15-1
森の風が止まり、空気が――沈んだ。
「――おい、そこの雑魚ども。僕の“展示会”を荒らすし、まだ幕も上がる前に攻撃してくるしー!はああ……」
白髪赤眼の男は大きなため息をつく。
再び風が吹き始める。俺の身につけているマントが風に靡く。
「――失せろ。」
その一言が放たれた瞬間、近くの茂みからも現れた先程倒した、"人"だったモノが大勢出てきた。
魂を抜かれたかのような真っ白な瞳をしている。
「――っ! 全員! 私の後ろへ下がれ! ルクス任せた!」
ルクスはアクセルブレイクで俺たちを瞬時に回収し、カグラの後ろへと下がった。
「――球状鎖舞!」
カグラが鎖鉄球を俺たちの周りで回転させる。
「へえ……やるじゃん。でも――」
男は手を上に掲げた。
「――残念。」
無数の"元"人間たちは針となり、鎖の中へと入ってくる。
「あはは! すごいでしょ!? 僕の芸術作品"血吸い人形"!」
「カグラ! 大丈夫なのか!?」
「タイガ……ああ、問題ない。安心してくれ、何があってもお前たちは絶対に――守り抜いてみせる!」
攻撃の勢いが増す。
「――くっ……! 絡封殺!」
鎖が俺たちを絡め取り、外へと投げ飛ばす。
「カグラ!」
カグラは一人であの男の攻撃を受け続ける。
そして、男はニヤリと笑った。
「――はい。おしまい!」
「……」
砂煙と沈黙だけが広がる。
「――っな!」
次の瞬間、カグラの鎖鉄球が砕け散ると共に……カグラが地面に倒れた。
「あはははは! やはり、戦いは芸術だ! でも、残念だ……キミは僕の芸術にふさわしくない。」
なんだ……なんなんだよ、アイツは。
「はあ……でも、僕の死体兵はいなくなっちゃったしなあ――仕方ないな、僕が直接倒してあげる!」
彼の腕から垂れた赤い滴が空中で線を描き、やがて剣の形を取る。まるで“自分の血を素材に彫刻する”かのように。
あれは……血で……剣を作ってるのか……?
「そうだ! 自己紹介がまだだったね! 僕の名前はデリウス。魔王軍幹部十二将軍の一人にして……第六将軍さ!」
魔王軍幹部……! なぜ、今ここに……
「タイガくん。あいつは『紅血のデリウス』と呼ばれている。そして、魔王軍幹部の中でも強いほうだ。絶対に、今の僕たちで勝てる相手じゃない。つまり、僕たちの勝利条件は――誰も欠けずに撤退…またはあいつを撤退させること!」
「わかった……レイはカグラの治療を頼む。ルミネルも下がってろ。俺とルクスで距離を詰める。」
俺とルクスはベルトを取り出し、腰に装備した。
「「装着っ!」」
スーツに冒険者マントが装着された、今までとは違う姿だ。
ルクスのスーツはメタリックだ。包帯マフラーと腰のさまざまな装備が盗賊だということを物語っている。
「へえ……準備万端って感じ? じゃあ、行くよー!」
デリウスは剣から斬撃を飛ばしてくる。
「あれ行くよ!」
「了解!」
(「「アクセルブレイク!」」)
これで一気に距離を詰める。少しでも攻撃を!
「シャドウリード! 今だよ! 剣を奪って!」
ルクスが作ったチャンスは無駄にできない。
「任せてくれ! ライトフィンガーー!!!」
「ああ、剣……盗られちゃった。まあいっか!」
デリウスは指でスナップした。
パチン、とした音が森に響く。
「……タイガ? て、手が――」
ルミネルが今にも泣きそうな声で言った。
その瞬間に走った激痛。
剣の構造が変わっていた。先程まで持ち手だった箇所が刃となっていた。
「――!」
デリウスのほうを見ると、奴は俺のことに夢中で気づいていない。ルクスがサイレントステップとアクセルブレイクで距離を詰めていることに。
「あのさあ……気づかれないとでも思った?」
「ぐっ……」
その瞬間、デリウスの腕がルクスの首を締め上げた。空気を求めるように喉が鳴る。
「……あがっ――!」
「……」
あまりにも圧倒的すぎる。
予測されていなかった、魔王軍幹部の襲来。
ごめんルクス。
身体の痛みよりも、胸の奥が焼けるように痛かった。
守りたい仲間が苦しんでいるのに、俺は――何もできない。
叫びたいのに、声が出なかった。
痛みよりも、無力が――怖かった。
仲間も助けられない俺は――ヒーローになんてなれない。




