9-1
ルクスとカグラがパーティーに入ってから一週間経った頃、それはポンコツ女神様のひょんな一言から始まった。
「私、お料理がしたいの!」
「……は?」
「だから、私も料理をしようと思うの!」
すでに嫌な予感しかしない。
「なんのために料理するんだ?」
「みんなに完璧なディナーを食べてもらうためよ! 女神の従者たるもの、料理は完璧なものを食べてもらいたいの!」
勝手に従者にされたのはアレだが……まあ、仲間を想ってのことなら、たまには手伝ってやるか。
「ちなみに何を作るつもりなんだ……?」
レイは顎に手を置いて考える。
「まあ、まずはカルパッチョね! 名前の響きが面白いし!」
なるほど、謎すぎる理由だ。
「ちなみになんだけどさ、食品は?」
「チッチッチッ、甘いね、タイガくん。今日の私はいつもと一味違うの。なんと、もう食品は用意してあります!」
これは驚いた。今日の女神は本気みたいだ。
てっきり、いつもみたいに、『あ、材料忘れた!』とかのオチかと思っていたが、違うみたいだ。
「ほら、見て!」
ドンッ、とレイが台所のテーブルの上に並べたのは――
「……なあ、これ、魚か?」
それは、青く発光している魚のような"何か"だった。尾が二本あり、時々ピクピクと動いている。
「そうよ! ルミナスフィッシュっていうの! 新鮮なほうが美味しいって聞いたから、泳いでるのをそのまま持ってきたわ!」
あまりにも新鮮すぎる!
「ん? なんか……視線を感じるんだが?」
魚の瞳が、ギョロリと動いた。
「……おい、レイ。これ、生きてね?」
「大丈夫! 神聖魔法で"しっかり消毒"してあるから!」
「もしかして、消毒と蘇生の魔法、間違えたんじゃないか!?」
――次の瞬間、魚が光り輝き、台所が一瞬で水浸しになった。
「か、カルパッチョが泳いでるううう!!!」
「んなわけあるかあ!」
「な、何事だ!」
外から帰ってきたカグラが走ってきた。
「魚が! 魚があ!」
レイが喚く。
「た、頼んだ!」
「ま、任せてくれ!」
グオン!
カグラの鉄球による一撃でお魚さんは息を引き取った。
「カグラはあっちに行っててちょうだい!」
こいつ、助けてもらったくせに最低だ。
「何をやろうとしてるのかはわからないが……わかった。自室にでも篭ることしよう。まあ頑張ってくれ。」
カグラが立ち去ると、レイは魚へと手を向けて――
「次はちゃんとかけてやるわ! 神聖魔法で無菌にしてあげる!」
すると、魚が光り輝き…………ぱっ、と消滅した。
「魚ごと消滅したんだが?」
「それはきっと、近くのドブ川で獲ってきたやつだからね!」
──その説明で全部合点がいくのがまた何とも言えない。




