9-2
「カルパッチョは諦めて……次はパンケーキを作るわよ!」
すごく諦めが早い。このポンコツでも、もしかしたらパンケーキなら作れるかもしれないな。
「……」
「ん? どうしたんだ? 早く作れよ。」
レイは首を傾げる。
「どうしたんだ?」
「女神に伝わる魔法があるのよ。パンケーキを作る魔法が……」
そんな魔法あるのか!? 女神ってどんな生活してるんだよ。
「思い出したわ!」
そして、レイは謎の詠唱を唱えて、フライパンへと人差し指を向けた。
すると……パンケーキがフライパンから生み出された。
「おお!」
「ふん! これが女神の力よ!」
パンケーキは無限に生成され続ける。
「……なあ、レイ? パンケーキの溢れ出す勢いが一向に収まらないんだけど?」
「あ、そうだった。この魔法は発動すると十分間は止まらないわ! 一秒に一個パンケーキが生成されるから――」
「六百もパンケーキ食べられるか!」
すでに台所はパンケーキパニックだ。四方八方どこを見てもパンケーキで埋もれている。
そこにモルティナがやってきた。
「いい魔道具が入ったんで――ええ!? だ、大丈夫ですか!?」
「助けて……」
モルティナは二つ魔道具を取り出して、パンケーキを吸い込んだ。
「パンケーキを魔道具で収集したので、もう大丈夫ですよ! こっちの魔道具で魔法を強制終了させましたので!」
やはり、頼りになるな。
「ところで、このパンケーキ貰っていいですか?」
「あ、ああ。俺は構わないぞ。」
「私もいいわよ!」
……お前が始めたのにいいんだ。
「お店のおやつ用に貰ってきますねー!」
モルティナはルンルンで帰っていった……何しに来たんだ?
「タイガさん。私、そろそろ本気出すわ!」
「おう、期待はしてないけど頑張れ。」
すると、玄関が開いた音がした。
「ただいまー!」
どうやら、ルクスが戻ってきたみたいだ。
「タイガくんたち何してるの?」
「女神たる私が直々に料理してるのよ!」
「へ、へえ。そうなんだ。」
「俺は心配だから見張ってるだけだ。」
「僕も少し見ていこうかな!」
見物客が一人増えた。
「で、次は何作るんだ?」
「カレーよ! カレーなら作れると思うの!」
レイは手際よくカレーを作っていく。これは期待できそうだ。
「レイさん、結構できてるじゃん!」
あとは煮込むだけだ。ここまで来たら、もう大丈夫だろう。
「じゃあ、俺は少し離れるからちゃんとやっておけよー」
俺はリビングへと移動し、ソファーに寝転がった――そのときだった。
ぼんっ、と台所から嫌な音がした。
「た、タイガくん! 早く来て!」
ルクスが壁からひょっこりと顔を出して、そう言った。
「お、おい! 火事になってんじゃねえかよ!」
鍋が火を吹いている。これは非常にまずい。
俺は急いで消火した。
「まじ危ないところだった……何があったんだ?」
「えっとね……レイさんが『煮込むのって面倒くさいから時短しましょ! しかも、これなら一晩寝かせたような味になるわ!』とか言って、いろんな魔法をかけたら――ぼんってなったんだよね……」
容疑者は横でこくりと頷く。
「お前……料理禁止に――」
いや、ここで禁止にしていいのだろうか? ここまでの彼女の頑張りは俺たちのためだ。ズレてはいたけども――
「はあ、仕方ねえなあ……一つだけ教えてやるよ、料理の作り方。」
レイの曇っていた顔が一気に明るくなった。
「あ、僕はさっきの爆発で汚れちゃったからお風呂入ってくるね!」




