プロローグ-2
「――そう、俺は爆発に巻き込まれて……」
悔いのない人生だったか……悔いしかない人生だった。
「遠藤大我さん。残念ながら、あなたは魂が抜けてしまいました。」
後ろから声が聞こえた。その声のほうをみると、俺と同じか、少し年下かのように見える少女が座っていた。その少女はアイドルのような可愛らしさと、清楚な美貌を持ち合わせている。透き通るような美しい瞳に、薄い灰色の髪、そして、整った顔立ちに体格をしている。
「私は、若くして死んだ人を導く女神。名をレイと言います。そして遠藤大我さん、あなたには今…四つの選択肢があります。」
その少女は美しくも可愛らしい声でそう言った。
「……四つ?」
「一つ目は魂を体に戻すこと」
「いや、俺……爆発で死んだんじゃ?」
「いえ、真横で割れた風船に驚いて魂が抜けただけです。ーーただ、体はほぼ死んでますけど」
「…………」
……恥ずかしい。
死因が風船って、歴史に残る黒歴史じゃないか。
「ちなみに、あなたの魂が抜ける瞬間を多くの人が目撃しています。今ごろ救急車で病院に運ばれて――」
「やめろ、もういい!」
レイはプルプル震えながら笑いを堪えている。
この女神、性格悪くないか?
「二つ目は天国行き。でもつまらないわよ? ある意味では地獄。」
逆に気になるのだが。
「三つ目は記憶を消して日本に転生。ただし、今までの経験は全リセット。」
「なるほど。で、最後は?」
「――とっておきの四つ目。《異世界転生》よ! 異世界なら、誰でもヒーローになれるわよ! アンタ、ヒーローとかゲームが好きでしょ?」
来た。ラノベ定番のやつだ。
チート能力を貰って無双する、あの夢のプラン。
「しかも、今なら記憶も身体も引き継げるの! 言語も女神パワーで即習得! さらに! 日本での善行ポイントに応じて特殊能力や武器もプレゼント!」
通販や勧誘を見ている気分になってくる。
だが、俺の心は完全に踊らされていた。
「俺のポイントは?」
「三十。だいたい平均ね」
悪くない。
……と思ったら、レイが顔を曇らせた。
「ただし――マイナス七百点です」
「は、嘘だろ!?」
「理由は……不登校の動機が“面倒だから”判定、あと親への感謝不足ポイントでドーンと減点」
そんなシステムある!? こんな不明確な採点基準で俺は大減点されたようだ……
「歴代最低点よ! おめでとう!」
全然おめでたくない。
「でも安心して。マイナスでも能力は貰えるわ。ただし、どれも中途半端だけどね」
俺はレイから手渡されたパンフレットのようなものを開く。そこにあったのは、《芸能の才》や《動物と話せる》など、あまりなくてもいいけど、あると嬉しい…そんな能力ばかりだ。武器に関しては《一度だけ強い斬撃を放てる剣》など、ないよりはマシ程度のアイテムだ。
「ねー、早くしてー…まだ今日のシフト終わりじゃないのー。それにあなたには期待してないからー、早くしてー、どうせすぐ死ぬでしょー?」
レイはゲームをやりながら、俺にそう言う。
こいつに痛い目を見せたい。そう思っていると、パンフレットに一際目を引くものがあった。それは手書きで書かれていた《女神・レイ》…と。
「これでお願いします。」
俺はレイの名が書かれたところを指す。
「うん、わかったわ。それでいいのね?」
「ああ、問題ない。」
そのとき、天井がパアッと光った。
「…レイ様、私が業務を引き継ぎますので安心して行ってきてくださいね!」
「――え?」
レイは俺の指先を見た。
「…ねえ、前見たときはそんなものなかった気がするんだけど…」
「だって、レイ様が…『こんなマイナスになる人はろくでもない人だと思うの!だから、私が手助けしてあげようかしら!』とかお酒を飲みながら言ってたじゃないですか。」
「…冗談に決まってるじゃない! でも、これを書いたのはアンタでしょ!?」
「……いえ、レイ様です。」
レイは途端に黙った。どうやら、レイは自ら選ばれる "道具" になったようだ。
「それではレイ様行ってらっしゃいませ。」
「…とのことだ、女神。行くぞー。」
「…ダメだからっ!絶対に私は行かないからーっ!」
レイは泣き喚いた。そんなの関係ないと言わんばかりに、レイの代役女神は右腕を前に出した。すると、俺の下に魔法陣が現れた。
「おお! すげえ!」
興奮する俺の真横で、レイは暴れ、泣き喚く。
「いやあああああ! 絶対に行きたくないーっ!」
おもちゃを買ってもらえなかった子どもを彷彿とさせる暴れ方をするレイに対して、本当に女神なのか、と疑念を持ってしまうくらいだ。
「――遠藤大我! あなたは、自分自身で選んだ道具…いえ、仲間と共にこの世界を"脅威"から救うーーヒーローになるのです! 我々女神一同応援しております! …では、レイ様行ってらっしゃいませ!」
俺とレイを囲っていた魔法陣が光り出す。そして…




