16-1
……暗い。
目を開けているのか閉じているのかもわからない。
ただ、どこまでも静かな“無”の中にいた。
「あら? やっと来たのね、タイガ。」
聞き覚えのある声。
優しく響く声。
どこか安心する声だった。
ゆっくりと顔を上げると、そこには――
レイがいた。
そして、その隣には茶色い髪の女性。
「……ミリアさん?」
彼女は、穏やかに微笑んだ。
その微笑みは、ギルドの受付でいつも見るあの優しい笑みによく似ていたのだ。
「ふふ、そう呼ばれるのは久しぶりですね。でも、今の私は“この世界を司る女神ミリア”です。レイ様の後輩女神です。」
「……女神?」
そういえば、前にレイがこの世界にも女神がいるって言ってたな。
「ええ。あなたのことをずっと見守っていましたよ。それに、ギルドの受付嬢と女神って仕事は相性がいいんですよ?」
俺は思わず、息を呑んだ。
信じられない。けれど、その瞳に嘘はなかった。
「ここは、“死者の部屋”。命を落とした者の魂が、一度だけ立ち止まる場所よ! まあ、タイガの場合は二回目かしら! 転生する前に私と話した場所に似てるでしょ?」
「たしかに言われてみれば――てことは……」
そうか、俺……死んだのか。
「あ! そうだ、みんな無事なのか!?」
ミリアは微笑んで、頷く。
「ああ、よかった……」
「ルミネルが泣きながら、ラディアント・バーストをぶっ放したりしてるけど――まあ大丈夫よ!」
不穏なんだが!?
「タイガさん。あなたには今、二つ選択肢があります。天国に行くか……転生して新しい人生を歩むか……」
「……」
どっちも嫌だな……異世界での暮らしも悪くなかった。
いや、楽しかった……日本で暮らしていた期間よりも――数ヶ月間のほうが楽しかった。そう感じる。
「ねえ、ミリア? そろそろ、教えてあげてもいいんじゃないかしら!」
「ええ、そうですね! 最後にレイ様と転生したあなたにしか許されない特別な選択肢がありますよ!」
ミリアが両手を広げて言った。
「先輩に蘇生されて蘇る! それはあなたにしか許されない特別な選択です! どうしますか?」
「え? でも、レイは今ここに……ん? なんかお前――ちょっと透けてない?」
レイはたしかに目の前にいるのだが、くっきりと見えるミリアに対して、レイは少し透けて見える気がする。
「言ったでしょ!? アンタのせいでねー、天界にはまだ帰れないの! 本物は今、アンタの死体の目の前にいるわよ! これは女神式通話術みたいな――――」
「まあ、先輩が難しそうなこと言ってますけど……ビデオ通話みたいなものだと思ってください。」
「な、なるほど……」
「さあ、タイガ! どうするの!? 蘇るの? 蘇らないの? ……ま、もう答えは決まってる――って顔してるけどね!」
「伊達に付き合い長いだけあるな! もちろん――アイツら、俺がいないとダメそうだしな!」
「正直じゃないわねー! ま、アンタらしいっちゃ、アンタらしいわ。じゃあ、少し待っててちょうだい!」
レイの幻影がふわりと消滅した。
「――あ、来ました! 蘇生準備完了です!」
周りが光り始めた。
「命を大事に、ですよ? それでは――また"受付"で会いましょうね!」
「おう!」
「あ、あと……私が女神のことはヒミツですよ?」
ミリアは口元に手を当て、いたずらっぽく笑った。
そして、俺は眩い光に包まれた――
――もう一度、仲間たちのいる“世界”へ戻るために。
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