プロローグ-3
目を開けると、俺たちは異世界に来ていた。
道は日本と違って、未舗装だ。前を歩く人の服装は、異世界に来たんだ、ということを思い知らせてくれる。俺みたいな普通の人間。耳が特徴的なエルフ。そして、いかつい見た目のドワーフ。それにケモ耳の獣人がいる。
これは現実で、まごうことなき“異世界”だ
「…俺、異世界来たよ! 来ちゃったよ! 異世界来たああああああっ!」
ついに来たのだ、異世界に! 夢にまで見たあの異世界が今俺の目の前に広がっている。日本では黒歴史的な情け無い死に方をしたけど、この世界での俺は『真の勇者』だ。
「いやああああ!」
横でレイが叫ぶ。せっかくの異世界に浸っているのだから邪魔しないでほしい。
「おい、女神。人が感動しているんだから黙ってくれ。それに帰りたいなら帰ってもらっても構わないからな。」
「…ねえ、私が困ってる理由を知ってから言ってるの?」
「いや、知らない。」
「私ね、あなたが転生するときの特典に選ばれたの。だから、あなたが魔王討伐をーー」
魔王倒さないと帰れないってことか?
「……まじで?」
レイはこくりと頷く。
どうしよう。急に申し訳なくなってきた。
「…えっと、他に帰る方法ないの?」
「この世界に迫る全ての災厄を退けたあとにね、女神から願いを叶えてもらうことができるの、それで私のことを天界に帰せるわ……もう一つの方法は、あなたが天寿を全うする…ことよ。」
と言いレイはまた泣き喚いた。
レイへの罪悪感がひしひしと身に染みた。
「わかったわかったから! 魔王討伐は頑張ってやるから…で、どうしたらいいんだ? 女神。」
「女神って呼び方はやめて、レイって読んでよね。私もあなたのことタイガって呼ぶから。」
「とりあえず、まずは冒険者ギルドとかに行くのがいいと思う。」
「そ、そうなのね! ゲームばっかりしてただけはあるわね!」
一言余計だけど、まあ許そう。
「それで、レイはギルドの場所とか知ってるか?」
「知らないわよ!」
「…え?」
「だから、知らないわ! だって私はこの世界担当の女神じゃないもの!」
おいおい、嘘だろ。てっきり有能な案内役になってくれるかと思っていた。…とんでもないお荷物となってしまった。それなら、動物と話せる能力とかの方がよかったのではないだろうか。
少し後悔しているとどこからか放送が流れた。
『こちらスウェリア冒険者ギルドです。迷い人のお知らせを致します。――――』
スウェリア? この街の名前だろうか。とりあえず、この世界に冒険者ギルドがあることがわかっただけでも進展だ。俺は近くにいた見るからにいかつい人に話しかける。
「一つ聞いてもいいですか?」
「いいぞ、なんだ?」
「ギルドの場所わかりますか?」
冒険者ギルドというものは、冒険者たちの拠点的存在だ。ここがなければ冒険者たちはクエストを受けることができない。つまり、冒険者ギルドとは、冒険者たちの生命線なのだ。
スウェリア冒険者ギルドは街の中央に位置している。内装はザ異世界と言った感じだろうか。街の旗かと思われる物や、牛の頭のような骨、重装備の騎士像などが飾られている。中にいる人たちは、鎧を着た騎士や、身軽な装備をした盗賊のような人、魔法使いのような人など様々だ。
ただ、全員が共通して持っているモノがある。それは、謎の《ベルト》のようなものだ。あれはなんだろうか。
「ねえねえ、タイガ! 早く登録手続きを済ませましょ!」
レイが俺を急かす。もう少し、異世界を楽しませてくれてもいいのではないだろうか。そんなことを考えながら俺は受付に向かった。
「こんにちは! 普段見ない顔ですね…冒険者ギルドへの新規登録でしょうか?」
受付のお姉さんも美人だ。やはり、異世界とはいいものだ。そう思う。
「…お客様? どうなさいました?」
「あ、いえ。新規登録です! 俺とこの隣にいる女の子もお願いします。」
「わかりました! では、登録する前に…」
「何かあるんですか?」
「適性検査を受けていただきます。」
「その適性検査って?」
「はい。一応やらせていただいております。」
「それはどんな検査なのでしょうか?」
「これを腰に付けてください。」
と、ギルドのお姉さんにあの謎のベルトを手渡される。レイはそのベルトを不思議そうにいじくりまわし、お姉さんに軽く怒られている。
「…これを付ければいいんだな。」
正直言って、少し怖い。得体の知れないものだからだ。付けてみて、もし合わなかったとき、ベルトが爆発四散する可能性もあるかもしれない。
俺は深呼吸をして、恐る恐るとベルトを腰にかざした。
すると、勝手にベルトの帯がシュインと音を鳴らして、腰を回り、装着された。
「はい! お二人とも適性検査合格です!」
横を見ると、レイも装着できたようだ。
「では、続いて諸々の手続きがあるのですが、本日はギルド業務は終了で飲食業の時間となってしまいます。なので、こちらの部屋を利用してください。」
ありがたい。追い出されるかと思っていたから、手続き用の部屋があるのはすごくありがたい。
何はともあれ、手続きさえ終われば、晴れて俺も冒険者だ。きっとここで、才能が開花して『真の勇者』とか言われるのだろう。想像するだけで楽しみだ。
「ねえ、タイガ? 何をニヤニヤしているの?こんなに美しく、かわいらしい私と一緒の部屋だからって欲情しないでくれる?」
「しっ、してねーし!」
こんなやつに罪悪感を感じた俺がバカだった……
何はともあれ! まだまだ俺の異世界ライフは始まったばかりだ!
【あとがき】
見つけて読んでくださった皆様ありがとうございます!
これから完結までお付き合いしていただけるととても嬉しいです!これからよろしくお願いいたします!
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