12-2
――屋敷
「ハアハア……ま、撒いたか?」
「た、多分ね……でも、あの人の鎧についてた紋章どこかで見たことある気がするだよなあ……」
「ルクスもですか? 私も見たことがある気がしますよ。それに……リアーナ様って言ってましたけど、どういうことなんでしょうか?」
二人は首を傾げて考え込んでいる。
「なあ、リア。教えてくれないか? みんなにが嫌ならさ、誰か一人にだけ話す……とかでもいいからさ。ルミネルとかルクスとかさ年齢も近いし、話しかけやすいだろ?」
リアはこくりと頷く。彼女は、自分の指先をぎゅっと握りしめた。
その仕草だけでわかる。不安なのだろう。それでも――勇気を出そうとしている。
ただ……そんな彼女にも、これだけは言っとかなくてはいけない。
「でもな――絶対にレイだけには話しちゃダメだぞ。」
その一言にリアはくすくすと笑い出した。
レイは何も知らない顔をして、こちらを振り返る。
俺は一人自室で考えた、彼女にとっての幸せを。
俺はリアが幸せなら、今のままでもいいと思う。ただ、彼女が仮にも高貴の生まれだったら、身分がそうさせてくれないのだろう。
「――リアーナ様か。」
そのとき、ドアがノックされた。
「タイガ。夕飯ができたぞ。」
カグラの声だ。
「わかった、今行く……」
リビングに着くと、すでにみんな揃っていた。
「今日のお米はリアちゃんが炊いたんだよー!」
「ルクにいのおかげで上手く炊けましたよ!」
「ちょっ、ちょっと! リアちゃん!? 僕、女の子なんだけど!?」
俺はその光景を見て笑いながらも――どこか気分が晴れなかった。
彼女が食卓を囲んで笑う。だけども――そんな彼女の笑顔が壊れてしまう……そんな気がしてたまらなかった。
「あの……おにいちゃん、これからお風呂ですか?」
食後にリアが話しかけてきた。
「ああ、そうしようかな……と思ってたんだけども、なんか用があるのか?」
彼女はこくりと頷いた。
「わたしの部屋に来てください……ここだとアレなので。」
「ああ、わかった。」
リアの部屋に入ると、そこにはベッドと今日買ったものしか置いていない、殺風景な空間が広がっていた。
リアはベランダの窓を開き、外へと出た。俺がこの世界に転生してきた頃はまだ夏だったが、もう季節は少しずつ秋へとなり始め、外は少し肌寒い。
「星……綺麗ですね。」
「……そうだな。」
「知ってますか? この国は"星の国"だってことを。」
「なんだそれ? 初耳だな。」
「この国は、星の女神からの加護を受けているって言われてるんですよ? だから、星空を眺めると少しだけ……少しだけ……」
彼女は笑って言うが、その笑いはただの"強がり"だということが見るだけで分かる。
「なあ、リアはこの生活が楽しかったか?」
「……もちろん! 今まで生きてきた十一年よりも楽しくて、充実した日々でしたよ!」
「なら、よかったよ……なあ、リア。知ってるか? 星同士を繋げると生き物とかが浮かび上がってくるんだ。」
「そうなんですかっ!?」
リアは目を輝かせ、興味津々に身を乗り出した。
「俺の国とは少し星が違うかもだけどな……」
リアが星空を指差した。
「あの白い星たち……なんだか翼を広げた鳥みたいに見えますよっ!」
「お、あれはな……はくちょう座、って言うんだ。飛び立つ鳥の星だ。」
「そっか……いつか、私もこの星みたいに飛んでいけるかな。」
リアは空を見上げたまま、小さく息を呑んだ。
その横顔が、まるで本当に"星の国の姫"みたいで――俺は、何も言えなくなった。
……だけど、飛び立つ星があるなら、俺は――地に残って、その光を見送る側なんだろうな。
それはきっと、昔読んだかぐや姫とおじいさんのような――
そんなことを思っていたら、リアが、今にも泣きそうな笑顔で俺を見ていた。
夜風がカーテンを揺らす。
そして、リアは口を開いた――




