた瞬間、空気が一瞬にして焼け、草原を焦がす轟音が耳をつんざいた。そして、スライムは跡形もなく消え去り、地面には大きなクレーターができていた……。
「…ど、う…でした、か?」
爆発の轟音でよく聞こえない…
「ん?」
「わらひのまほふれすっ――ふああ。」
ルミネルは地面にふらりと倒れた。
「ルミネル!?」
「死んだ!? 死んだの!?」
「おいバカやめろ! 縁起でもないこと言うな! このポンコツ女神!」
「あああー! タイガがまたポンコツって言ったあー!」
「おい! 大丈夫か!?」
「ハアハア、――私の奥義の強さとくとご覧いただけましたか?」
「ああ、すごかったぞ! でも、大丈夫なのか?」
「私の奥義は絶対的な強さを持ちますが、ただそれゆえに魔力と体力の消費も大きいのです…」
「そうなのか。じゃあ、奥義はなるべく使わないほうがいいな、他の魔法を中心に戦おうか。」
「……」
ルミネルは急に黙った。
「実はーー私は《ラディアント・バースト》以外のスキルは使えません……」
「え? まじすか?」
ルミネルはこくりと頷く。
嘘だと言ってくれ…攻撃力として申し分ないが、ぶっ放した後が難点だ。いや、あまりにもマイナスだ。
「えっと、どうして、これ以外のスキルは使えないんだ?」
「…それは私が他のスキルを扱える技量を持ち合わせていなかったんです。」
「ーー聞いてもいいことかわからないけど、聞いてもいいか?」
横でルミネルの魔法によってできたクレーターのを観察しようとして、クレーターに落ちて泣き喚いているレイをよそに、ルミネルは言った。
「魔法が使えなかったんです、私は。それ以外の魔法を覚えられなかったのほうが正しいかもですけど」
…この年齢でこれまでの過去を背負っているのか。
「それで落ち込んでるときに出会った女の人が使っていたのが、《ラディアント・バースト》なんです。この魔法は私の心を突き動かしてくれる原動力なんです。この魔法しか使えなかったとしても…私はいいんです!」
今からでもパーティーから追い出すか……ダメだ、これだけの覚悟を持った少女を追い出すなんてことは…今の俺にはできない。
「ーーわかった。これからもよろしくな、ルミネル!」
口では軽く返したが、胸の奥がじわりと熱くなった。
自分も、ヒーローにすがることで立ってきた時期があった気がする
「こちらこそ! よろしくお願いします!」
ルミネルは満面の笑みでそう答えた。
いい話だなあ。我ながら感動だ。
「タイガしゅあん! だずげでー!」
聞き慣れた泣き喚く声がクレーターの中から聞こえる。覗いてみるとレイが出られなくなっていた。
「だずげで…」
そんな女神に俺は告げた……
「ーー今日の晩ご飯はお前の奢りな!」
レイは目に涙を浮かべながら渋々頷いた。
その夜、俺とルミネルは容赦なく注文しまくった。
【あとがき】
異世界と言えば、魔法使い!と言った感じで出したキャラクターでございます!
感想お待ちしております!
ではまた次回!




